▶️ニュースレターの詳細・登録はこちらから!
いま、あなたにとって「良い」状態とは、どのような状態だろうか。心身や社会的側面において良い状態にあることは「ウェルビーイング」と呼ばれ、生きがいなど将来にわたる持続的な幸福を含む概念とされている。
SNSでの発信やオンラインコミュニティ、経営方針、政府指針など多くの場面で用いられる概念となっている、ウェルビーイング。GDPなどの経済的指標に閉じない「豊かさ」が重視され始めていることを背景に、その注目が高まっているとのこと。
しかし、一方で、意図されたメッセージから外れた意味でウェルビーイングが多用されている懸念もある。それを提言し話題になった、あるインスタグラムの投稿を紹介したい。
それが、ウェルビーイングについて発信しているカナダ・トロント在住のKarliさんによる投稿だ。Karliさんは動画の中でこのような趣旨の言葉を書き記していた(※)。
資本主義は“これ”がウェルネスだと信じさせようとする。けれど、もし、歩きやすい街や身近な自然のある空間、手頃なヘルスケア、多様性あるコミュニティへのアクセス……などがウェルネスであったらどうだろう。
“これ”が意味していたのは、ヘルシーなサラダや飲み物、ジムでのトレーニング。SNS上で多く見られる、健康・美容のためのライフスタイルがウェルネスやウェルビーイングの代表例となりつつあることに、疑問を投げかけたのだ。
この投稿をInstagramで見る
Karliさんの投稿から浮かび上がる問いは、2つある。1つ目は「ウェルビーイングは『商品』なのか、『権利』なのか」ということ。
ジムでのトレーニングや瞑想、ヨガ、ライフスタイルデザインの勧めは、それらが実際に心身の支えとして役立った人もいるからこそ、ウェルビーイングの例として取り上げられているのだろう。しかし、一部の人にとってそれらは決して安価ではないサービス・商品であり、簡単には日常に取り入れられないことも多々ある。経済的な障壁なく、すべての人が安心して心地よく暮らせる社会を「ウェルビーイングな社会」とするならば、ウェルビーイングが商品化されることには警鐘を鳴らす必要があるかもしれない。むしろ大切なのは、個々の安心や心地よさを支える社会・環境的な基盤が、あらゆる人にとって権利として確立されることではないだろうか。
2つ目の問いは「ウェルビーイングが個人の問題へと矮小化されていないか」ということ。上記で挙げた例の多くは、自己啓発的な色合いが強く、個々人に努力するよう求めるものも少なくない。こうした生活スタイルやアクティビティが本当にウェルビーイングに繋がる人もいれば、疲れや生きにくさを自分の力で解消しなくてはいけない社会の構造に、さらに疲弊する人もいるはずなのだ。
こうしたウェルビーイングをめぐる違和感が、多くの人の共感を呼んだのだろう。2025年2月に投稿された前述の動画は、同年4月時点で111万件の「いいね」が集まっている。コメント欄を見てみると、決して賛同の声ばかりではないが、それも含めてウェルビーイングと資本主義の関係性についてさまざまな議論が交わされる場となっているようだった。
筆者がKarliさんの投稿に共感したのは、その投稿が「あなたの心身が“ウェルビーイング”な状態じゃないのは、あなた自身のせいではないかもしれない」というメッセージを感じたから。商品的かつ個人課題として矮小化されたウェルビーイングは、どこか窮屈であり、日常に対してさらなるアクションを要求しているようにも感じられる。
しかし本来は、人それぞれの「良い」状態の実現を支えるのがウェルビーイングであり、もっと頑張ることで実現するウェルビーイングには「良い」状態を見出せない人もいるのだ。ウェルビーイングという言葉が表すものに違和感を感じていた人にとって、Karliさんの投稿は、少しばかり心を楽にしてくれる力を持っていたのではないだろうか。
※ ウェルネスとウェルビーイングは定義上異なるものとされている。日経BPの西沢氏によると、ウェルネスは生きがいや尊厳を含めた心身の健康、ウェルビーイングはそれに社会的な関係性も加わった概念とのこと。ただし、ウェルネスの構成要素に環境や社会が含まれるなど、かなり近い考え方であるとも言える
【関連記事】「SDGsの〇番に取り組んでいます」への違和感。ポスト2030に必要な問いとは
【関連記事】人々の生活と地球環境を豊かにする「ウェルビーイング・エコノミー」とは【ウェルビーイング特集 #37 新しい経済】
ニュースレターの無料登録はこちらから
IDEAS FOR GOODでは週に2回(毎週月曜日と木曜日の朝8:00)、ニュースレターを無料で配信。ニュースレター読者限定の情報もお届けしています。
- RECOMMENDED ARTICLE: 週の人気記事一覧
- EVENT INFO: 最新のセミナー・イベント情報
- VOICE FROM EDITOR ROOM: 編集部による限定コラム
編集部による限定コラムの全編をご覧になりたい方はぜひニュースレターにご登録ください。