日々、インターネットやSNSで目にするコンテンツ。その文章も写真も映像も、今やどれが人間によるもので、AIによるものなのか、区別がつかなくなりつつある。
AIで作ったであろうコンテンツは、多くの場合、理想を具現化した鮮やかな風景であったり、誤字脱字がなくスラスラと読める文章であったりする。しかしその大部分が、どこかで見たような「つるんと整った何か」であり、現実味を欠いていることに、筆者は徐々に虚しさを感じ始めてもいる。
そんな現在のインターネット空間に、皮肉たっぷりにアンチテーゼを突きつけるチャットボットが登場した。その名も、「AIの駄作には飽き飽きだ(Your AI Slop Bores Me)」。
一見普通のAIチャットボットのようだが、ここで質問をするためには、まずユーザー自身がAIチャットボットになりきり、誰かの問いに対して回答を執筆、あるいは絵を描かなければならない。回答は60秒以内に送らないといけないため、誤字脱字を修正したり、ましてやAIで正しい答えを調べたりしている暇もない。
試しに、一つシンプルな質問をしてみた。すると、返ってきたのはこんな答えだ。
Q. Who are you?
あなたは誰ですか?
A. I am an ai prompt model designed to destroy the enviornment and all that inhabets it. Your welcome
私は環境と、そこに住まうあらゆるものを破壊するために設計されたAIプロンプトモデルです。どういたしまして
スペルミスがあり、内容はAIによくある“優等生らしさ”がない答えだ。特に何かに役立つわけでもない。だが、AIにうんざりした自分と同じような誰かがこの回答を急いで手入力しているかと思うと、何だか面白い。そして、それが人間の「誰か」であることは確実で、その事実がちょっとした贅沢のように感じられることもまた、滑稽である。
チャットボットを制作したのは、プログラマーのミヒル・マロジュ氏。Fast Companyの取材によれば、「AIアートの普及によりアーティストの生活が悪化し、インターネットが低品質で凡庸な『スロップ(駄作)』で埋め尽くされている現状に憤りを感じたこと」
が制作のきっかけだったという。
この先もAIは発展し続ける。そして、仕事や生活の中で人間を代替する領域は広がっていくのだろう。そうなった先には、何事もスムーズに、ミスなく物事が進んでいく世界があるのかもしれない。しかし、その“滞りのなさ”を手に入れることで、人間は真に“満ち足りる”のだろうか。AIが作った“完璧らしきモノ”だけが並ぶ世界に、生きていたいのだろうか。
「Your AI Slop Bores Me」は、その問いに「No」と答えてくれているような気がする。
不完全さや違和感、非合理、予測不可能であること。どれだけAIが発展しても、いや、その比重が増えていくからこそ、人間は、相対するモノにそうした「生身の人間」らしさをどこかで求め続ける生き物なのではないか。そのためにも、AIで作られる「つるっとした」世界の中に、ただありのままに、不完全な人間でいられる瞬間や場所を、どうにかして作り続けようとするのではないか。
効率化や生産性といった側面から見ると何の役も立たないこのチャットボットは、未来の自分たちが「ただ人間らしく」いられる場所を作る、ひとつの実験の始まりなのかもしれない。
【参照サイト】New site gets people to larp as AI chatbots (and their responses are not optimized)
【参照サイト】Your AI Slop Bores Me
【参照サイト】‘Your AI slop bores me’: The viral website that lets humans answer your questions like ChatGPT
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