まだ食べられるのにも関わらず捨てられてしまう食品ロスは、日本だけで年間612万トンにものぼる。これは世界食糧計画が世界で飢餓に苦しむ人々に配る食料の1.6倍にもなり、国民一人当たりに換算すると、毎日お茶碗一杯分の食べ物が捨てられていることになる。
そんな中、3人の大学生が始めた、食品ロスを解決するためのプロジェクトがある。廃棄されてしまう茶色いバナナを救う「大人なバナナ」プロジェクトだ。「大人なバナナ」とは、熟して皮が茶色くなったバナナのことを表す。
「大人なバナナ」というユニークなネーミングと身近なフルーツに着目した点が話題を呼び、Z世代を中心に活動の認知度は高まっている。このプロジェクトを始めたのは、現役大学生の北本真唯さん、北川桃子さん、中䑓千智さんの3人だ。どんな想いで活動しているのか、3人に話を聞いた。
身近で等身大の解決策
大人なバナナプロジェクトは、大人なバナナを多くの人に食べてもらうため、バナナケーキを販売するイベントの開催やサステナビリティ関係のイベントでの講演、バナナスイーツのアイデアのSNS発信など、幅広く活動を行っている。
昨年の秋にはクラウドファンディングを行い、より多くの人に身近なバナナをきっかけに、食品ロスや環境問題を考えてもらうためのイベントを開催。東京・豪徳寺のカフェ「FIKAFABRIKEN」で、普段捨てられがちな茶色いバナナを使った「“大人”なバナナケーキ」を販売した。
イベントでは3日間で200個のケーキを販売し、100本の“大人な”バナナを救った。中学生から社会人まで幅広い世代が訪れ、食品ロス解決を身近に感じるきっかけになったという。
Q. 食品ロスやバナナに関心を持ったきっかけは?
真唯さん:幼少期にタイに住んでいて、貧困問題を間近で見たことで社会課題に関心を抱き始めました。スウェーデン留学中に、スーパーのゴミ箱に捨てられている食べ物を拾う活動をする中で、たくさんの食べ物が捨てられているのを自分の目で見たのです。世界には満足に食べられない国もある一方で、ある国では大量の食料廃棄が出ていることを知り、問題意識を抱きました。
桃子さん:私は高校で飢餓問題を勉強したのですが、ある国では飽食が起きているのに、別の国では飢餓が起きていることに衝撃を受けました。それからスウェーデン留学中に真唯と出会い、ゴミ箱に捨てられている食べ物を実際に見て驚いたんです。
千智さん:高校の時、環境問題をファッションで解決する活動を始めました。そこから興味を持って、アメリカの大学に留学したときにもサステナビリティを広く勉強していました。帰国して何かやりたいと思ったときに真唯に声をかけてもらったんです。捨てられてしまうバナナでケーキを作るのは、自分に合った等身大の解決策だと思いました。
食品ロスを減らすために大切な「五感」
Q. バナナのアイデアは元々どこから?
真唯さん:スウェーデン留学の際にゴミ箱から食べ物を拾っていた際に、バナナが一番多かったところがきっかけです。実はバナナは、日本で一番消費されていて、かつ海外から輸入されている果物なんです。廃棄されるバナナは食品ロス問題だけではなく、地球温暖化にも影響を与えています。廃棄の際に温室効果ガスを排出するだけではなく、原産国での生産、輸入に至るまでにたくさんのエネルギーを消費しています。海外からわざわざ輸入されているのにもかかわらず、見た目だけで捨てられてしまっているのがもったいないと思い、日本で活動する意義があるのではと思いました。バナナや果物は、賞味期限が記載されていないため、匂いや見た目から、自分の五感を信じることが大切だとスウェーデン人の友達に教えてもらいました。
Q. 大人なバナナの魅力は?
真唯さん:実は「大人なバナナ」は、甘みが増しているので、バナナケーキを作るときには砂糖が少なめでも大丈夫ですし、混ぜやすくもなります。栄養素も豊富で、胃潰瘍抑制効果や免疫効果が期待できると言われています。
また、バナナは粘り気があるので、卵を使わなくてもケーキがふっくら焼けるので、ビーガンの人にもぴったりです。
バナナで社会課題を身近に
Q. 大人なバナナの活動を通してどのような意見があったか?
真唯さん:スーパーに行ったときに、成熟したバナナを買うようになったという声がありました。あとは、イベントに来てくれた中学生の子が『社会課題と言われると大きくて自分に何ができるかわからなかったけれど、バナナを通して身近に感じることができました』と、言ってくれたのが嬉しかったです。
Q. 今後の計画は?
真唯さん:現在、大人なバナナの歌を作曲家の方と作っています。子どもたちに楽しく大人なバナナを知ってほしいと思い、始めた活動です。完成したら、幼稚園で紹介したり、食料問題について考える10月の食料デー月間で活用したりすることも考えています。
私たち3人は今大学4年生で、来年には就職してしまうので、自分たちがいなくても大人なバナナが広まる状態を作りたいです。バナナケーキを広めておけば作ってくれる人がいるし、歌が広まれば更に大人なバナナのことを知ってくれる人が増えるので、今はシステム作りを進めています。
Q. オススメの食品ロス削減方法は?
桃子さん:これはもう、大人なバナナをまず買いましょう!
真唯さん:スーパーの見切り品コーナーにある食品で料理をして、アレンジを楽しむのも楽しいです。それから、バナナは黄色という固定概念がありますが、バナナの絵を描くときに斑点をたくさんつけてイメージを変える、といったことも大事だと思っています。
千智さん:大人なバナナで作れるオススメのスイーツは、バナナケーキに加えて、夏はスムージーやアイスクリームも美味しいです。バナナを冷凍して、それをスムージーメーカーで、きなこや豆乳と一緒にミックスするとアイスクリームができます。
仲間と「楽しく」社会課題を解決
Q. 社会課題解決に大切なことは?
真唯さん:やはり楽しく社会課題を解決すること、仲間を増やすことが大事だと思います。
千智さん:そうですね。私たち「大人なバナナ」は、NPOを立ち上げたわけではなくて、この3人のグループの名前が“大人なバナナ”になって楽しくやっているだけなんです。今も「食品ロス」をテーマに取材してくださっていると思うのですが、改めて「そういえば私たちは、食品ロスのことをやっているんだ」と、ハッとしたんです。社会課題に取り組んでいることを忘れてしまうくらい、ただ楽しく没頭しています。
桃子さん:「食品ロスを無くすぞ」という大きなことではなくて、ただ「バナナが捨てられちゃう。食べなきゃ!」「もっとみんなに知ってほしい」という感情で動いている気がします。強制感が全然ないからこそ、この活動はやっていて本当に楽しいです。
真唯さん:私たち3人の性格が違いすぎて、そこはすごい上手くいったポイントかもしれません。一人で食品ロスと向き合うよりは、仲間を見つけて楽しく取り組むことが継続の秘訣だと思います。
編集後記
茶色いバナナのおいしさを発信する「大人なバナナ」プロジェクト。「活動していて本当に楽しくて」という言葉が印象に残るインタビューだった。レシピを作るときの思い出話など、笑顔を見せながらお話してくれた様子からも、3人が日頃楽しく活動していることが伝わってくる。
「仲間と楽しみながら」「身近なところから」。シンプルだが、これらは社会課題に取り組む方の多くに共通することのように思える。何か行動を起こしたいと思ったら、友人や家族に話してみて、“楽しむ”ことを大切に、身近なことから始めてみるといいかもしれない。ちなみに、バナナケーキを作るなら、おいしく作るコツは以下の3点だそう。
・材料を入れる順番を守ること
・バターを完全に溶かさずにペースト状で使うこと
・甘く熟した「大人なバナナ」を使うこと!
今夏、ぜひ試してみてはいかがだろうか。
【参照サイト】 食品ロス削減関係参考資料(消費者庁消費者教育推進課食品ロス推進室)
【参照サイト】 CAMPFIRE 大人なバナナプロジェクト