「週5日勤務」という前提に、私たちはいつから疑問を持たなくなったのだろうか。働き方の基本とされてきた、1日8時間、週5日勤務、週休2日制。カレンダーを見れば土曜と日曜は色がついており、一般的に休みであることが前提とされている。
しかし、一体いつから週休2日が標準となったのだろうか。この制度を世界で初めて大規模に実施したのは、1920年代のアメリカのフォード・モーター社だと言われる。定期的な休みもなく長時間労働が強いられる状況に、キリスト教徒とユダヤ人がそれぞれ日曜日と土曜日を安息日として休みにするよう抗議したことから、同社では土日に工場が閉鎖され、週5日(40時間)勤務制が始まり、1930年代には大企業の多くがこれに続いた(※)。
つまり、生活改善の強い訴えを経てやっと、労働者は週休2日制を手に入れた。ただしこれは、必ずしも最終地点ではないはず。労働や暮らしのあり方が多様になり始めた現代でも、週休2日制は最適なのだろうか。労働時間の統一されたルールとして、全ての人に週5日勤務を求めることが“正解”なのだろうか。
この問いに応えるような動きを見せたのが、コスメティックブランド・SHIROで知られる株式会社シロだ。同社は世の中と社員の「しあわせ」を実現するべく、2026年4月からすべての職種において「週休2.5日制」を導入すると発表した。週の所定労働時間は40時間を維持したまま、「1日9時間勤務を4日+半日勤務(4時間)を1日」という構成に変更する。これにより、年間休日は従来の125日から144.5日へと増加する見込み。また同社は、2030年までに週休3日制を目指すことも公表している。

香水のガラス容器を洗瓶して再び製品として活用するなど“世の中”をしあわせにする取り組みも展開|Image via プレスリリース
1日9時間で半日休暇が増えるが、週40時間は変わらない──これは、働き手の暮らしによって影響が異なりそうだ。普段からある程度残業をしている人にとって「半休」という選択肢は魅力的に映るかもしれない。一方、育児や介護などの事情で「そもそも1時間たりとも残業できない」という社員にとって、1日9時間という基準時間の延長がどのような負荷となるかは注視すべき点だろう。
同社は、より良い制度づくりに向けて事前のトライアルを通じて社員の声を取り入れ、疑問点の解消と検討を続けることを示している。1日9時間への移行後に、どんな改善がおこなわれるのかにも今後注目したい。
また、幸せのために週休を増やすという方針は、一見すると「働く時間=幸せではない時間」と理解しているように受け取れるかもしれない。しかし、シロは「世の中に様々な選択肢があり、その中から自らの意思で選択することができること、それが『しあわせな状態』だ」と明記している。
生きていくにはお金が必要となる現代社会において、本来時間の使い方は自由に決められるはずだが、実際のところ労働以外を選べる時間が大きく制限されている。もっと働きたい人は働ける、働かない人はほかを選べる。まだ調整の余地はありつつも、シロが試みているのは、そうした個人の意思を尊重できる企業構造の再建だろう。
こうした議論は、個別企業の取り組みにとどまらない。2026年3月には、経済学者トマ・ピケティらが「生産抑制と労働時間削減の必要性」を示す研究を発表している。成長を前提とした労働のあり方そのものが、いま世界で再考され始めているのだ。
シロの取り組みは週40時間を維持しているため、この研究と直接結びつけることは難しいものの、どちらも「自律的な時間」が重視されている点は特筆すべきだろう。個人が自らの時間をどれくらい、何のために使うかを決定できる権利を取り戻すことは、全体のウェルビーイング向上へと繋がる有用な手段の一つなのだ。
成長が至上命題とされる資本主義の中で、企業が勤務時間を減らすことは、経済性と心身の豊かさの狭間で難しいバランス調整に挑むようなもの。それでも今、働き方の舵をとる企業にこそ、時間の再分配を通じて働き手の「しあわせ」の土台を支え直す役割が期待される。
※ そもそもなぜ1日8時間、週5日、週40時間労働が標準的なのか|ナショナル ジオグラフィック日本版
【参照サイト】世の中と社員のしあわせを実現するために「週休2.5日制」と「賞与の給与化」を導入|SHIRO
【参照サイト】【SHIRO】世の中と社員のしあわせを実現するために「週休2.5日制」と「賞与の給与化」を導入|PR TIMES
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