精神疾患(メンタルヘルス)は、今や珍しい病気ではなくなりつつある。世界保健機関(WHO)によると、世界では8人に1人、約9.7億人が、こころの病気で苦しんでいるという。
精神疾患者が増えているなか、精神科、心療内科の医師は、診察において2つの課題を抱えていると、メンタルヘルス診断ツールの製作を行うThymiaは言う。1つは、管理業務に多くの時間をとられ、患者と向き合う時間が短くなってしまうこと。それから、従来の精神科の診察では、医師の主観や先入観が介入するケースが多く、患者を適切に、客観的に診察できていない場合があることだという。
この2つの問題を解決すべく、イギリスのスタートアップ・Thymiaが開発したのは、ビデオゲームを通して、患者の細かな精神状態を把握しやすくなるサービスだ。
まず、患者はビデオゲームをプレーする。その際、プレー中の顔の表情の変化や話し方のパターン、反応時間などが記録され、その記録をAIが分析し、患者の精神状態を調べられるという。このデータが問診となり、次に患者はデータを携えて病院で医師の診察を受け、治療計画を立てる。
このツールを用いるメリットは、AIに解析させたデータを用いて医師がより迅速、正確、かつ客観的に患者を診察できる点だ。また、患者は治療期間中も継続してゲームをプレーし、日常での体調や精神状態を長期的に記録することで、患者自身も医師も、身体の状態と精神状態をより詳細に理解できるそうだ。
このアプリの開発背景には、創業者のエミリア・モリムパキス氏の経験がある。彼女の友人は、精神科医の診察を頻繁に受けていたが、従来の診察方法では、自殺未遂をするほど彼女が重症だったことを見抜けなかった。それがきっかけとなり、モリムパキス氏は、言語学、認知神経科学、実験心理学の知識を最大限活用したサービスをつくることにしたという。
Thymiaは、機密保持とプライバシー保護には気を遣っており、一般データ保護規則(GDPR)を遵守し、高レベルのサイバーセキュリティ証明書を有することで対応。英国アラン・チューリング研究所が定めたAIの倫理と安全性に関するガイドラインに則って運営されている。現在はアプリを活用する治験者を探しており、国民健康サービス(NHS)と協力関係を築いている。
多くの人がストレスを抱えて生きるいまの社会のなかで、精神的に助けを必要としている人は少なくないだろう。いきなり医師のカウンセリングを受けるのはハードルが高いと感じる人も多いかもしれないが、まずゲームを通して自分の精神状況を把握できれば、適切な治療につながるかもしれない。
このツールを通して、医者が患者と向き合える時間が増え、精神疾患に苦しむ人々がより有効な治療を受けられるようになる可能性に期待したい。
【参照サイト】Thymia
【参照サイト】Mental Disorders – WHO
【参照サイト】The AI-powered system provides an initial assessment before a patient sees a human clinician -Springwise
【参照サイト】London startup Thymia that uses video games to help doctors spot and treat depression picks $1.1M funding
Edited by Tomoko Ito