都市の貴重な公共空間である道路。その多くが、駐車場として車に占有されていると、市民が自由に使える場所は限られてしまう。しかし、そんな駐車場を、市民自らの手で「緑あふれる公園」に変えて良いと言われたら、どうだろうか。
オーストリアのウィーンでは、駐車スペースを市民自らの手で人々が集える「小さな公園」に変える「Grätzloase(グレートルオーアーゼ)」と呼ばれるプロジェクトが広がっている。
ドイツ語で「近隣のオアシス」を意味するこの取り組みは、住民ボランティアが道路脇の駐車スペースに木製のデッキやプランターを設置し、車1台分ほどのスペースを「パークレット」と呼ばれる小さな公園に変える取り組みだ。ウィーンの住民なら誰でも公園作りに手を挙げることができ、取り組みを通して、ウィーン全域に100箇所以上のパークレットができているという(2025年8月時点)。
ある地域では、建設時に「なぜ駐車スペースをなくすのか」と取り組みに懐疑的な声も上がった。しかし、目に嬉しい緑の彩りと、そこから生まれるコミュニティ意識の向上を感じるうちに、徐々に賛同する人が増えていった。
実際に、パークレットができた地域では、普段話すことのない人々が会話を交わす新たな溜まり場が生まれ、街の風景に温かい変化がもたらされたという。あるパークレットには、近所の住民が不要品を交換できるボックスも設置されており、地域内の資源循環も促している。
2015年から始まったこの計画は、市のプロジェクトでありながら、ほとんど住民主体のアプローチで成功しているのが特徴だ。実際には、市の資金援助を受ける団体「ローカル・アジェンダ21」が建設費用として最大5,000ユーロ(約87万円)の助成金を提供したり、複雑な事務手続きを支援したりしている。しかし、あくまでパークレットの建設に手を挙げるのは、近隣に暮らす一般市民である。
このように、低コストかつ短期間で行える小さなアクションを積み重ねることで、長期的で大きな都市の変化を目指すまちづくりのアプローチは「タクティカル・アーバニズム」と呼ばれる。社会の変化がめまぐるしい今、その柔軟さが世界中で注目を集めている。ウィーンの「グレートルオーアーゼ」は、そのひとつの成功例ではないだろうか。
もっとも、建設したパークレットは建設者が維持管理を行う必要があるため、実際には「誰でもすぐに」手を挙げられるわけではない。それでも、もし近所の人が自分の家の近くに憩いの場を作ろうとしているのであれば、可能な範囲で手伝おうと思うかもしれない。そんなふうに、希望すれば自分たちの手で街の風景を変えていけるという可能性は、街への愛着や帰属意識を自ずと高めてくれるはずだ。
【参照サイト】‘Why would you take away a parking place?’: the city where anyone can build an urban oasis
【参照サイト】grätzloase
【参照サイト】Local Agenda 21 Vienna
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