近年、ウェルビーイングの重要性が認知され、「会話を促すベンチ」や「おしゃべり散歩」など、クリエイティブな方法で自分の気持ちや想いを話したり、お互いの感情を聴いて気持ちを整理したりと、後回しにしがちなメンタルヘルスに向き合うアイデアが増えている。
一方で、どこにも行き場のない感情──悲しみ、怒り、不安、焦りなどを抱えている人もいる。特に、気候変動や政治といった人に共有しにくいトピックに対して不安を抱えている人の中には、身近な人に感情を伝えることを躊躇する人も多いかもしれない。
そんな中、アメリカ・ニューヨークにて気軽でポップに、選挙などに対する想いを共有する「Subway Therapy(サブウェイ・セラピー)」が大統領選挙後に復活し、注目を集めている。文字通り、地下鉄の駅構内で実施されているこの取り組みでは、道行く人たちが、カラフルな付箋に感じていること、思っていることを書き、シェアしていくのだ。
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「今、どんなことを考えている?」という問いに対する答えは、十人十色だ。自分の支持する政党が選挙で負けてしまったことに対する不安、政治家に対する応援メッセージなど、直近の選挙結果に関わるものが多い。しかし、「きっと大丈夫!」「自分自身を大切に」など、ポジティブで、Subway Therapyに参加している人同士で支えあう言葉も目立つ。
アメリカのアーティストMatthew Chavez氏が始めたこの取り組みは、人々がストレスを軽減することを目的とした参加型アート作品である。例えネガティブな感情を持っていても、それを平和的に表現し、共有することができるアイデアだ。付箋に想いをつづるというシンプルな仕組みを通じ、参加者同士がつながり、会話をし、意見に耳を傾け、共感する場を提供しているのだ。
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地下鉄内にテーブルと椅子2脚を置き、通りがかる人が話したいことを何でも話すことができる場所としてはじまったSubway Therapy。2016年のアメリカ大統領選挙後には、付箋がプロジェクトに導入され、今の形に進化を遂げたという。
付箋とペンという身近な文房具と、付箋を貼る場所さえあればどこでも手軽に実施できるこのアイデアはニューヨークに留まらず、アメリカ国内外で実施されている。ウェブサイトやInstagramでは、必要な道具やポイントが紹介されており、開催したい人が簡単に真似できるのも特徴だ。特に重要な「場所選び」については、人がたくさんいる場所であること、迷惑にならないように十分なスペースがあること、安全であることなどのポイントが詳しく解説されている。
テーマとなる問いも自由に設定でき、今話したいと思っているトピックにまつわる声を集めることができる。過去には、「ニューヨークで一番好きな場所は?」「ぶっちゃけ、最近どう?」「あなたを幸せにしてくれるものは?」「去年の自分と比較して、何が変わった?」といった幅広いテーマで、計5万以上もの付箋が集められている。今回の大統領選挙後も、4,600枚以上の声が集まったという。
大きな予算をかけずに、手軽に実施できるSubway Therapyの仕組みは、多くの場所で応用できそうだ。普段は面と向かって聞きにくい意見を集めたり、正直な想いを拾ったりするため、職場や学校でも導入できる。
一方的に声を集めるだけではなく、参加者としてほかの人に励まされることもあるだろう。不安なことがあっても、見えない隣人と助け合うことで、少しだけ日常が楽になるかもしれない。
【参照サイト】Subway Therapy
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