SDGs達成に向け日本が目指す「Society5.0」とは?わかりやすく解説
「Society 5.0(ソサエティ5.0)」──SDGs(持続可能な開発目標)と関連して、記事などで紹介されることの多いワードだ。この「Society 5.0」は、日本が目指す未来の社会の形を表したもので、国の政策のなかで示されている。「政策」と聞くと、自分とは少し遠いもののように感じられてしまうかもしれない。しかし、この「Society 5.0」は未来の日本の暮らしをより良くしていくための「道しるべ」のようなものであり、実は、私たち1人1人の未来に深い関わりがあるのだ。
なぜSociety「5.0」なのか?SDGsとの関わりは?具体例は?今回はそんな疑問を解消すべく、「日々の暮らしとの関わり」という視点から「Society 5.0」を読み解いていく。
目次
01. そもそも「Society 5.0」とは?「5.0」って何?
日本政府が策定した『第5期科学技術基本計画』(2016年1月閣議決定)では、Society5.0を次のように定義づけている。
Society5.0
=サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)
つまり、最新技術を活用することで、私たちの暮らしをより快適にしつつ、地域間の格差や気候変動といったあらゆる社会課題の解決を目指すのが、Society 5.0なのである。
内閣府は、社会のあり方を5つの段階に分けて説明している。1つ目は狩猟社会(Society 1.0)、2つ目は農耕社会(Society 2.0)だ。これに続き、産業革命以降の工業社会(Society 3.0)となり、現在はインターネットの普及などにより4つ目の情報社会(Society 4.0)の段階にあるのだという。
現在の情報社会(Society 4.0)には、文字通りありとあらゆる情報が存在しており、とても便利だ。しかし、情報が多すぎるために、「必要な情報や正確な情報を見分けるのが難しい」「地域や世代間で、共有される情報の量や質にばらつきがある」など、課題も多く残されている。
このような現在の社会(=Society 4.0)の課題を、AIやIoT、VR、ブロックチェーンなどの最新技術を活用しながら解決していこうとする「未来の社会のあり方」こそが「Society 5.0」なのだ。
02.「Society 5.0」が目指す未来は?SDGsとの関わりは?
「Society 5.0」が目指すのは、SDGsでも提唱されている「誰一人取り残さない」社会を実現することだ。そのために、最新のテクノロジーを活用し、人々の快適な暮らしとあらゆる社会課題の実現を目指している。
具体的には、
・AI活用により、膨大な量のデータを正確に読み解く
・AI活用により、様々なシステムの効率化・最適化を図る
・最新技術を活用し、言語などによる分断をなくす
・最新技術を活用し、障害や年齢による行動の制限を取り払う
といったことを行っていく。
03. 私たちの暮らしはどう変わる?「Society 5.0」が描く未来像
経団連が手がけた下記の動画では、Society 5.0が目指す未来像が描かれている。
▷「20XX in Society 5.0~デジタルで創る、私たちの未来~」(ショートver.)
動画内には、「日本から海外の患者を遠隔で治療する」「即時通訳をしてくれる機器を耳にかけることで、違う言語話者どうしでもタイムラグなく話ができる」「車いすの男性が、VRゴーグルセットを使って、仲間たちと一緒にボルダリングを楽しむ」といったシーンが登場する。あらゆるモノがインターネットに接続され、最適化されることで、年齢や国籍、障害の有無に関係なく快適でシームレスな暮らしを送ることができる。それが、経団連の提示する「Society 5.0」の姿だ。
このように、人々を分断する要因となってしまっていた物理的距離や言語の違い、個人の行動範囲を制限する一因となっていた身体的な特徴や障害などを、AIやIoTといった技術を利用しながら乗り越えていくのがSociety 5.0における暮らしの特徴である。
4.Society5.0で解決を目指す社会問題
ここからは、Society5.0でどのような問題をどんなふうに解決しようとしているのかを見てみよう。
医療・介護・福祉
少子高齢化が進む日本では、医療・介護の現場での人手不足が深刻になるのでは、と心配されている。「Society 5.0」ではオンラインでの遠隔医療や介護現場でのロボットの活用などを促進することで、こうした問題を解消しようとしている。
・オンライン診療サービスの充実
・遠隔操作が可能なカプセル型ロボットを利用した手術の実施
・介護ロボットの導入
・介助者の力仕事をサポートするロボットアーム等の利用
・カメラを使った、一人暮らしの高齢者の見守りシステム
・「健康状態を診断し、個々人に適したエクササイズを提供するデバイス」等による、病気を未然に防ぐためのサービスの導入
食糧問題
高齢化が進んでいる農業では、最新技術を使い、少ない人数で、適切な量を生産する「スマート農業」を進めることが、人手不足や食糧供給の問題の解決策になる、と期待されている。
また、データ分析により、食糧生産量や収穫量、収穫時期、個人の食事量などを最適化することで、より効率的に食品ロスを削減することが可能になる。
・AIによる最適な土地開発・利用方法の提案
・畑の状態をモニタリングし、最適な生産量、収穫量などを分析するシステムの導入
・食品の長期保存を可能にするスマート冷蔵庫の開発
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移動
日々の生活に欠かせない「移動」の分野。これまでは、公共交通機関や民間サービスの普及に差があり、都市・地方間で移動のしやすさにばらつきがあった。Society 5.0では、地域ごとに差のない、シームレスで効率的な移動が可能になる。
・車両が道路の混雑状況などを分析し、最適な自動走行を行うことで渋滞や事故を減らすことができる
・カーシェアや公共交通の組み合わせでスムーズな移動が可能になる
・高齢者や障がい者でも自律型車いすで楽に一人で移動できる
働き方・学び方
テクノロジーの利用がさらに活発になっていく世界では、教育現場においてもこれまで以上にテクノロジーを活用・普及させ、子どものうちから情報リテラシーを身に着けることが必須になる。
・場所にとらわれず、授業を行うことが可能に
・デジタルデバイスを活用することで、個々人の認知特性や理解度に合わせた授業が可能に
・VRなどを利用し、様々な場所の見学や体験学習、ロールプレイング等が可能に
・最新技術を活用することで、場所や時間に縛られない多様な働き方ができるようになる
・都市部の人材と、地方企業とのマッチングがしやすくなる
・人手不足の業界が、より広い地域に向けて採用活動を行うことができる
・危険な場所にはロボットが立ち入って、遠隔操作する等が可能に
・リモートによる伝統工芸技術の伝承
環境問題
Society 5.0では、AIなどを活用し、エネルギー、物流、生産など様々な分野で効率化・最適化を行うことで、環境問題へアプローチしていく。
▷温室効果ガスの排出削減
・最新技術により、安定的で無駄のないエネルギー供給を可能にする
・水素エネルギーや電気自動車(EV)等を活用したエネルギーの地産地消、地域間でのエネルギーの融通
・AIなどを活用しながら、家庭の省エネを進める
▷スマートシティの実現
Society 5.0では、取り組みの一環としてIoT(Internet of Things:モノのインターネット)の先端技術を用いた持続可能な都市、「スマートシティ」の実現を掲げている。
・省エネの促進
・再生可能エネルギーの活用
・自動運転などによる交通の最適化
・エネルギー生産、供給の最適化
・物流の最適化
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このようにSociety 5.0では、人とモノがつながることで「必要なモノやサービスを、必要な人に、必要な時に、必要なだけ提供できる」ようにすることで社会問題を解決しようとしているのだ。
5.「Society 5.0」の今後
「Society 5.0」は日本政府が2016年1月に閣議決定した政策だが、政府の力だけでは到底、実現できない。そのため、多くの企業や教育機関が協力しながら実現に向けて活動を進めている。経団連のウェブサイトTheater5.0には、各企業の「Society 5.0」やSDGsの実現に向けた活動の紹介動画がまとめてあるので、興味のある方はのぞいてみると良いだろう。
今後もこのように様々な技術革新を利用し「Society 5.0」を目指す流れが続いていくと予想される。そんななか、私たちが忘れてはいけないのは「Society 5.0が目指すのは、あくまでも『人間が主体の社会』である」ということだ。
時に私たち人間は、新しい技術を開発したり取り入れたりすることに夢中になって、その技術を使う人が本当に幸せになれるかどうか十分に議論するのを忘れてしまうことがある。テクノロジーの利用や社会システムの変更は、人々がより安全により豊かに暮らすため、そしてこれまでの制度から零れ落ちてしまっていた人々を救い、持てる者と持たざる者の格差をなくすための「手段」だ。なんでもIoT化すれば良い、というように投げやりな改革を行うのではなく、そのときの世界情勢や人々の暮らしを見ながら、本当に人々が幸せになれるシステム改変を行っていく必要があるだろう。
【参照サイト】Society 5.0とは | 内閣府
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