世界の都市を「小さな森」で再構築するプロジェクト。日本式の植樹で生物多様性の回復へ

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生物多様性の変化は、私たちが日常生活で気づけるほど身近に迫っている。環境省によると、2009年から2020年にかけてスズメやヒバリなどの身近な鳥や、チョウの個体数が減少している。絶滅危惧種の増減に注目が集まりがちだが、普段よく見かけるような数の多い生き物は調査対象になりにくく、長期的な調査をして初めて発見に至ったという。当たり前のように見かけていた生き物にも、減少の波は到達しているかもしれないのだ。

ただし、課題に対し「唯一の原因」を特定することはできない。生態系はクモの巣のような複雑に絡み合った関係性の上に成り立っており、気候変動や森林伐採、人間のライフスタイルの変化など多様な出来事が原因となっているのだ。

その原因の一つが「都市化」である。無秩序な都市の拡大が生き物の住処を分断・減少させるだけでなく、大気汚染やヒートアイランド現象、都市の人口一極化による自然管理の不徹底などにより、生態系のバランスを大きく崩しつつある(※1)

裏を返せば、そんな都市の変化こそが、生物多様性の回復のカギを握っているだろう。この切り口に光を当て、人の手が届く場所だからこそ実現できる形で生物多様性の回復に取り組む国際プロジェクトが「SUGi」だ。各地の原生の木々が集まった「ポケットフォレスト(小さな森)」をつくることで、動植物の多様性を取り戻す形で都市の緑化を目指している。下記が、彼らの行なっているプロジェクトの流れだ。

植樹の主な流れ

    1. 植樹予定地の土壌の栄養の過不足を調査する
    2. 近隣の古い森林で、土地に合った原生種を調査し、その土地のポケットフォレストに適した生物をリスト化する
    3. 柔らかくて菌が豊富な土壌になるよう、土をほぐして必要な養分を足す
    4. 1平方メートルあたり3〜4本の苗木を植える
    5. 水分の蒸発を防止して種子を抑え、炭素の貯蓄ができるよう藁や木材チップで覆う
    6. 土に光が当たらなくなるまで、半年に1回を目処に雑草を刈る。厳しい日照りが続く場合には水をやる
    7. 植樹から約20年も経つと、人の手を入れなくても自立した森になる。時には1年でこれに至ることもある

実験地の一つであるロンドンで、26のポケットフォレストを対象に生物多様性を調査したところ、計192種の動植物が確認されたという(※2)。多様な生物のすみかがあることで、都市で失われていた「微生物との接触」を増やし、人間の免疫力を向上させ、アスファルトから土に変わることで街の気温を下げ、雨水を吸収して洪水を軽減してくれるそうだ。

ブラジル・サンパウロでのポケットフォレスト|Courtesy of SUGi

アメリカ・マサチューセッツ州でのポケットフォレスト「Danehy Park Forest」。多様な木々が共に成長している|Courtesy of SUGi

校庭にある丸いガーデンフォレスト

レバノン・ベイルートのポケットフォレスト。SUGiは教育機関との連携を推進しており、校内での森づくりを協働することも多い|Courtesy of SUGi

このプロジェクトの植樹では、宮脇メソッドを取り入れている。これは日本の生態学者・宮脇昭氏が確立した方法で、土地の原生の樹木を複数種用意し、密集させて植えることで、植物同士を競争させ、通常よりおよそ10倍速く成長させることができるという。

2024年末時点では、24カ国で232のポケットフォレストが存在し、平均して1つの森に35.6種の木が植えられている(※3)。気候変動の影響を受けながらも、自立する以前のポケットフォレストの生存率は87.4%と、森の生存率の国平均(63.0%〜94.1%)の中でも比較的高いとのことだ。

日本にも一つ、SUGiの実例がある。東京都板橋区にある、1042年創建の城山熊野神社だ。この神社の鎮守の森は、土地本来の自然植生が残る貴重な場所だが、20世紀に入ると工業化やビル建設が進み、森の中にもアスファルトで舗装された道が作られ始めた。そこで2021年以降、SUGiのポケットフォレストを通じて本来の姿を取り戻そうとしているのだ。その様子はサイト上で毎年更新されている。

国内では、SUGi以外にも同様の取り組みが立ち上がり、都内では市民参加型のシェアフォレスト「Comoris」が活動を広げている。こちらも宮脇メソッドを一部取り入れながら、NFTを活用したメンバーシップなど森との新たな繋がり方を模索しているものだ。

ただどこかに木を植えれば良いのではなく、そこにあるべき生態系システムの起点を作る──それがSUGiの訴えかける「都市の役割」だ。そしてまさに今、世界各地の都市の一角で、小さな原生の森が息を吹き返し始めている。

※1 都市と生物多様性|国土交通省 都市・地域整備局 公園緑地・景観課
※2,3 SUGi 2024 Impact Report

【参照サイト】SUGi
【参照サイト】‘Magnets for human connection’: Why Japanese ‘micro-forests’ are transforming our cities|Euronews
【参照サイト】The Forestkeeper: Dr. Akira Miyawaki – Atmos
【参照サイト】従来の10倍の速度で森が育つ「宮脇メソッド」とは?植樹体験レポートをお届け|グリーンピース・ジャパン
【参照サイト】ミヤワキメソッド:だれでも簡単に森をデザインできる?|ACTANT FOREST
【参照サイト】城山熊野神社
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