自然に触れたとき、無性に喜びを感じることがある。夏の冷たい川に足を入れた瞬間や、秋の虫の鳴き声が聞こえたとき、積もった雪に足を踏み入れたとき、そして春の風を身体いっぱいに感じるとき──心が満ちるような感情が生まれるのは、私たちが自然の一部であることを実感するからかもしれない。
岐阜県の郡上市では、この「実感」を「土」が育んでいる。ここでは市民が主体となって行う「コミュニティコンポスト」の取り組みが広がっており、完熟堆肥づくりを通じて、地域の学校や介護施設など、多様な人々をつなぐ役割を果たしつつある。
長良川の源流域であるからこその視点から生まれた、郡上のコミュニティコンポスト。土づくりを通して、地域ではゆっくりと、しかし確かな変化が芽生え始めている。本記事では、そんな郡上におけるコミュニティコンポスト立ち上げのきっかけや、メンバーの想い、運営チームの試行錯誤、そして学校教育・介護施設への広がりまで、その活動の現在地をお届けする。
目次
川と土のつながりと、源流域ゆえの役割
岐阜県の中央部、長良川の源流域に位置する郡上市。豊かな山と川に恵まれた場所だ。地元の人の多くは幼い頃から川に馴染み、日々の暮らしや遊びの中でその恵みを享受してきたという。子どもたちは川に飛び込み、大人はその様子を見守ったり、鮎をとったり……川が生活の一部となっている地域なのだ。
そんなまちでコミュニティコンポストを運営するのが、一般社団法人 長良川カンパニーだ。「源流で遊び、源流を守る」を活動軸として掲げ、源流での体験を通じた法人向けプログラムなどを提供している。
▶️なぜクリエイティブな人たちは、源流域の川で遊ぶのか?川と神経の知られざる関係
では、なぜ川に焦点を当ててきた組織が土づくりに携わっているのか。同社代表の岡野春樹さんに話を聞くと、その背景には日常の中でも川へ飛び込み、その変化を敏感に感じ取れたからこその理由があった。
春樹さん「川に入って鮎をとっていると、段々と川の温度の違いとか、水の味の違いとかが分かるようになって来ます。川の一本一本、それぞれの支流がすごく個性豊かなキャラクターのように感じられるんです。
あるとき、家の前を流れる栗巣川という長良川の支流に入っていたら『なんでここの川、こんなにぬるいんだろう』と、気になり始めました。『田んぼで温められた水が流れ込んでいる影響かな?』と。その理由はいまだに諸説ありますが、一旦田んぼと川の関係を意識しはじめると、地域の田んぼに散布される農薬や化成肥料などが、どの程度川に流れ込んでいるのかが気になり始めたのです。夏場なんて、自分だけでなく仲間や、子どもたちまでほぼ毎日川に入っているわけですからね」
春樹さんは、日々川に接しているからこそ、川がまるで自分の身体の延長のように感じるそう。だからこそ生まれた純粋な問いがきっかけとなり、源流域という川の始まりである土地の役割をより深く捉えるようになっていった。
春樹さん「川の源流域に住む人々の営みそのものが水の成分となって、長良川の下流域を流れる水の性質やそこで生きる人々に少なからず影響を与えることがあります。つまり『どんな水を流して生きていきたいのか』という問いが生まれるのです。これは、源流域に住んでいる人たちの責任だなと思ったんです」
良い水を流して生きるためには、良い土が必要であるはず。そんな想いに共感した郡上市内のメンバーが集まって、コミュニティコンポストの取り組みはスタートした。
コミュニティコンポストは、春樹さんのパートナーである岡野早登美さんをはじめ、有志メンバーを中心に、2021年から長良川カンパニーの活動として始動した。
地域の消費者から生産者になるための、コミュニティコンポスト
郡上市のコミュニティコンポストは、市民主体で管理されているのが特徴だ。各家庭で生ごみを乾燥させて基材に混ぜ、減量させる「一次処理」を済ませ、それを地区の堆肥舎に持ち寄る。そして、参加メンバーで堆肥舎に定期的に集まり、水分調整しながら約4か月かけて発酵させる「二次処理」を行う。そうして完成した完熟堆肥は参加メンバーで分け合い、家庭菜園などで活用している。
自宅で行う生ごみの「一次処理」、落ち葉や米ぬかなどの資材の提供、微生物による発酵を促進する「二次処理」段階での切り返し作業など、さまざまな堆肥づくりの段階で活動に参加することが可能だ。つまり「堆肥はいらないけれどコミュニティ活動に参加し一緒に作業してみたい」という人にも「米ぬかなどの資材なら提供できるよ」という人にも、関わりしろがある。
現在、活動メンバーとして数えているのは「一緒にコンポストボックスを作って堆肥づくりを始めた人」で、46世帯7事業者にのぼる。ただし、この数字では表現しきれない、多様な関わり方で貢献している人が大勢いるのだ。
この取り組みの中心メンバーである早登美さんが、活動をはじめた理由は、郡上に移住して感じた「負債感」であったという。
早登美さん「地域の人たちが野菜を分けてくれたり、玄関先にナスを置いていってくれたり、色んなお恵みをくださるんです。そんなときに、自分がただ消費することしかできていないという無力さを感じました。
そして、こんな自然豊かなところに暮らしているのに、実際は車移動でCO2を排出していたり、暖をとるために灯油を使ったりする。自然からの恩恵を受けていながら、自然を痛めつけているのではないかという負債感も持っていました」
そんな時期に出会ったのが、コミュニティコンポストだ。ちょうど郡上市が2021年に脱炭素宣言を発表し、同時期に長良川カンパニーがコンポストアドバイザーの鴨志田純さんと、サーキュラーエコノミー研究家の安居昭博さんを招いて公共コンポストについての講演会を主催した。このイベントを企画・運営したことが早登美さんにとって消費者から“作り手”になるきっかけとなった。
▶️堆肥作りは、料理作り。公共コンポストで地域を“発酵”させるサーキュラーエコノミー
鴨志田さんが提案する完熟堆肥は、通常のコンポストと比較して悪臭が少なく、虫も集まりにくいと知り、早登美さんは「これならやってみたい」と思い、すぐに友人に連絡をとったそうだ。初めは夢物語として話をしていた中で10人ほどが集まり、完熟堆肥づくりが始まった。
この頃から活動に携わり始め、今では郡上市内の3つの地域舎で活動を率いているのが、大西真子さん、小椋夏菜子さん、進藤彩子さんだ。それぞれ、より良い土づくりや循環型の暮らし、脱炭素社会の実現などへの関心が重なり、今では中心メンバーとして活動している。
当時を振り返ると、はじめの一年は苦労も多かったという。特に、壁土や落ち葉、もみ殻、米ぬかなど堆肥化に必要な資材集めに苦戦したそうだ。
夏菜子さん「子どもが3人いて、一番下の子がお腹にいて6ヶ月ぐらいの時に、翌日のワークショップに必要な壁土がなくて、他に行ける人もいなかったから、山に一人で赤土を掘り起こしにいったりもしました。あれは大変でしたね。」
こうした大変さも、2年目以降、地域との連携が広がるにつれて解消され始める。落ち葉を掃除している地元の人に声をかけたり、知り合いの農家に相談したりと奔走するうちに、完熟堆肥の活動も認知が徐々に広がった。少しずつ、廃材や場所を提供してくれる人や事業者が現れるようになったのだ。
ただ、活動が広がるにつれて、人との関わりも増えていく。関心の度合いには個人差もある中で、どのようにして持続可能なコミュニティコンポストのあり方を模索しているのだろうか。
真子さん「今は、あまり無理をしないようにしています。切り返しや資材集めを地区の参加者全員でやると、活動の頻度が高くて大変でした。だから一年やってみた結果として、一つの活動に3人集まれば良いなど、最低限の労力を算出しています」
こうして、郡上市内でも各地域の事情に合わせて続けやすい方法を見つけている。これまでさまざまな壁を乗り越えて活動を続けることができたのは、日々の作業で感じる喜びが支えになっているという。
夏菜子さん「まずは完熟堆肥を作って、畑で使って、野菜を採って食べることで生ごみを循環させられることが嬉しいと思っています。この活動をしていて一番嬉しい瞬間が、二次処理を仕込んだおよそ1・2日後に、土の温度が60度まで上がるかどうか毎回緊張する場面で、きちんと温度が上がったとき。その感覚があるからやめられなくて。微生物の力はすごいなと思っています」
彩子さん「完成した堆肥を持ってイベントに出席させてもらったとき、完熟堆肥づくりの授業を行った学校の子どもたちが『まだやってくれてるんだ!堆肥舎に遊びにいくね』と言ってくれました。そういうつながりが生まれることが、地域で完熟堆肥づくりに取り組むことの良い点かなと思いました」
友人から徐々に活動の輪が広がり、まさに地域でのコミュニティコンポストが実現しつつある。この光景を目にした早登美さんは、やっとあの「負債感」から抜け出すことができたのだ。
早登美さん「仲間が増えていくことが、とてもありがたかった。季節が回って春になって、苗を植えて、それを収穫した時の子どもたちの笑顔を見るのもすごく嬉しくて、これを続けたいと思ったんです。今までいつも消費者だった自分が、初めて生産者になれた実感がありました」
土づくりで郡上を守る、子どもたちや地域への広がり
活動3年目となる2023年、長良川カンパニーにより地域協議会や市役所と連携して補助金も受けながら、学校環境教育や地域探求の一環として郡上市立明宝小学校で完熟堆肥づくりの授業が始まった。
翌2024年度には、郡上市立白鳥中学校において総合学習の一環として、約90人の生徒を対象に堆肥づくりを主軸とした資源循環教育が始まった。「土壌を育み、川を守る、資源循環教育」と定義づけ、学年や生徒規模に応じた対応した授業を行っている。この教育の実現を後押ししたのは白鳥振興事務所の所長である西村周衛氏だ。西村氏は「地域活性化のためには中学生の総合的な学習の時間が要である」という理念のもと、学校と長良川カンパニーの架け橋となった。
3年間にわたる同中学校の総合学習では、1年生は「郡上を知ること」、2年生は「郡上を守るためにできること」、3年生は「郡上の未来を考えたプロジェクトを作ること」をテーマとしている。この2年生の授業の一部を長良川カンパニーが運営し、環境負荷の高い生ごみの堆肥化に取り組んでいるのだ。
そもそも、外部との連携のハードルが高いであろう学校において、どのようにして、長良川カンパニーのような外部団体と協力した資源循環教育が導入されることになったのだろうか。同校で2年生の学年主任を担当する永田先生はこのように話す。
永田先生「郡上を守るって言われても、何をしたら郡上を守れるのかという具体的なアイデアまで考えることは、子どもたちにとってなかなか難しいです。例えばごみ拾いをしても、それがどう郡上を守ることにつながるのかというところまでは考えが深まりにくい。
今回こうして長良川カンパニーさんと協働することで、郡上を守るための一つの手段として、生ごみから堆肥をつくるというアイデアを取り入れることができました。生徒が実際に体を動かして活動し、郡上を守れるという実感を得られることは大きいですね」
資源循環教育では、環境課題についても学ぶ。すると、課題の大きさに恐怖を覚える生徒も多いという。ただし、その危機感をコンポストの活動につなげることは必ずしも簡単ではない。生徒の間で、生ごみを持ってくることへの戸惑いは大きかったそうだ。
そこで、まずは一回でも生徒が生ごみを持ってくるよう、永田先生自身も自宅から生ごみを持ってきてコンポストに投入した。また、班ごとに重さを測って掲示し、ゲーム要素を取り入れてみたりすることで、少しずつ参加する生徒が増えていったという。
初めのうちは生ごみから距離を取ろうとしていた生徒たちにも、徐々に変化が見られているそうだ。
永田先生「資源循環教育を進める中で、生ごみを堆肥にして、それをどう循環させていくかを考える授業のときに、子どもたちから『地域のために何かしたい』『地域の人に堆肥でお返ししたい』という意見が多く出てきました。
堆肥の温度を測ったり切り返し作業をしたりする当番にも、最初は少し嫌がっていましたが、最後のところは本当に一生懸命取り組む子たちです。前向きに取り組んでくれるのは、やっぱり何かしら自分が地域のために頑張りたくて、郡上を守るためにできることがあると思っているからではないかと感じています」
こうした取り組みを、カリキュラムが定められている学校の現場で導入することは簡単ではない。
永田先生「カリキュラムとのバランスは難しいなと思いつつ、実際にこうして始めてみると、なんとなく自分が勝手に壁を作っていたことにも気づきました。
正直なところ、最初は心配な部分もありました。ただ僕自身が、やっているうちに楽しめるようになってきている気がします。子どもたちが動ける動線やシステムをうまく整えてあげることさえできれば、教員にすごく負担がかかる訳ではありません。『子どもと一緒に動く』という意識が、教員の間にもできてくるといいなと思っています」
一方で、すでに生徒がアイデアを出して資源循環教育をより良くしようとしている。後輩にも完熟堆肥づくりを知ってもらうために、特別支援学校での畑作りや、 小学校での朝顔栽培で使ってもらう案が出てきたという。永田先生は、その発想に驚くと同時に、こうして生徒たちが楽しそうに動いてくれることがモチベーションになっているそうだ。
もう一人、白鳥中学校において資源循環教育の導入を支えた人がいる。同校の武藤裕二校長だ。
武藤校長「僕が地域レベルでの活動が大事だなと思い始めたのが、東北の震災なんです。現地で支援に入って地元の人と一緒に起業した人と知り合ったんですよね。地域に入って一緒に活動することで、地域の人たちも地元の価値に気づいて、地域のためにという感情が湧いてくるわけです。
やっぱり人と会って、一緒に汗を流すという実体験が、人と人をつないで価値観が形成されていくんだなと思いました」
そうした想いが、「実体験」や「地域との連携」を重視したこのプログラムを後押ししている。
武藤校長「持続可能性のテーマで子どもたちと一緒に考えたいのは、それを実現するための、自分なりの見方や考え方。『持続可能な社会は大事だ』と思っていても、何もできない。それを、もっと噛み砕いた、自分なりの概念や精神を一緒に考えなきゃいけない。
子どもたちにアイデアを持ってもらうには、大人である教員が、何年先まで責任を持てばいいのかという範囲をそれぞれが自覚することが大切です。例えば『10年先の社会を考えるなら、今の仕事はここまでやるべきだよね』と」
武藤校長自身も、使われなくなった野球スタンドを堆肥舎にするための解体作業を自ら行うなど、最前線で生徒たちと共に汗をかきながら堆肥づくりに携わっている。そんな武藤校長から見て、生徒たちにはどんな変化が見えているのだろうか。
武藤校長「朝、堆肥舎に行くと、土の温度を測る子がいたり、残食を持ってくる子がいたりします。すると、朝の会話が変わるんですよ。『お〜、お疲れ!』って言えるんです。おはようも大事だけど、おそらく子どもたちはおはようとは違う感覚で受け取っています。自己有用感とか自己肯定感、何かをしたことを認めてもらっている感覚です。
これは、主体性の芽であるはず。これが生まれていることが、変化してきているところかなと思います」
介護施設と連携した堆肥づくりが、「生きがい」を生み出す
完熟堆肥づくりによる循環は、学校以外にも広がっている。市内の介護老人保健施設「ケアポート白鳳」では、白鳥中学校で完熟堆肥づくりが行われる時期に合わせて、食品残渣を回収し、白鳥中学校の堆肥づくりに参画した。
この取り組みは、看護部長の嶋野真子さんの提案によって実現したものだ。関係者も多く調整は難航したそうだが、なぜ嶋野さんは中学校と連携した堆肥づくりに参画しようと考えたのだろうか。
嶋野さん「堆肥づくりに関心を持ったきっかけは、利用者さんたちの言葉なんですよ。『こんなに食べ物を残してしまって申し訳ない』と。食べたいけど、食べられない。そんな罪悪感に近い感覚を、利用者さんたちは持っています。それこそ『米一粒残すな』って言われて育った世代でしょう。残食(食べ残し)が何かの役に立ったらその罪悪感も少し軽くなるんじゃないかなと思ったのが、きっかけでした。
利用者さんたちは色んな喪失体験をしていて、役割や仕事、関係性、社会参加とかを失ってきて入所しています。自分の生きがいとか役割がなくなったように感じている人は多いんです。すると、弱っていくだけの負のスパイラルなんです」
そんな課題を感じていた嶋野さんは、もともと子どもたちを通じて早登美さんと友人であり、ある日コミュニティコンポストの話題になり「残食が地域の役に立てば、負のスパイラルから抜け出せるのではないか」と思いついたそうだ。
実際に残食の回収が行われたのは2週間という短い期間だったが、終了後にも変化が見られているという。
嶋野さん「堆肥づくりに参加するためにやったことは、残食を集めることぐらいだったので、以前と大してやることは変わりませんでした。でも、取り組みを開始して以降、利用者さんや職員が残食を、水分とそれ以外に分けて集めるようになったんです。いつも詰まっていた水受けが、詰まらなくなりました。
そして実は、中学校へ提供するために残食を集めた期間の後も、デイサービスではコンポストを継続しています。今までそういうことに興味が薄かった職員からも、『やってみよう』という声があがったんです。 それってすごく大きなことで、知らないからできてなかっただけなんです。2週間だけだったけど、今でもその効果があるなと感じています」
同施設では、一日45リットルの残食が発生するという。そもそも残食を減らせないのかと思うかもしれない。しかし、食事の量は個人の年齢や身長、体重に合わせて栄養士が計算したカロリーに合わせて提供する。利用者さんは日によって食べられる量に差があることが多いものの、変更が難しい。だからこそ、コンポストは有効な手段の一つだった。
嶋野さんは「ケア施設とか『老い』に対するイメージを変えたい」と語った。コンポストを通じた学生や地域との交流が、そのきっかけになるかもしれないという。堆肥づくりは、郡上で生きる人々の心にも変化をもたらしてゆくかもしれない。
めぐりが見える、地域のための土づくり
完熟堆肥づくりが学校教育とつながった背景には、早登美さんの強い想いがある。郡上に移住する前は小学校で道徳推進教諭として活躍していた早登美さんは、子どもたちの心の状態に関心を持っていた。
コミュニティコンポストを実践する中で、完熟堆肥づくりには道徳教育を通して育みたいものがすベて詰まっていると感じたそうだ。
早登美さん「私は堆肥づくりを通して自然や微生物の働きを知ることで、目の前の一つひとつの自然の中に命が宿っているのだという想像力を持つきっかけをもらいました。声なき自然への想像力があると、人の行動は変わるはずです。身近な微生物や地域の人々と手を取り合うことができたら、自然にも、他人にもより優しくなれると思っています。
郡上に来て学校の外へ目を向けてみたら、自然との関わり方がこんなにもあることを教わって、『これが生きる力だ。これが想像力を育むんだ』と思いました。自然があって、そこに人がいることで生かされる自然もあるっていうことを、知ってほしかったんです」
完熟堆肥づくりが学校教育に導入される中で、その想いを体現する概念も見出すこととなった。それが、Convivial Relationship(コンヴィヴィアル・リレーションシップ:自立共生的な関係)だ。ユネスコの『平和、人権、持続可能な開発のための教育に関するユネスコ勧告』が2023年に改定された際、指導原則の一つとして追記された。
コンヴィヴィアリティとは、個を重視しつつ人々が支え合い共に生きる社会の在り方を指している。ユネスコ勧告では「自立共生的な関係や助け合い、そして帰属意識を促進するために、相互性と思いやりの醸成を通してケアや連帯の倫理を推進すること」
と言及されている。
早登美さんはこれを、コミュニティコンポストに通ずる概念として、大学時代に師事していた永田佳之教授から連絡を受けたという。生ごみの堆肥化で欠かせない切り返しの共同作業や微生物との関わりが、この「自立共生的な関係」に寄与すると捉えているのだ。
だからこそ早登美さんが目指すのは、実感を伴った環境教育だ。その実感を測ることは難しいが、早登美さんは授業で「心の動き」に注目することで子どもたちの変化を感じ、寄り添おうとしている。
早登美さん「私は毎回の授業で『何を感じたか』を聞いています。今まで当たり前に思っていた景色に希望を感じたり、見える風景が面白くなったりしていたら嬉しいです。
そしてやっぱり、元気になってほしい。私も実際に、生きていることへの負債感とか、子育てをしている時の孤独感を持っていたけど、コンポストを通じて人や自然とつながることで本当に元気をもらいました」
郡上市におけるコミュニティコンポストは、市民の関わり方を一つに固定せず、多様な関わり方を内包することで、緩やかなつながりを築き始めている。人々がここに惹かれるのは、自然や人との手触り感のある交流が、心を豊かにするからかもしれない。
自然を再生する試みは、自然を豊かにする。それが人々をも豊かにするのは、人が自然の一部であることの現れだろう。恵みを受けている自然や人へのお返しをしたいという気持ちから始まった、源流域の土づくりは、川を介してつながる他の流域や海だけではなく、地域の中にも変化を生み始めているようだ。
▶︎長良川カンパニーでのコミュニティコンポストの様子はSNSで発信中
公式Instagram:https://www.instagram.com/gujo_taihi/
【参照サイト】平和、人権、持続可能な開発のための教育に関するユネスコ勧告|ESD活動支援センター
『郡上市・資源循環教育プロジェクト』後援:郡上市教育委員会