2025年現在。2015年に東京都渋谷区で日本初の同性パートナーシップ制度が導入されてから、10年という節目を迎えようとしている。
この間、制度は全国の自治体に広がり、2025年5月末時点で導入自治体は530、日本の総人口の約92.5%をカバーするに至った(※)。数字の上では、多様な家族のあり方への理解が社会に浸透しつつあるように見える。
しかし、同性婚はいまだ法制化されておらず、この制度に法律上の効力はない。そのため、同性カップルやその子どもたちは、法的な保障のない不安定な現実に置かれたまま、日々の暮らしを送らざるを得ない状況にあるのだ。
社会は、たしかに変わり始めている。2024年以降、「同性婚を認めない今の法律は、憲法に反するのではないか」という司法の声が、日本各地の裁判所から相次いで上がった。それでも、法律や政治の歩みは揃わない。それどころか、子どもを持つための医療のあり方をめぐって、多様な家族の選択肢を狭めかねない議論も進んでいる。希望の光と、拭えない不安。その両方が混在するのが、今の日本のリアルだ。
このような時代を背景に、これまで「見えない」存在とされてきた人々の日常を映し出した一本のドキュメンタリー映画が、問いを投げかける。2025年9月20日(土)より日本で公開される映画『ふたりのまま』だ。
本作は、日本で子育てをしている、あるいは子どもを授かりたいと願う4組の同性カップルの日常を追ったドキュメンタリーだ。日本にも、子どもを育てる同性カップルの家族は数多く存在するが、その多くは差別や偏見を懸念し、関係性を公にせず暮らしている。この映画は、そんな家族のありのままの姿を映し出していく。
登場するのは、自分たちの両親と精子提供者の友人という「拡張家族」とともに、生まれたばかりの赤ちゃんを育てるカップル。シングルマザーとそのパートナーが、子どもとの関係を築きながらステップファミリーとして暮らすカップル。長年の不妊治療に時間もお金も心も注ぎ、様々な「期限」と向き合うカップル。そして、精子バンクを通じて授かった娘が、まもなく成人を迎えようとしているカップル。
映画では、「同性カップル」という一つの言葉では決して括ることのできない、4組4様の選択と、その背景にある喜びや葛藤に耳を傾けることになる。
この映画が私たちに見せてくれるのは、特別な誰かではなく、他の人々と同じように働き、笑い、子どもの成長に一喜一憂する家族の、ありふれた日常だ。その存在をただ知るだけで、世界の見え方は少し変わるかもしれない。
そして、彼らの姿を見つめることは、「当たり前の家族像」を問い直すことにもつながるはずだ。「血のつながり」や「男女の夫婦」だけが家族の証ではない。誰かと共に生きたいと願う強い思いが、多様な家族の形を紡いでいく。
制度だけでは語れない、家族の温かな輪郭。この映画は、その一つひとつをすくいとって見せてくれる。ニュースやデータの中には決して現れない、人の暮らしの確かな手触り。それを確かめに、劇場へ足を運んでみてはいかがだろうか。
映画館上映スケジュール
▼東京都
新宿K’s cinema / 2025年9月20日(土)〜終了日未定 / 連日朝10時〜上映
(上映スケジュールの最新情報はこちらからご覧ください。)
※ パートナーシップ制度:25年5月時点で人口カバー率9割超す 発足10年で530自治体が導入
【参照サイト】『ふたりのまま』
【参照サイト】映画『ふたりのまま』レビューコメント