近年、地方の小さな村々では、商店街や個人商店が次々と姿を消し、公共サービスも縮小傾向にある。2021年度の全国商店街実態調査によれば、日本の商店街の空き店舗率は平均14.7%に達しており、地方部に限ると、人口減少が著しい地域ではこの数字がさらに高い傾向が見られる。さらに、商店街の総売上も1991年以降、減少していることが指摘されている(※)。
フランスの地方部でも同様に商業施設が廃業し、住民の暮らしに必要なサービスが大きく減少している。特に、小規模な村々では食料品店やパン屋などの日常的に利用する商店がなくなることにより、住民の日常の買い物が不便になるだけでなく、地域の交流の場としての商店街が機能を失いつつある。「人と人がつながる場」が減少することで、孤立感の増加や地域コミュニティの分断が懸念されているのだ。
住民による新たな取り組みとして、地域の食材を扱う直売所や協同組合型の店舗を立ち上げる動きも見られる。しかし、資金調達の壁に直面するケースが多い。銀行や投資家にとって、地方での小規模事業は「採算が合わない」と判断され、支援を受けることが難しいのだ。
こうした課題に向き合い、2018年に設立されたのが協同組合「Living Villages(ヴィラージュ・ヴィヴァン)」だ。同組合は、地方の空き物件を購入・改修し、それを地元住民や団体に貸し出すというモデルで地方の再生を支援している。目的は利益追求ではなく、地域のために活用される場所を作ることだ。物件購入の費用や改修費用は市民投資家や公共機関からの資金で賄われ、貸し出される店舗の家賃も地域の現状に配慮した「無理のない価格」に設定されているのが特徴だ。
たとえば、フランス中央部、人口580の村ジーブルにある「Chez Cocotte」は、パン屋兼カフェ、そして食料品店を兼ね備えた場所である。周辺の7つの村には同様の店舗が一切なく、この場所が地域住民にとって唯一の商業施設となっている。ここはただの店舗ではなく、人々が集まり、会話を楽しむ場所となっているのだ。ヴィラージュ・ヴィヴァンが物件購入や改修を担ったことで、銀行を介さずに開業が実現し、経営に専念できたという。
フランス南東部のアルデシュ県にあるボッフルでは、かつて閉鎖されていた宿泊施設「L’Auberge de Boffres(オーベルジュ・ド・ボッフル)」が、協同組合の支援でよみがえった。現在はカフェやレストラン、郵便局として多機能を担い、地元住民や観光客が集まる交流の場となっている。
また、同地域で地元資源を活用したビール醸造所「La Machine(ラ・マシン)」では、副産物の麦芽を地域農家の肥料や飼料として提供し、地元循環型のビジネスモデルを展開している。雨の日でも賑わう金曜夜の「地元酒場」は、住民にとって大切なコミュニティの場となっているのだ。
ヴィラージュ・ヴィヴァンの取り組みは、設立以来21件以上のプロジェクトを支援し、地域に新たな価値を生み出してきた。市民投資家の数も年々増え、現在では650人を超えているという。ヴィラージュ・ヴィヴァンの共同ディレクターである、ラファエル・ブーティン・クールマン氏は、「私たちはこのモデルを他地域にも広めたいと考えています。資本主義を否定するわけではありませんが、より時代に即したやり方があることを示したいのです」
とフランスのメディアReporterreに語っている。
ヴィラージュ・ヴィヴァンは無限に成長することや、至る所にその根を広げることを目指しているわけではない。彼らは、自らが熟知する地域、主にオーヴェルニュ=ローヌ=アルプ地域圏に活動を限定しつつ、その実践を広め、ツールを共有することで、他の地域がそれを参考にできるようにすることを目指しているのだ。
地方の小さな村で再び息づき始めたコミュニティ。それは地域住民の力とヴィラージュ・ヴィヴァンの支援によって実現された。利益追求ではなく、地域社会のために機能する場を作る。この挑戦は、地方衰退という課題に対する新たな希望の光となるか。
※ 2021年度 商店街振興に関する自治体実態調査
【参照サイト】villages vivants
【参照サイト】Auberge, boulangerie… Une coopérative redonne vie à des villages moribonds
【参照サイト】地域コミュニティにおける商業機能の担い手である 商店街に期待される新たな役割
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