世界中から多くの観光客が集まるフランス・パリは、住民を含む多くの人々が行き交い、車道も常に混雑している。また、近年サイクリストも増加したことで、車と自転車の衝突も問題になっている(※1)。
そんな都心の状況は、決して、安全で環境に良いとは言えないだろう。パリ当局では、かねてから大気汚染の改善と渋滞の緩和をする施策を計画しており、2024年11月4日、パリ中心部に「Zone à Trafic Limité(交通制限区域、以下ZTL)」を設ける政令を発表した。
アンヌ・イダルゴ市長による最新キャンペーンの一環とされるこの新制度は、ルーブル美術館やチュイルリー公園などの名所が含まれている市内中心部4区(5.5平方キロメートルの区域)への自家用車の乗り入れを禁止するものだ。リヴォリ通りやセーヌ川沿いの波止場などZTL内の一部の道路は、すでに歩行者天国になっているという。
しかし、パリの中心部すべてが車両通行禁止になるわけではない。ルモンド誌によれば、ZTLへの自動車乗り入れは、緊急車両、バス、タクシー、医療予約、買い物、劇場訪問など、区域内に目的がある場合に限り可能だ。また、ZTL内に暮らす住民や身体障害者はその対象から除外され、車で通る必要があると認められるものには許可証が発行される。
パリ市役所の統計では、ZTLを通る車の1日35万~50万台のうち、約半分が 「through traffic(別の目的地に行くための通過交通)」で、移動に自動車が絶対に必要なドライバーは全体の30%と推定されている(※2)。パリ当局は、今回の制限措置で都心の交通量が約半分になり、歩行者、自転車利用者、公共交通機関の利用者を優先した街になることを期待しているのだ。
この制度を運用するにあたり、パリ当局は目立つ標識を立てたり、オンラインでの申告システムで無作為に違反者をチェックしたりすることになるようだ。最初の6ヶ月間、ルール違反の車両にはパリ警察が警告のみで済ませるが、2025年5月以降は違反ドライバーには135ユーロ(約22,000円)の罰金が課せられることになる。
これまで、パリ中心部を抜け道として利用してきたドライバーたちにとっては不便かもしれない。また新制度については「渋滞が別の地域に移動するだけ」という声があがっているのも事実だ。
ちなみに、過去10年にわたって“クリーンでグリーンな”パリを目指す取り組みに尽力しているアンヌ・イダルゴ市長は、2024年の11月、Time Magazineの「気候変動対策に影響を及ぼす100人」に選出された。パリの街は新規制による「不便さ」を乗り越え、そこを歩く人、そしてそこを住処とする生き物たちにとって、ますます快適になっていくだろうか。
※1 Après la mort d’un cycliste à Paris, la question des violences routières émerge dans le débat public
※2 Central Paris To Limit Through Motor Traffic From Next Week
【参照サイト】Paris Restricts Through Traffic in City Center
【参照サイト】Central Paris To Limit Through Motor Traffic From Next Week
【参照サイト】Paris drivers warned of fines as city begins limiting traffic in parts of centre
【参照動画】Paris bans through traffic from city centre
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Edited by Megumi