動物のための“特別な音”でロードキルを防ぐ。日産が「NISSAN ANIMALERT」実証実験を開始

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山道や高速道路を運転している途中、急に動物が飛び出してきて、冷や汗をかいたことがある人はいるだろうか。野生動物が車と接触するなどして道路上で命を落とす事故は「ロードキル」と呼ばれ、少なくとも国道では年間7万件、高速道路では年間5.1万件発生している(※1)

日本国内でロードキルにより亡くなる動物は、犬・猫(29%)、タヌキ(28%)、鳥類(11%)のほか、キツネ、アライグマ、カモシカなど様々である(※1)。世界では哺乳類の成獣の7%、爬虫類の成体の13%が交通事故で死亡しているという推定もあり、野生動物が命を落とす大きな原因の一つであるといえる(※2)

道路は人の移動や物品の輸送など、私たちの生活には欠かせないインフラである一方で、人間以外の動物にとって、危険な場所になり得る。もとは動物のすみかであった森などが分断されると、野生動物は道路を渡らざるをえない。特に、1日に2,500〜1万台が通るような中程度の交通量の道路でロードキルが発生しやすい傾向にあり、都市郊外の里山や、道路・住宅地などの人工物に囲まれた森林では、車に轢かれるリスクが高くなるのだ(※2)。人間の利便性と動物の命の共存は不可能なのだろうか。

この問い対し日産自動車は、ロードキルゼロを目指して、道路を横断する動物たちに危険を知らせる仕組み「NISSAN ANIMALERT(アニマラート)」を開発した。歩行者に車の接近を知らせる、電気自動車の接近通報音から着想を得て、動物に聞こえるよう設計した周波数の音を車から発信。この音を聞いた動物は危険を感知し、車から事前に離れることができるのだ。

これは「NISSAN ANIMALERT PROJECT」という企画にて開発されており、第1弾として、奄美市、環境省、岡山理科大学など7団体が連携し、鹿児島県の奄美大島と徳之島にのみ生息する日本固有種・アマミノクロウサギの保護を目指す。絶滅危惧ⅠB類(近い将来に絶滅の危険性が高い種)に指定されているアマミノクロウサギは、奄美大島に約2万頭生息すると推定されている。しかし、近年のロードキル件数は右肩上がりで、2023年には147件も発生し過去最多となったのだ。

プロジェクトチームはまず、高周波音の特性を分析。その後日産EVにテストデバイスを設置し、動物に危険を知らせるために必要な周波数特性や音圧レベルを満たせるかが確認された。また、アマミノクロウサギの出現が確認されている場所にテストデバイスを設置し、複数の周波数パターンから有効なものを絞り込んだ。

2024年12月からは、テストデバイスを搭載した日産サクラによる走行実験を奄美大島の森林エリア内の市道でスタート。まだ実証実験段階ではあるものの、高周波音のスイッチを入れた途端にアマミノクロウサギが逃げること確認できたという。収集したデータをもとに、通常速度での走行実験を行い、動物たちに危険を知らせるこの活動を継続していく予定だ。

この事例のほかにも、ロードキルを防ぐ取り組みとして、「アニマルパスウェイ」がある。道路や鉄道線路などで分断された森を結び、いわば道路上の動物の歩道橋のようなものだ(※3)。リスやヤマネなどの小動物は、この道を通れば、危険な道路を渡る必要がない。車道の下を通る動物用のトンネル「アンダーパス」や、動物が道路に侵入するのを防止するフェンスを設置している地域もある。

また、動物たちが道路に侵入しやすい場所をデータとして集め、ドライバーに注意喚起を促す事例もある。動物の出没率が高い場所にセンサーを設置し、動物の接近を感知した場合に、ライトで知らせる仕組みがある(※4)。また収集したデータをカーナビに「ロードキル多発区間」を告知できる仕組みの導入を検討しているという。

ロードキルを減らすには、日産自動車のようなテクノロジー活用と同時に、「アニマルパスウェイ」をはじめとした移動を支えるデザインやデータの活用など、複数のアプローチを取り入れることも重要だ。何より、人間中心ではなくほかの生き物の視点も踏まえた社会の仕組みづくりが欠かせないだろう。

※1 令和4年度 国土交通省「落下物処理の実施状況」「高速道路会社の落下物処理件数」
※2 園田陽一・塚田英晴(2023), 野生動物のロードキル研究の日本の状況と課題, 環境共生vol.39 No.2
※3 アニマルパスウェイとは|アニマルパスウェイと野生動物の会
※4 ロードキル問題について|環境省関東地方環境事務所

【参照サイト】日産自動車 プレスリリース
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Edited by Natsuki

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