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デジタル ≠ サステナブル? 「サステナブルウェブデザイン」から考える、気候危機時代のデジタルの在り方とは?

サステナブルウェブデザイン

written by Climate Creative 編集部

「デジタル」と聞くと、紙にプリントアウトせずに情報を伝達できることから資源の節約になり、輸送や移動による環境負荷も発生しないため“非物質的で環境にいい”というイメージを持っている人も多いかもしれない。

しかし、果たして本当にデジタルはサステナブルなのだろうか。

BBCの調査によると、デジタル業界のCO2排出量は世界全体の3.7%を占めているという(※1)。インターネットのCO2排出量を国に例えるならば世界第6位となり、ドイツと同程度とも言われている(※2)

人々が今大きく関心を寄せている、CO2排出量の大きい飛行機に乗るのを避ける「Flight shame(飛び恥)」同様、デジタルを使うことに対しても同じように慎重であるべきだという「デジ恥」という意見も出始めるほど、実はデジタル利用による環境負荷は小さくないのだ。

「サステナブルウェブデザイン」は今後のスタンダードへ

そうした中、アメリカのデジタルエージェンシーMightybytes社によって提唱された「サステナブルウェブデザイン」という概念が、近年ウェブ業界を中心に注目されている。

イギリスのサイト制作会社「Wholegrain Digital」は2021年にEブックを公開し、ウェブ製品が環境に与える影響や、デザインや開発でできる実践的なアクション、気候変動がウェブサービス自体に与える影響など重要な概念を解説している。

英・Wholegrain Digitalに聞く。IT企業は本当の意味でサステナブルになれるのか?【ウェルビーイング特集 #2 脱炭素】

その中でサステナブルウェブデザインの6つの基本原則が「サステナブルウェブマニフェスト」としてまとめられている。

1.Clean|クリーンであること
再生可能エネルギーを使用した電力でデーターセンターを運用する「グリーン・ホスティング」のサーバー会社を利用する。

2.Efficient|効率的であること
リッチなウェブ表現などでデータ消費量が急速に増加しているが、それらが本当に必要な機能、デザインなのかを問い直す。それはページの読み込み速度を上げ、むしろユーザビリティを向上させる。

3.Open|オープンであること
サイト制作の過程で他組織とのコラボレーションを促進することもサステナブルウェブデザインでは重要視されている。サイトの制作プロセスやソースがオープンであればあるほど、知見が蓄積・共有され、より環境負荷の低いデザインの実現につながるからだ。

4.Honest|誠実であること
誤解や誤操作を招くようなデザインやコンテンツによって、意図しないものの購入や会員登録を防ぐ。ウェブサービスがグリーンウォッシュに加担することを避ける。

5.Regenerative|地球環境の回復に貢献していること
デジタルサービスを通し、人々が地球環境を回復させる行動を促し、活動に取り組む人々を勇気づける。

6.Resilient|負荷に強いこと
ウェブサービスそのものが負荷に強く、回復力をもち、人々が最も必要とする時間や場所で問題なく機能する。

ウェブサイトのデータ容量を削減する、フォルクスワーゲンの事例

では、実際にはどのようなサイトがサステナブルウェブデザインであるといえるのだろうか。ここでは、一つ事例を紹介したい。

ドイツの高級車ブランド「Volkswagen(フォルクスワーゲン)」のサイトでは、自動車を画像ではなくテキストの羅列によって表現している。画像はテキストに比べデータ容量が多いなかで、「画像を使用しない」という制約によって実装された、まさにクリエイティブな事例だろう。

Volkswagen

Image via Volkswagen

環境負荷を下げ、成果を上げるのが、クリエイティビティ(創造性)の力

「データ容量を極力最小化する」ということは、単純な軽量化と同義ではないか、あるいは、前世代の簡素なウェブサイトに戻るのか、と思われるかもしれない。

ところが、サステナブルウェブデザインの本質は、より少ない資源でより多くの成果を出すことであり、そこにクリエイティブなアイデアが求められている。画像を使用することそのものが悪なのではなく、画像をどういった目的でどう用いるのかが重要であり、サステナビリティは「What」ではなく「How」に宿るのだ。

サイト制作に予算があるのと同様、今後は「炭素排出量〇gで〇ページ制作」といったように、炭素予算の上限が設定されたなかでアウトプットするのが当たり前になるかもしれない。そしてそういった制約があるほうがむしろクリエイティビティは発揮されやすいだろう。

サステナブルウェブデザインの社会的な価値

これまで主に環境負荷軽減の点からサステナブルウェブデザインを紹介してきたが、気候危機時代においてその価値は多岐にわたる。

たとえば、気候災害リスクに脅かされる人たちの中には、必要な避難情報や救援を求めるサービスにアクセスできない人がいるかもしれない。災害時に起こる停電やネットワーク寸断はそうしたサービスへのアクセスも遮断するだろう。また、アクセスした情報がフェイクだった場合に混乱が広がる可能性もある。さらに、環境活動家への誹謗中傷などのデジタル上の攻撃や、気候不安を煽るような情報拡散の課題もあるだろう。

デジタル倫理やデジタルにおけるウェルビーイングの向上の視点は、気候危機という極めて複雑で緊急性のある問題に立ち向かううえで不可欠だ。つまり、デジタルのサステナビリティを向上させ、デジタルの公平性や包摂性を守ることは気候正義の実現にも直結しているといえる。

デジタルだからサステナブルなのではなく、デジタルそのものをサステナブルに──その変革に一人ひとりの創造力が役目を果たすだろう。

※1 Why your internet habits are not as clean as you think
※2 Sustainable Web Manifesto

【参照サイト】Sustainable Web Design

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