“新品同様”の部品が再び走る。欧州2社、「再製造」で循環型モビリティを推進

Browse By

これまで、大量生産・大量消費が前提だった自動車製造が、大きな転換期を迎えている。製品を使い捨てずに長く活用し、再生させるサーキュラーエコノミーの考え方が自動車業界にも浸透し始めているのだ。

この流れの中で注目されているのが「リマニュファクチャリング(再製造)」である。部品を回収・分解し、必要な部分だけを修理・交換して、新品同等のクオリティで再び市場に戻す手法であり、資源の有効活用やCO2排出削減につながる。

自動車は命を預ける機械だけに「中古部品で本当に大丈夫なのか」というユーザーの不安が根強く、メーカー側にも品質保証をどうするべきかという大きな課題があった。特にブレーキやエアバッグなど安全関連部品は、再製造であったとしても無論新品と同等以上の厳しい基準を満たす必要がある。さらに、従来「使い捨て前提」で設計されていた部品に関しては、リマニュファクチャリングはコストも手間もかかり、再利用が現実的な選択肢ではなかった(※1)

こうしたハードルを越えて、2025年4月8日オランダのアムステルダムで開催されたイベント・Rematecで、フランスの自動車部品メーカー・Valeo(ヴァレオ)と、自動車メーカーグループ・Stellantis(ステランティス)が、車両部品のリマニュファクチャリング・リユースを本格的に推進する新戦略を発表した。

両社は、再生LEDヘッドランプとインフォテインメントディスプレイ(カーナビ・音楽・車両情報などを操作できるディスプレイシステム)という二つの新しい自動車部品を開発。従来、故障や劣化によって交換・廃棄されていた高付加価値部品を、リマニュファクチャリングすることで、市場に再投入するプロジェクトを共同で展開することにしたのだ。

具体的には、回収した使用済み部品を専門の工場で分解・点検し、必要な箇所のみ交換・補修して、新品同様の品質を確保する。特に、ヘッドランプの再製造では、回収される原材料のうち最大で50%を再利用できるため、新品製造時と比較して最大70%のCO2排出削減が可能になるという(※2)

StellantisとValeoは、すでに2023年から、フロントガラス取り付け型カメラのリマニュファクチャリングでも連携してきた実績がある(※3)。両社はいずれも長期的なカーボンニュートラル達成を掲げており、Stellantisは2038年までに、Valeoは2050年までにカーボン排出量ゼロ達成を目指している。今回のリマニュファクチャリング強化策は、こうした環境目標を実現するための中核戦略の一つだ。

さらに、今回の取り組みは単なる新車販売に依存しない、新たなビジネスモデルを切り開くものでもある。両社は、稼働中の車両に対しても部品更新や再生サービスを手頃な価格で提供し、車両のライフサイクル全体から収益を生み出す完全循環型のサプライチェーンへの本格転換を目指している。ユーザーにとっても、部品交換コストを抑えつつ、愛車を長く使い続けられるメリットがある。

使い捨てから循環へ。StellantisとValeoが進めるリマニュファクチャリングの取り組みは、自動車業界に新たな持続可能性の道を示している。製品を捨てずに再生し、CO2排出を削減しながら、価値を循環させる未来。その変革は、私たちの暮らしにも確実に波及していくだろう。

※1 “リマニュファクチャリング”とは? 科学の目でみる、 社会が注目する本当の理由 産総研マガジン
※2 Stellantis & Valeo Bring Circular Economy To Centre Stage Mobility Outlook
※3 Stellantis and Valeo launch the first Remanufactured automotive windshield-mounted video camera Valeo
【参照サイト】Stellantis & Valeo Bring Circular Economy To Centre Stage
【参照サイト】Stellantis and Valeo strengthen their cooperation with the launch of the first Remanufactured LED Headlamp in Europe and the Remanufactured Infotainment Display Screen
【関連記事】競合の大手4社、CO2排出減のビール缶ふたを“同時に”採用。日本の飲料業界を変える一歩に
Edited by Megumi

FacebookX