毛皮製品は、丈夫なだけではなく、柔軟性や通気性、保温性にも優れる万能な素材だ。そのため、長い間人々はこれを衣服や日用品に利用してきた。素材となる皮革は、言わば食用の肉を取った後の有効活用。先人たちが命をつなぐための営みの一部だった。
一方で、大量生産・大量消費が加速してきた近代以降は、毛皮を取ることのみを目的として動物たちが飼育されることが増えた。そして、その飼育環境が広さや衛生的な観点から動物たちにとって劣悪である場合が多いことが、数々の動物愛護団体から指摘されている。また、毛皮をなめすためには六価クロムやホルムアルデヒドといった薬品が使われるため、その処理が適切に行われていない地域では環境汚染や健康被害が発生している。この事実を知ったとき、果たしてどれだけの人がファーを着たいと思うだろうか。これは現代社会の抱える大きな課題だ。
そんな中、カナダ製の防寒ダウンジャケットで知られるファッションブランド「Canada Goose」(以下、カナダグース)は2021年6月、製品への毛皮の使用を2022年末までに取り止めることを発表した。ダウンジャケットがトレードマークのブランドであるカナダグースが毛皮を使わなくなるというのは、ビッグニュースだ。
この企業方針の決定には、アメリカの動物擁護団体であるPETAとその関連団体などによる長年の毛皮使用への反対運動が背景にあり、両者は10年にも渡る法廷闘争を繰り広げてきた。今回の同社の決定をPETAは歓迎し、動物保護団体「Humane Canada」のCEOであるBarbara Cartwright氏は「カナダグースの率先的な取り組みを称賛します」と述べている。
毛皮製品の使用をやめようという動きは、近年ファッション業界で広まりつつある。たとえば、プラダやグッチ、ヴェルサーチェなどの高級ブランドはすでに毛皮の使用を止めている。また、ロンドンファッションウィークでは、ランウェイを歩くモデルが毛皮の服を着用することを禁止している。
素材の環境に与える影響の点から賛否両論はあるが、現代では毛皮に変わるフェイクファーや化学繊維などの新たな素材が開発されているため、毛皮を使わなくても防寒はできる。ファッション業界の変化を受けて、私たち生活者も、エシカル消費を意識し、動物の命を犠牲にせずにファッションを楽しめる未来をつくることに貢献していきたい。
【参照サイト】Canada Goose Commits to Going Fur Free
【参照サイト】Leading fashion brand Canada Goose goes fur-free
Edited by Motomi Souma