「より良い買いもの」を促進する、ヨーロッパサステナブルアプリ5選【欧州通信#06】

Browse By

日本に先駆けて、ヨーロッパは行政およびビジネスの分野で「サステナビリティ」「サーキュラーエコノミー」の実践を目指し、現在に至るまで世界を主導してきた。「ハーチ欧州」はそんな欧州の最先端の情報を居住者の視点から発信し、日本で暮らす皆さんとともにこれからのサステナビリティの可能性について模索することを目的として活動する。

ハーチ欧州メンバーによる「欧州通信」では、メンバーが欧州の食やファッション、まちづくりなどのさまざまなテーマについてサステナビリティの視点からお届け。現地で話題になっているトピックや、住んでいるからこそわかる現地のリアルを発信していく。

前回は、「パリのサステナブルスポット」をテーマに、現地で人気のレストランやゼロウェイストショップなどをご紹介した。今回の欧州通信では、「ヨーロッパで日常的に使われる、サステナブルな生活のためのアプリ」について情報をお届けする。使い勝手も良く、気軽にサステナブルアクションを取り入れられる仕組みとは?

鉄道のチケットを予約するついでに植林ができるアプリ(イギリス)

trainhugger
鉄道チケットのオンライン予約が気軽に行えるようになった現在。イギリスでは「Trainhugger」というユニークなアプリが登場した。

このアプリを通じてチケットを購入すると、予約される度に50ペンス(約80円)がイギリス国内の二つの森林保全団体(Royal Forestry SocietyとRoyal Scottish Forestry Society)に寄付される。Trainhuggerはこの仕組みを通じて、2025年までにイギリス全土に1,000万本の木を植えることを目標としている。さらにイギリスの鉄道を100%カーボンニュートラルにすることも彼らの目標だ。

ちなみに寄付金は収益の一部から拠出されるため、利用者が新たに負担するわけではない。実際に他サイトで同じ条件の検索をしてみても、金額はほとんど変わらなかった。

アプリでは、実際に自分の支払いによって何本の木が植えられたか、どれほどのCO2排出を防げたか、そしてそれらがどれほどのインパクトなのか(どれくらいの北極の氷が解けずに済んだか)、などを見ることもできる。さらに、ホームページではイギリスで実際に守られた木々の種類や、動物たちの一覧も掲載されている。

Trainhugger

Trainhuggerのサイト内で紹介される動物

シンプルなデザインで列車の予約もしやすく、さらには個人のアクションによるインパクトも見やすい。「せっかく予約をするなら、Trainhuggerを選ぼう」と思えるアプリだ。

チケットが売れるたび植林する、イギリスの列車予約サイト「Trainhugger」

「洋服に第二の人生を与える」古着の売り買いができるアプリ(リトアニア発、欧州各国で展開)


「洋服に第二の人生を与える」というキャッチフレーズで人気の「Vinted」。中古ファッション用品の売買ができるアプリとして、ヨーロッパで人気を誇る。Vintedでは、ワンピース・ニット・靴などだけではなく、アクセサリーや香水などの小物も売り買いできる。Vintedの進出先の一つであるオランダでは、「安く買えるならば安い方がいいに決まっている」という見栄を張ることのない考え方が浸透しており、そうしたことがアプリの人気を後押ししている背景にあるとも考えられる。

日本でもメルカリをはじめとするアプリが中古の市場において浸透している。買い物をする側として改善してほしいと思う点は、送料込みの値段が表示されないという点だ。メルカリなどのアプリのように、送料込みの料金が表示されるようになれば、より分かりやすく、使いやすくなるだろう。

売れ残り食品をお手頃価格で買えるアプリ(デンマーク発、欧州・北米各国で展開)

too good to go
Too Good To Go」は日常で気軽に使えるサステナブルなアプリの一つだ。2015年にデンマークで開発され、現在は主に欧州の主要都市で展開。2020年からは北米でもサービスを開始した。このアプリのコンセプトは、スーパー・カフェ・パン屋・ホテルなどで「売れ残ったという理由で廃棄される食品をなくそう」というもの。売れ残り商品は大幅な値引き価格で販売される。

オーストリア在住のメンバーが実際にこのアプリを使ってみた。オーストリア国内のアプリ利用者は現在約130万人、登録会社は約4,800件。アプリをスマートフォンにダウンロードし、自宅や会社近くの店を「お気に入り」として登録すれば、その店で売れ残った食品を詰めた「サプライズ・バッグ」の出荷時をアプリが知らせてくれる。引き取り時間帯の設定が15分と非常に短いものもあるが、なかには予約ができるお店も。カフェやレストランでは、食事がテイクアウトとして割引販売される。

スーパーではオーストリア国内最大手のBillaなどチェーン店をはじめ、大人気の高級パン屋Joseph Brot、老舗のケーキ屋Aidaなども登録している。ホテルの朝食も非常に人気で、オペラ座の近くの高級ホテル・Bristolの朝食バッグ(2000円相当のもの)が4.99ユーロ(約500円)で販売されると、即売り切れとなる。

飲食店のフードロスをレスキュー。ヨーロッパで話題のアプリToo Good To Go

自治体によって違うごみの分別。食品パッケージの適切な「捨て方」を教えてくれるアプリ(フランス)

Guide du tri
ヨーグルト容器や汚れた包装、魚の缶詰など、容器包装の分別はリサイクル率を高める上での課題である。今回は、そうした容器包装のリサイクル管理を行うフランスの非営利団体の「CITEO(シテオ)」が作成した「Guide du tri(分別ガイド)」をご紹介する。この分別ガイドアプリは、自治体ごとの分別方法を無料で検索することができるアプリだ。位置情報を使用することで最寄りの分別場所を探すことができるだけでなく、パッケージのバーコードをスキャンするだけでブランドからの分別指示を確認することができる。すでに7,000以上のブランドがアプリに登録している。

アプリ作成者であるCITEOのコミュニケーションマネージャーであるAudrey Leconte氏は、「フランス人の習慣や行動を変えるためには、スマートフォンに情報を取り込む必要がある。それは、YUKA(※)のようなフランスで成功したアプリを見れば明らかです」CITEOのサイトで述べている。

※健康と環境の視点で食品を分析し、4年間で2,100万人のユーザーに使用されているフランスの人気アプリ
環境負荷がわかる
Guide du triは、消費者の市民グループ「エコ市民ワークショップ」のメンバーなど市民の意見も反映しているのも特徴だ。ユーザーからの「自分の日々の行動が本当に環境保全に役立っているのかを知りたい」というニーズに応え、アプリ内の「My impact」では、ユーザーが分別・リサイクルすることが地球にとってどのようなメリットがあるのかを、エネルギーや資源などの観点から知ることができる。

「どの認証を信じたらいいの?」エコな食品だけを教えてくれるアプリ(ドイツ)

Nabu
私たちが日常購入する食品の容器包装には、さまざまなシールや認証が付されている。地域・季節・環境に配慮した商品を購入したいと思っても、シールや認証の種類が多く、店頭でどの商品を購入すべきか迷ったことはないだろうか。

こうした消費者の要望に応えるべく誕生したのが、ドイツの自然保護団体・NABUが開発した「NABUシールチェック」だ。シンプルかつ透明性のある情報の提供を目指す同アプリの評価システムは、以下の3つである。緑色の親指は、環境保護の観点から推奨される製品を表す。黄色の親指は優れてはいるものの、環境に関して改善の余地がある商品を表す。赤い親指は、環境に配慮した製品ではないことを示す。加えて、二つの緑色の親指は、要求される基準を大幅に超える製品に付与されている。

現在、データベースには50以上のロゴが登録されており、データベースは常に更新されている。NABUの公式サイトで公開されているギャラリーでは、シールを検索・製品分類を閲覧して、有機生産・フェアトレード・地域の食品に関して信頼できるロゴを探すことができる。

こうしたアプリは商品購入の際に参考にできるものの、ドイツでは環境負荷に関するシールや認証の統一に向けた取り組みも推奨されているところだ。

編集後記

食料・衣類の買い出しや鉄道のチケット予約などは、多くの人にとって避けられない行動だ。「どうせやらなければいけないなら、使いやすく、おしゃれで、経済的で、環境負荷も低く」という考え方が、欧州では浸透しているように感じられる。サステナブルな選択肢が増えてきているからこそ、使い勝手やデザインなどが他のプロダクトとの差別化にもつながるのかもしれない。そしてそのアプリを使って「お得だった」と思える体験も、消費者にとっては重要だ。

「サステナブルなだけではない」アプリが今後世界中で増えていき、私たちの生活の幅を広げてくれるのが楽しみだ。

「欧州通信」はIDEAS FOR GOODのインスタグラムでも、随時更新しています。ヨーロッパのサステナブル事情に興味のある方は、ぜひフォローしてみてください。

「欧州サーキュラーエコノミー政策・事例レポート2022」発売中!

ハーチ欧州では、レポート第一弾「欧州サーキュラーエコノミー政策・事例レポート2022」を販売中です。

本レポートでは、「EUのサーキュラーエコノミー政策(規制)」「フランス・オランダ・ドイツ・英国の政策」「4カ国で実際にサーキュラーエコノミーを推進する団体や取り組み」に焦点を当て、サーキュラーエコノミーが欧州で注目されるようになってから現在に至るまでの欧州におけるサーキュラーエコノミーをめぐる議論・状況をより詳しく追っています。以前から欧州で進められてきた「サーキュラーエコノミー」の実験は、今後の日本の政策策定から、企業や市民の活動にいたるまで、役立つヒントや苦い反省を提供してくれるはずです。

レポートサンプル

レポートサンプル

サステナブルな新規事業を検討中で、海外のユニークな参考事例を探している方や、欧州市場参入を検討していて、現地の企業の取り組みや消費者の動向が気になる方、サーキュラーエコノミー実践者(企業やNPOなど)の現場の声を知りたい方など、ご興味のある方はぜひ下記より詳細をご覧ください。

レポート概要

  • ページ数:105ページ
  • 言語:日本語
  • 著者:ハーチ欧州メンバー(IDEAS FOR GOOD・Circular Economy Hub編集部員)
  • 価格:44,000円(税込)
  • 紹介団体:36団体
  • 現地コラム:8本
  • レポート詳細:https://bdl.ideasforgood.jp/product/europe-ce-report-2022/
ハーチ欧州とは?

ハーチ欧州は、2021年に設立された欧州在住メンバーによる事業組織。イギリス・ロンドン、フランス・パリ、オランダ・アムステルダム、ドイツ・ハイデルベルク、オーストリア・ウィーンを主な拠点としています。

ハーチ欧州では、欧州の最先端の情報を居住者の視点から発信し、これからのサステナビリティの可能性について模索することを目的としています。また同時に日本の知見を欧州へ発信し、サステナビリティの文脈で、欧州と日本をつなぐ役割を果たしていきます。

事業内容・詳細はこちら:https://harch.jp/company/harch-europe

▶ぜひハーチ欧州お問い合わせページからお気軽にお問合せください。

欧州通信に関する記事の一覧

Written by Megumi, Kozue Nishizaki, Yukari Fujiwara, Erika Tomiyama, Ryoko Kruger

FacebookTwitter