Browse By

自由貿易圏(自由貿易地域)とは・意味

自由貿易のイメージ

自由貿易圏とは?

自由貿易圏(FTA:Free Trade Area、自由貿易地域とも)とは、特定の国や地域間で、物品の輸出入にかかる関税や数量制限などの貿易障壁を相互に撤廃、または大幅に削減することを定めた協定(自由貿易協定)によって形成される区域を指す。この区域内では、加盟国・地域が自由な貿易を促進し、経済関係の強化を目指す。

自由貿易圏は、国際貿易の円滑化を通じて、国際分業や専門化による経済的利益をもたらすとされる。一方で、国内産業への影響や雇用問題、環境基準や労働基準の差異、経済格差の拡大といった懸念から批判を受けることもある。

近年では、多数の国や地域が参加し、広範囲な分野をカバーする「メガFTA(巨大自由貿易協定)」または「広域経済連携協定」と呼ばれる枠組みも注目されている。これらは、広大な経済圏において貿易・投資の自由化やルール整備を目指すものである。

自由貿易圏の歴史

自由貿易圏の歴史は、1947年の「GATT(ガット)」に遡る。

GATT(関税及び貿易に関する一般協定:General Agreement on Tariffs and Trade)は、1947年に採択され1948年に発効した国際協定である。その目的は、第二次世界大戦後の世界経済の復興と発展のため、関税の引き下げや輸入数量制限といった貿易障壁を削減・撤廃し、自由かつ多角的な国際貿易体制を推進することであった。

しかしGATTは国際機関ではなく、暫定的な組織として運営されてきた。1995年には、協定(Agreement)ではなく機関(Organization)として自由貿易を促進するため、WTO(世界貿易機関:World Trade Organization)が発足。物品だけでなく、サービスや知的財産権などの貿易も対象となった。

1995年のWTO(世界貿易機関:World Trade Organization)発足後も、多角的貿易自由化の努力は続けられた。しかし、加盟国の増加や各国の利害の多様化により、WTOを中心とした多角的交渉(ドーハ開発アジェンダなど)は2000年代以降、進展が困難となった。こうした背景から、各国は二国間や地域レベルでの自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)の締結を積極的に進める傾向が強まった。

自由貿易協定(FTA)と経済連携協定(EPA)

自由貿易圏の関連用語に「FTA」と「EPA」がある。

FTA(自由貿易協定:Free Trade Agreement)は、特定の国や地域間で、主に物品の関税や数量制限などの貿易障壁を撤廃または削減することを目的とする協定である。

近年では、FTAの範囲をさらに広げた「経済連携協定(EPA:Economic Partnership Agreement)」の締結も多く見られる。EPAは、物品貿易の自由化に加え、サービス貿易、投資、知的財産権の保護、ビジネス環境整備、さらには人の移動、環境、労働など、より広範な分野での連携強化やルール作りを通じて、締約国間の経済関係全体を強化することを目的とする。

自由貿易協定の例

EFTA

欧州自由貿易連合(European Free Trade Association)。

欧州経済共同体(EEC)に加盟しなかった欧州諸国が1960年に設立した自由貿易連合で、現在、ノルウェー、アイスランド、スイス、リヒテンシュタインで構成されている。

USMCA

米国・メキシコ・カナダ協定(United States-Mexico-Canada Agreement)。

1994年1月に米国、カナダ、メキシコの北米3カ国間で発効したNAFTA(北米自由貿易協定:North American Free Trade Agreement)に代わる新しい貿易協定。2020年7月1日に発効し、より厳しい原産地規則や労働・環境に関する規定などが盛り込まれている。

SAFTA

南アジア自由貿易地域協定(South Asian Free Trade Area)。アフガニスタン、バングラデシュ、ブータン、インド、モルディブ、ネパール、パキスタン、スリランカで構成される。

太平洋同盟:パシフィックアライアンス(Pacific Alliance) 。チリ、コロンビア、メキシコ、ペルーの4か国が2011年に設立した地域統合イニシアティブ。

そのほか、二国間または二地域貿易圏の間で締結された二国間自由貿易協定も多い。

TPP

TPP(環太平洋パートナーシップ協定:Trans-Pacific Partnership)は、日本や米国(当時)を含む12カ国によって交渉が進められた広域経済連携協定である。日本においても馴染み深い自由貿易協定だ。

2017年1月に当時のトランプ米国大統領が協定からの離脱を表明したが、残りの11カ国は協定内容を一部凍結する形で交渉を継続し、2018年3月に「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP:Comprehensive and Progressive Agreement for Trans-Pacific Partnership)」として署名、同年12月30日に発効した。原署名国は日本、オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、ベトナムである。その後、2023年には英国が加入手続きを完了し、加盟国は拡大している。

自由貿易圏のメリット・デメリット

自由貿易圏のメリットには、政府が関税を引き下げたり撤廃したりすることで、消費者がより質の高い外国製品を安価に入手しやすくなることが含まれる。生産者においては、潜在的な顧客や供給者の市場を大幅に拡大できる。

国全体の経済発展を促すものともいえる自由貿易は、競争を促すことで効率性と革新性を向上させるとして、自由市場経済学を支持する一部の人々によって支持されている。

一方で、自由貿易圏は競争の激化による雇用喪失の可能性や、企業がより安価な労働力を求めて生産拠点を移転する過程で、労働条件の低い国・地域において労働者の権利が十分に保護されない、いわゆる「底辺への競争(race to the bottom)」が生じる懸念、知的財産への脅威など、いくつかのデメリットをもたらす可能性がある。また輸入品に対する関税を撤廃するため、加盟国の税収が減収し、この歳入の減少を他の税の増税や公共サービスの削減によって補う必要がある場合が生じる。

自由貿易を取り巻く環境は変化しつつある

自由貿易のあり方は、世界貿易の成長鈍化、一部の国における保護主義的な動きの強まり、気候変動問題をはじめとする環境への配慮の高まり、地政学的な緊張関係の変化など、複合的な要因によって常に変化にさらされている。

自由貿易の将来について、各国の見解は異なる。

その利点を重視する国は、自由貿易圏を経済成長、貿易の多様化、紛争予防に不可欠と捉え、世界的な効率性と世界貿易の拡大にプラスの影響を与えると考える。一方で、雇用喪失、大国への依存、国家主権の侵害の可能性を懸念する国もある。

変化する世界情勢もまた、自由貿易の将来を形作るものだ。

たとえば、米国は長らく自由貿易協定における主要なプレーヤーだった。しかし2025年1月20日に米国の第47代大統領となったドナルド・トランプ氏は、NAFTA(北米自由貿易協定)のような自由貿易の取り決めなどに対し、非常に批判的であり、自由貿易協定から国を遠ざけ、関税を強化した。トランプ政権の「相互関税」政策により、株価は世界的に急落。また各国が報復措置に乗り出す構えを示すなど、トランプ大統領による関税政策はさまざまな影響を及ぼしている。

日本においては、アメリカ以外と結んでいる主な自由貿易圏にCPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)とRCEP(地域的な包括的経済連携、Regional Comprehensive Economic Partnership)がある。なお、RCEPは日本の他、ASEAN10カ国、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランドなど15カ国が参加する経済連携協定だ。このRCEPは世界の経済規模の約3割を占める広域経済圏を形成する。

2025年4月25日に公開された日本経済新聞の記事によると、日本政府は米国との関税交渉と並行して、米国以外の国・地域との連携を強め、「自由貿易圏」の拡大に取り組む方針だという。

また、2025年5月16日に韓国で行われたCPTPP加盟国会合では、CPTPPの継続的拡大の重要性について議論がなされ、またEUやASEANとの早期対話をめざすことで一致した。自由貿易を重視する国や地域での協調が見られる。

各国は、グローバル化のメリットとリスクを巧みに乗り越えながら、自国の経済と国民の変化するニーズに適応していくことになる。

【参照サイト】WTO | Glossary – free trade area
【参照サイト】What Is a Free Trade Area? Definition, Benefits, and Disadvantages
【参照サイト】Free Trade Agreements | Reference Library | Economics | tutor2u
【参照サイト】巨大自由貿易圏 – 経済ナレッジバンク
【参照サイト】WTOとは|外務省
【参照サイト】我が国の経済連携協定(EPA/FTA)等の取組|外務省
【参照サイト】Trump gambles it all on global tariffs he’s wanted for decades
【参照サイト】Time To Think Beyond ‘Worthless’ Free Trade Agreements: Economists.
【参照サイト】Global Trade Liberalization and the Developing Countries — An IMF Issues Brief.
【参照サイト】The Folly of Free Trade

FacebookX