再生可能エネルギーへの移行が進む今、あまり語られてこなかった問いがある。
「そのエネルギーは、企業だけが所有できるものなのか?」
電力自由化や環境負荷の小さい再エネが注目される一方で、エネルギーそのものを所有・提供する主体は企業が前提となっており、多くの市民はエネルギーを購入せざるを得なかった。結果として、生活費がエネルギー市場の価格変動に左右されやすく、暮らしが苦しくなる場面も少なくない。
このように、企業に依存したエネルギー供給に課題を感じ、市民自立型のエネルギー管理を模索しているのが、「Our Power」というプロジェクトだ。国際NGO・350.orgが北米で展開しているこの取り組みでは、気候変動への対策だけでなく、エネルギーを地域や市民の手に取り戻す仕組みづくりに挑戦している。
Our Powerはアメリカとカナダの複数都市で展開され、地域住民が出資して太陽光発電システムと蓄電池を共同で購入・設置する。その電力から得られる収益を、老朽化した学校や地域施設の修繕、低所得層の住宅支援、公共福祉サービスの拡充などに再投資している。
例えばアメリカ・ミシガン州の都市デトロイトでは、地域住民たちが協力して太陽光発電設備を設置し、その電力収入を地元の教育やサービスに活用しているという(※)。これは、環境対策だけでなく地域経済の再生にもつながる。
また、Our Powerが重視しているのは、気候正義の視点だ。気候危機によって最も大きな打撃を受けるのは、長年環境被害にさらされてきた低所得層や有色人種のコミュニティである。たとえば、洪水や熱波といった気象災害のリスクが高い地域に住まざるを得なかったり、エネルギー価格の上昇により電気や暖房を十分に使えない状況に陥るなど、生活の基盤そのものが脅かされている。Our Powerは、そうした人々が再エネの「恩恵を受ける側」ではなく、「所有し、運営し、そこから得られる利益を自らの手で再配分する側」になる道を切り拓いている。
Our Powerのような取り組みは、「持続可能なエネルギー」をめぐる議論を、単なる技術や効率の問題から、社会の構造や価値観の問い直しへと導いている。その動きは北米にとどまらず、日本各地にも広がりつつある。
たとえば福島県の土湯温泉では、震災を機に地元の温泉組合が地熱発電に取り組み、収益を地域に還元する仕組みを築いてきた。また秋田や沖縄の離島などでも、地域主導で風力や太陽光を活用し、外部依存から脱却しようとする動きが見られる。こうした国内外の実践は、エネルギーの未来を「誰がつくるのか」という根源的な問いに、具体的なヒントを与えてくれる。
Our Powerは、日本を含む世界各地の地域社会に多くのヒントを与えてくれる。あなたの地域のエネルギーは、誰のものだろう。いまこそ、私たち自身の手でつくるエネルギーの未来について、ともに考えるときではないだろうか。
※ Our Power News – Renewing Our Power 350.org
【参照サイト】RENEW OUR POWER GATHERING
【参照サイト】Our Power News – Renewing Our Power
【参照サイト】Renew Our Power: the renewables revolution is unstoppable
【関連記事】 電気代の1%を、地域に寄付しよう。再エネで地域共同基金を作る「1% for Local」
Edited by Megumi