1,140万人以上が暮らすブラジル・サンパウロ市。南米最大の都市と呼ばれるこの街は、他の大都市同様に商業施設や居住用の建物が密集している。
そんな街の中心部に旧市街地と西地区を結ぶ全長約3.5kmの高架道路がある。「Elevado Presidente João Goulart(エレバード・プレジデント・ジョアン・グラルト)」高架道路だ。1971年に高速道路として開通したこの道は、今日、大きなミミズを意味するポルトガル語「Minhocão(ミニョカン)」という愛称で親しまれている。
ミニョカンにはいくつかの課題がある。そのなかでも大きなものが、車の騒音や排気ガス。ミニョカンの両サイドには多くのマンションが建ち並ぶため、周辺住民の悩みの種になっている。
そんな問題の緩和に役立っているのが、大規模な交通規制と道路の開放だ。平日は20時から翌朝7時まで車両通行止め、土日祝日は終日車両通行止めにしており、その間は道路が歩行者天国として市民が自由に過ごすことができる。
平日、車両通行止めが始まると人々がこの高速道路にやってくる。ランニングやウォーキング、犬の散歩、サイクリングにスケートボードなど、思い思いの形で広々とした道路を楽しんでいる。ミニョカンの周辺は治安が良くないため、平日は20時から22時までは警備員が利用者の安全を守るため見回りをしている。
さらに注目は土日祝日だ。7時から22時まで「ミニョカン公園」が出現するのだ。この時間帯は、警備員によるパトロールだけでなく、路上に様々な設備が配置される。ベンチや仮設トイレ、スケートボード、インラインスケートやローラースケート用のコーン、また、特大チェスのような遊び道具もお目見え。
さらにユニークなのは、ビーチパラソルとビーチチェアが置かれるところだ。暗くなってからは、白い建物の壁を使った野外映画上映会など様々なイベントが開催される。ミニョカン公園は、散歩にランニング、おしゃべりに読書、さらには水着で日向ぼっこする人など、多くの人たちに親しまれ賑わいをみせている。
サンパウロに暮らす筆者も、平日の夜や週末にミニョカンへウォーキングをしに行くことがある。3.5キロメートルという距離は日々の軽い運動のためにちょうど良い。高架道路の下の道は交通量が多く、リラックスして散歩するのは少し難しいが、車両通行止め中のミニョカンは車の往来を気にすることなく歩けるので楽しい。そして、道が広いので開放感もある。
ミニョカン周辺の建物にはグラフィティの大作がいくつもあり、「青空ギャラリー」「青空美術館」とも呼ばれている。コンクリートだらけの風景に巨大でカラフルなグラフィティ作品が点在しているを眺めるだけで、なんとなく明るい気持ちになるのは筆者だけではないだろう。
開通から50年以上経過したミニョカンに関して、取壊し、改修工事、バス専用レーンへの移行など様々な案が浮上し、2018年にサンパウロ市は「Parque Municipal do Minhocão(パルキ・ムニシパウ・ド・ミニョカン/ミニョカン市営公園)」を計画した。
「ミニョカンをトンネルにし、その上を公園にする」「バス専用レーン、自転車専用レーンと公園の併設」など実現化させるための策が話し合われているが、2021年12月以降、具体的な計画は止まったままとなっている。
ニューヨークのハイラインをモデルに、ミニョカンを緑地化して完全に公園として機能させたいという声が上がる一方、実現にはまだまだクリアしないといけない課題があるのが実情だ。
そんな中、夜間・週末だけ車両通行止めにして、公園のように人々の憩いの場として高架道路を機能させるという取組みは大変面白い。時間限定の公園は今日もサンパウロの人々の憩いの場として、まちの大事な風景の一つになっている。
【参照サイト】Parque Minhocão – Instagram
【参照サイト】Minhocão: edital de reforma não tem prazo de relançamento
【参照サイト】Legislação Municipal
【参照サイト】Companhia de Engenharia de Tráfego
【参照記事】銀座上空の東京高速道路を歩行者天国として開放するイベントが開催
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Edited by Megumi