消費税が25%になったら、どんな買い物を諦めるだろうか。
実はこの税率、北欧・デンマークにおいて書籍にかかっている付加価値税(日本の消費税に相当する)の割合だ。国によって前提となる所得水準は異なるものの、これは世界でも最も高い水準の書籍税とされ、購入をためらう人も多いだろう。
そんな中、2025年8月20日、同国のヤコブ・エンゲル=シュミット文化相が、書籍への消費税を廃止することを発表した。これにより年間約76億円の税収減が見込まれているが(※1)、それでも廃止を決断したのには理由がある。OECD(経済協力開発機構)の調査で、デンマークの15歳の24%が簡単な文章を理解できないことが判明し、その割合が過去10年で上昇傾向にあったためだ(※2)。
課税がゼロになったからと言って、若者が書籍を手に取るようになり読解力が向上するという単純な因果はないかもしれない。ただ、経済的な理由から子ども向け書籍の購入を諦めていた人や、新たに書籍を仕入れるハードルが高かった図書館にとっては助けになるはず。こうしてハードルを下げることは、文章に慣れ親しむ環境を整えることに繋がるだろう。

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北欧の近隣国と比べても、デンマークの状況は際立っていた。フィンランド、スウェーデン、ノルウェーはいずれも付加価値税が25%と同じだが、書籍にかかる税率はそれぞれ14%、6%、そして0%(※3)。デンマークだけが突出して高かったのだ。
さらに「知識には税をかけない」という考え方から、イギリスでは書籍や新聞が非課税で、2020年からは電子書籍も非課税対象になった(※4, 5)。つまりデンマークの25%は、世界的に見てもかなり“重税”だったのだ。
では、日本はどうだろうか。現在、書籍には原則10%の消費税がかかる。ただ、必ずしも子どもたちの「読書離れ」が進んでいるわけではない。全国学校図書館協議会の調査によれば、1994年から2024年の30年間で、児童生徒の1か月あたり平均読書冊数は小学生で6.7冊から13.8冊へ倍増、中学生も1.7冊から4.1冊へと増え、高校生は横ばいだが、大きく減っているわけではない(※6)。
「子どもたちはスマホや動画に夢中で本を読まなくなった」と思い込みがちかもしれない。しかし、実際のデータは必ずしもそうではないと示している。デジタルコンテンツと紙の本は、子どもたちの生活の中で共存しているのかもしれない。
教育におけるデジタルとアナログのバランスも問われる中、書籍税の撤廃がこれからどんな影響をもたらすのか。また本屋の盛衰や、各世代の読書習慣にどう影響するか。今後の行方は重要な道しるべの一つとなるだろう。
※1 デンマーク、書籍への課税を撤廃へ 「読書危機」対策として|BBC
※2 デンマーク、読書促進のため書籍税を廃止へ|AFPBB News
※3 Denmark scraps book tax to fight ‘reading crisis’|BBC
※4 Zero rate of VAT for electronic publications|GOV.UK
※5 Government will abolish the 20% ‘reading tax’|The Guardian
※6 「学校読書調査」の結果|公益社団法人全国学校図書館協議会
【参照サイト】「知識には課税せず」が常識の西欧諸国|JBpress
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