子どもに「スマホなしの幼少期」を。英国で14万の家族が署名した社会ムーブメント

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「みんなが持っているから」その一言に、どれだけの親が心を揺さぶられてきただろうか。

我が子を仲間外れにはしたくない。しかし、あまりにも早くから、無限に広がるデジタルの世界に我が子を解き放つことへのためらいは、現代の親が共有する葛藤だ。英国で11歳になるまでに91%もの子どもがスマホを手にするという現実(※1)は、その葛藤の末にある、ひとつの社会の景色といえる。

この、抗いがたい大きな流れに、英国で二人の母親が投じた一石が波紋を広げている。デイジー・グリーンウェル氏とクレア・ファーニホフ氏が始めた「Smartphone Free Childhood(スマホなしの幼少期)」の活動だ。彼女たちを突き動かしたのは、スマホの画面の先に広がる、子どもにはあまりに刺激の強い暴力的なコンテンツや、精神を蝕む情報へのあまりにも簡単なアクセスに対する、親としての危機感だった。

目指すのは、ただ子どもたちが子どもらしくいられる時間を、もう少しだけ長く守ってあげること。具体的には、少なくとも14歳までスマホを、16歳までソーシャルメディアへのアクセスを待つという、新しい当たり前を社会につくることだ。

その始まりは、友人同士のささやかなWhatsAppグループだったという。グリーンウェル氏がInstagramで想いを綴り、参加を呼びかけると、その声は同じ悩みを抱えていた親たちの心に火を灯した。グループはわずか24時間で1,000人の定員に達し、その熱は英国全土へ広がっていった。

次々と生まれる地域グループは、これまで孤立しがちだった親たちの不安が、決して自分一人だけのものではなかったことの何よりの証明だった。「あなたも、そう感じていたんですね」そんな声なき声が、親たちを繋ぎ、見えない敵に立ち向かうための連帯を生んだ。

現在、このキャンペーンのウェブサイトには「親の誓約(Parent Pact)」が掲げられ、すでに14万以上の家族がその想いを共有している(※2)。学校単位で保護者が手を取り合い、クラスの大多数がスマホを持たない状況をつくることで、「持たない」ことが不安ではなく、当たり前の選択肢となる環境を目指す動きも始まっている。

これは、テクノロジーを頭ごなしに否定する運動ではない。むしろ、デジタルという強力なツールに振り回されるのではなく、子どもたちがそれを賢く使いこなせるようになるための、大切な準備期間を社会全体でつくろうという提案だ。外で泥だらけになる時間。友達とただ顔を見合わせて笑う放課後。何もすることがない、あの豊かで退屈な時間。

「子ども時代は、スマホに費やすにはあまりにも短い」このシンプルな言葉が、私たちに問いかけている。デジタルの波がすべてを飲み込む前に、私たちは子どものために何を守り、何を手渡していくべきなのだろうか。

※1 ‘It went nuts’: Thousands join UK parents calling for smartphone-free childhood
※2 Smartphone Free Childhood
【参照サイト】‘It went nuts’: Thousands join UK parents calling for smartphone-free childhood
【参照サイト】Smartphone Free Childhood: the unstoppable rise of a culture-shifting campaign
【参照サイト】Thousands pledge to keep children smartphone-free

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