もし身の回りの「自然」が声を持っていたら、今私たちに何を語るだろうか。現代社会において、自然は「資源」としてシステムや技術に管理される存在とされ、その搾取的な構造が生態系の多くの命を危機に晒している。
では、もし私たちが、自然を「呼応する存在」として捉え直すことができたら、私たちはシステムや技術のあり方すらも変えていくことができるだろうか。
そんな可能性を見せてくれるのが、オランダのデザインスタジオ・Nova Innovaが開発した「POND(Power of Nature-Based Design)」。水中のバクテリアが有機化合物を分解するときに放つ電子を回収して水質センサーを稼働させ、酸素濃度、塩分濃度、pH、温度を測定し、その電力で自ら発光する。これにより、外部電源なしで水質を光として可視化し「水の健康状態」を伝えることができるのだ。健康な水は青色、中間では黄色、バランスが崩れていると赤色に光る。

Image via Nova Innova
光が動植物に影響を与えないよう、生態学者と連携し、光の強度を低くして水面下には届かないよう設計しているという。また、15年以上の研究から、微生物が放つ電子をPONDが回収しても生態系には影響がないと確認したとのこと。
さらに、デジタルツイン技術を活用し、離れた場所からでもPONDの光を確認することができる。筆者が見てみると、2026年2月18日現地時間23時頃、ロッテルダムのエラスムス大学のPONDは青白く光っており水は比較的健康な様子だった。

筆者によるスクリーンショット

日中にデータを集め、日が暮れて30分後くらいから光り始める|Photo by Rob Aarsen, via Nova Innova

2026年1月、初めてパブリックスペースでの設置が始まった|Photo by Brian Lubking, via Nova Innova
これは微生物燃料電池(MFC)の技術を応用しており、ともすれば機械で計測した電流データの公表にもなり得ただろう。しかしNova Innovaは、そのデータを「数字」で伝えるのではなく、思わず「今日の調子はどうかな」と覗きたくなるような柔らかな「光」で伝えようと試みた。これは、自然の呼応をどう翻訳するか、そのあり方が丁寧にデザインされた取り組みと言えよう。
一方で、Nova Innovaがこのプロジェクトを通して捉えた社会背景は深刻だ。それは、世界で4人に1人、つまり21億人が依然として安全に管理された飲料水にアクセスできないという公衆衛生の課題(※)。私たちがバクテリアや水のことに目を向け、耳を済ましケアすることは、 そんな世界の課題と向き合い直すための土台となるだろう。
これまでの技術は、人間が自然をコントロールするための道具であることが多かった。しかしPONDが生み出す関係性において、人間はバクテリアの助けを得て水というものの声に心を寄せ、そのメッセージの受信者へと変わっていく。こうして新たな「関わり方」へと人や社会を緩やかに巻き込んでいくデザインが、変革の時代には必要であるはずだ。
※ 1 in 4 people globally still lack access to safe drinking water – WHO, UNICEF|WHO
【参照サイト】POND|Nova Innova
【参照サイト】Innovatie die waterkwaliteit een stem geeft|The Green Village
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