蹴っても進まない「四角いボール」が表現する、女子サッカーの現状

Browse By

FIFA女子ワールドカップ2023のために、四角いサッカーボールが制作された。通常の球形ではなく、四角(立方体)だ。もしこのボールでプレーしたら、蹴ったボールは思うところには飛ばず、ドリブルもままならないことが容易に想像できるだろう。

Image via Oliver and Willem

Image via Oliver and Willem

この四角いボールは、オリバー・ビニアンとウィレム・スレガースによってデザインされた「UNPLAYABALL」(アンプレアボール:プレーできないボールの意味)だ。非公式ボールであるため、実際の試合で使われることはない。だが、このボールは現在の女子サッカー選手が置かれた環境を代弁している。

アンプレアボールの公式サイトには、以下のような記載がある。「女子サッカーは、実に多くの障壁が立ちはだかっており、対処しなければならない。先入観や偏見による男女間の賃金格差、メディア報道の少なさ、施設の貧弱さなど、数え上げればきりがない。まるで四角いボールでプレーしているようなものだ。不可能だ。このユニークな四角いボールで、私たちは女性や少女たちがピッチに立つたびに直面する問題に注目してもらいたい(※1)。」

今回のFIFA女子ワールドカップ2023で、なでしこジャパンは見事に決勝トーナメント進出を決めた。だが、昨年の男子ワールドカップと比べて、メディアへの露出が少なかったのではないだろうか。ドイツでも、女子代表の試合がテレビで放送されるかどうか、長い間議論が宙に浮いていたという。これが男子代表の試合だったら、テレビ放映権をめぐっての同様の問題は起こらなかっただろう(※2)

また、米メディアCNNの新しい分析によると、2023年の女子ワールドカップに出場するサッカー選手は、昨年のワールドカップで男性が稼いだ額の4分の1しか稼げない。この状況に対し、FIFAのジャンニ・インファンティーノ会長は2023年3月、FIFAが「女子サッカーと平等のための歴史的な旅に乗り出す」と述べ、2026年と2027年にそれぞれ開催される男女ワールドカップの賞金を平等にすることを目指すと付け加えた。だが、本当に実現するかどうかは不明だ(※3)

「男子サッカーの方が女子サッカーよりも優れていて、速く、面白い」というのも、ただの先入観かもしれない。2023年6月にフランスの通信会社オレンジが女子ワールドカップのプロモーションのために公開した動画が話題になった。

約2分の動画の前半では、キリアン・エムバペなど男子フランス代表のスター選手が華麗な技を披露する。巧みな足さばきや、敵チームをすり抜けて鮮やかにシュートを決める。しかしその後で、実はこの動画は編集されていたものだと判明する。実際にこの華麗なプレーを見せていたのは、男子ではなく、女子のフランス代表選手であり、顔や髪などの外見が合成されていたのだと種明かしされる。この映像を見てどう感じるだろうか。

プロのスポーツはビジネスという側面もあるため、今すぐに全てを平等することは現実的には難しいのかもしれない。しかし、勝利に向けての努力や華麗なテクニック、創造的なプレー、戦術の面白さやチームワークの素晴らしさなどスポーツの醍醐味は、本質的には男女差はないはずだ。もちろん、その結果として受けるべき称賛や待遇にも。

※1 UNPLAYABALL (Official site)
※2 FRAUEN-WM: DFB BEGRÜSST EINIGUNG ÜBER VERGABE DER TV-RECHT
※3 CNN: Viral women’s soccer ad uses doctored footage to prove a point
【参照サイト】conceptual square football for women’s world cup challenges gender inequality
【関連記事】写真を通してジェンダーギャップを改善。ゲッティイメージズ ジャパンの挑戦
Edited by Megumi

FacebookTwitter