不安や悲しみを吹き飛ばそう。ヨーロッパを巡る「踊れるキオスク」

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イライラや不安、そして悲しみに襲われたとき、あなたは、どのように立ち直っているだろうか。好きな音楽を聴いたり、スポーツに熱中したり。あるいは、スイーツやジャンクフード、アルコールに手が伸びる人もいるかもしれない。

ストレス解消法には、「踊る」のも選択肢の一つだ。それを体現するのが、英国発の「ダンス・キオスク」である。

ピンクの奇抜なボックスのなかには、8人までが入って踊ることができる。ここでは、死別や離別などで失った人を思い起こす曲をリクエストし、心を癒すイベントが行われる。さらに、ヨガや瞑想のワークショップ、ダンス教室など、人々が踊りながら、その悲しみや不安を吹き飛ばし、幸福を分かち合うことができるのである。この「ダンス・キオスク」はロンドンを皮切りに、ヨーロッパ各地を巡回する予定だ。

ダンスキオスク

Photo by Joe Clark

このユニークな「ダンス・キオスク」は、英国のアーティスト、Annie Frost Nicholson(アニー・フロスト・ニコルソン)氏が、グリーフ・ケア(死別の悲しみを抱える遺族をサポートすること)を支援する団体である「The Loss Project(ロス・プロジェクト)」と協力して作成したものだ。

ニコルソン氏自身も、愛する肉親との突然の別れという悲劇を経験している。母親、姉、姉のパートナーをヘリコプターの墜落事故で失い、父親もその数年後に病で亡くした。しばらく創作活動が途絶えたものの、彼女はその悲しみを追求し、パブリック・アートとして昇華させるようになる。2021年には、「the Fandangoe Whip(ファンタンゴエ・ホイップ)」という旅するアイスクリーム・カーを作り、人々に「アイスを食べて、悲しみを吐き出せる場」を提供するようになった。

彼女は英国メディア・ガーディアンのインタビューで次のように語っている。

「パンデミック以後、人々は、自分たちの(悲しみの)経験を語り、シェアするのに必死でした。しかし今となっては、悲しみを振り払いたい、という思いに変わってきています」

「踊り」で悲しみを振り払う──。近年の研究によれば、それは可能だ。ダンスをすると、脳内ホルモンのエンドルフィンが分泌され、高揚感や多幸感をもたらすことがわかっている。しかも集団で踊ると、より精神状態がよくなり、社会的な連帯感を醸成することにもつながるという(※)

コロナによる制限が緩和されたこの夏は、夏祭りが復活し、盆踊りを行った地域も多かったのではないだろうか。みんなで踊って悩みや悲しみを吹き飛ばし、つながりあう。こうした「踊り」や祝祭は、太古から共同体に存在する知恵であったにちがいない。

英国からの新しい「ウェルビーイング」のアイデアも、私たちの伝統や文化の中に新しい価値を見出している。どんな時代でも、人々が集まり、共に過ごす時間の大切さを再認識することは、私たちの心を豊かにする鍵となるだろう。

Bronwyn Tarr, Jacques Launay, Emma Cohen and Robin Dunbar(2015)Synchrony and exertion during dance independently raise pain threshold and encourage social bonding, Biology Letters (11)10,
【参照サイト】‘People want to shake it out’: dance away the tears at a ‘grief rave’ in a pink disco kiosk
【参照サイト】ANNIE FROST NICHOLSON 公式ホームページ
【参照サイト】The Loss Project公式ホームページ

Edited by Erika Tomiyama

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