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多文化主義とは・意味

a man wearing headdress Lakota, Native American Man at Pow Wow

多文化主義とは?

多文化主義(Multiculturalism)とは、多様な文化集団や異なる民族グループが同じ地理的空間に共存している状態、あるいはそれを目指す立場や政策のことである。社会における多様な文化的アイデンティティを尊重し、受け入れることの重要性を強調する。

ここでいう文化とは、言語、宗教、信条、慣習、衣服、食など人々の生活の様式全体を指す。

多文化主義は一般に、カナダ、イギリス、オーストラリアなどの欧米諸国が採用した政治的モデルとして認識できるが、その形態や実施方法は国によって様々である。文化の違いを受け入れる寛容な態度から、アファーマティブ・アクションのようなマイノリティに対する積極的な支援制度まで、幅広い政策対応を意味する。

欧米諸国では、多文化主義は政治的議論を進める一つの軸として1990年代に最盛期を迎えたが、2000年以降に批判的な議論が進み始め、現在では政策決定の場で多文化主義を推進する積極的な動きはあまり見られないようだ。しかし、多文化主義をめぐる議論は続いており、多様化が進む現代社会で異文化がどのように共存すべきかという問題は、各国で大きなテーマとなっている。

各国の多文化主義政策

ある社会での多文化主義の定義を、そのまま他の社会に適用して議論するのは適切ではないとされる。なぜなら、文化的マイノリティを取り巻く環境は国や地域によって異なるため、完全に統一された多文化主義の定義は存在しないからである。したがって、多文化主義を実践しているそれぞれの社会の文脈で検討することが重要である。

イギリス

イギリスでは、エスニックマイノリティに対する人種差別問題の解決という文脈で多文化主義政策が発展した。第二次世界大戦後に増加した旧植民地からの移民に対する差別の深刻化に対応するため、1960年代後半から1970年代にかけて「人種関係アプローチ」として確立された。主にインド、パキスタン、カリブ海諸国など、大英帝国下の植民地であった国からの移民に対するアプローチであり、学校では複数の宗教に配慮した教育を導入し、マイノリティグループ組織への資金援助を行った。

カナダ

イギリスの植民地であったカナダでは、第二次世界大戦以前は、白人優位の同化主義を推進していた。ケベック州でフランス系カナダ人によるナショナリズムが台頭し、1960年代に英語とフランス語の二言語・二文化主義が採用された。他の民族の不満や移民の増大に対応するため、1971年に国家方針として多文化主義を採用し、英仏系以外の文化集団のアイデンティティの保持も認めた。1988年には世界初の多文化主義法が制定され、「文化の独自性」の維持、政治的、社会的、経済的領域への平等なアクセスと参加を保証した。

オーストラリア

第二次世界大戦後、福祉国家主義を展開する文脈で多文化主義政策を導入した。非白人、主にアジア系移民の定住を制限することで、ヨーロッパ系移民主体の国家を作ろうとした白豪主義から脱却し、1980年代からは人種差別的な移民政策を廃止することで、オーストラリアをアジア太平洋国家として認識させようとする意図もあった。当時の体制は、文化的、言語的、宗教的多様性をヨーロッパ系の既存の秩序の中に位置づける、文化多元主義的な性格を帯びていた。2000年頃から高技能移民の受け入れが強化される中で、より「多文化競争」的な性格を強め、経済的多文化主義へと変貌を遂げた。

文化多元主義と多文化主義

文化多元主義(Cultural Pluralism)とは、様々な文化集団が独自のアイデンティティや文化を維持しながら平和的に共存するモデルである。多元性を認めつつも、文化多元主義はそこに核となる文化が存在することを前提としており、実質的に、マイノリティ文化のマジョリティ文化への吸収や同化(Assimilation)につながる可能性がある。

実際、アメリカの文脈で、文化多元主義を表す言葉に「メルティング・ポット」がある。異なる種類の金属を溶かして合金を作るように、多様な文化が混じり合い、溶け合って単一の新しい文化を生みだすという考え方である。言い換えれば、「アメリカ人である」という共通の国民的アイデンティティの下での同化と統合を意味する。

文化多元主義は、公的領域と私的領域を分け、私的領域でのみ文化が尊重され、公的領域では原則として、近代的イデオロギーが優先される。公的領域では、特殊西洋的な事象を普遍主義的に前提としている。

これに対して多文化主義は、核となる文化を認めず、多様な文化を平等に扱うべきだという立場である。民族や文化の違いを強調するため、分離主義や非同化の価値観ともつながる。アメリカでは1980年代に文化多元主義から多文化主義へと移行したと言われている。

「サラダボウル」という言葉は、この体制を表現するのに使われる。これは、サラダのレタスやトマトなどの具材が、同じ皿の上で互いに混ざり合いながらも、互いに独立したままであるように、異なる文化集団がそれぞれのアイデンティティを独立した形で維持している状態を表している。

中核と周辺という権力構造を否定し、私的なものと公的なもの、宗教的なものと世俗的なものなどを、完全に二分することは不可能だとする。

多文化主義のジレンマ

多文化主義は、単一のものへの同化を否定するあまり、異なる文化グループ間の相互理解の可能性を潰してしまうことにつながる。つまり、異なる文化集団が隔離された状態で共存することを支持する立場とも言える。

例えば、アメリカでは移住のパターンとして、人種、民族、階級に沿った基準によって居住地域が分離される傾向が見られる。これは居住区分離(Residential Segregation)と呼ばれ、多文化主義者の立場はこれを支持するかもしれない。また、理論的には、それぞれの文化が等しく尊重されるため、異文化に対する価値判断が不可能であるという前提がある。

しかし、多文化主義は、いかなる文化や慣習は平等であり、全てを受け入れるべきだとする「無条件の文化相対主義」(Unconditional Cultural Relativism)とは異なり、名誉殺人、女子割礼、強制結婚などの慣習を無条件に受け入れるわけではないという主張もある。

植民地主義と多様性

多文化主義は植民地主義と密接な関係がある。カナダ、アメリカ、オーストラリアなどの国々は元々、先住民が住んでいた土地である。そこに、主にヨーロッパからの移民が押し寄せ、先住民を迫害し、同化を強制したりしながら、これらの土地を植民地化して搾取してきた。ヨーロッパからの入植が始まった15世紀末頃には、北米はすでに文化的に多様な土地であり、62もの文化集団と、400以上の言語が存在していたと推定されている。しかし、先住民は戦争や植民地主義政策などによって苦しめられ、差別されてきた。現在でも、先住民族は低所得、高い失業率、健康問題といった課題に直面しており、構造的な差別は根強く残っている。

そもそも、多様性という言葉は、「他の文化も受け入れてあげよう」という、優位に立つマジョリティ側が利用する言葉であり、多文化主義が本当の意味での受容や尊重ではなく、政治的正当化の手段として使われるのではないかと懸念する声もあるようだ。

アイヌ民族や琉球民族、大陸からの移民を歴史的に周縁化してきた日本では、「日本は単一民族の国」という神話が広く浸透しているようだ。そして、こうした問題は現在に至るまで続いている。このような文化的多様性を認識することは、より包括的な社会を構築するために重要である。

まとめ

多文化主義は、異なる文化や価値観を持つ人々が共存する際に生じる対立やマイノリティへの差別など、多様性に関連する問題を解決するために生まれた。このアプローチは限定的な面があるものの、異なる文化背景を持つ人々と共に生活するために模索する姿勢は評価できるのではないか。世界規模で人々の流動性がますます高まっている現状を鑑みれば、あらゆる文化的背景を持つ人々とのより良い共存を目指す姿勢の醸成が急務である。

【参照サイト】大山 彩子 「多文化主義と多文化主義的政策の動向− イギリスを事例として−」 『 生活社会科学研究 』 22号 (2015): 79-88.
【参照サイト】宝利 尚一 「カナダ多文化主義の発展と今後の課題 (<特集>共同研究報告 : 欧米諸国における多文化の問題と日本の課題) 」 『北海学園大学人文論集』 18号 (2001): 41-81.
【参照サイト】乗松 聡子 「カナダの多文化主義の光と影」 『国際人権ひろば』 163号 (2022)
【参照サイト】関根 政美 「公定多文化主義から日常多文化主義へ」
【参照サイト】川田 牧人 「『深い』多元性と文化相対主義(<特集>「グローバリゼーション」を越えて) 」 『文化人類学』 75 巻 1 号 (2010): 81-100.
【参照サイト】Mack, Jane Barnes. ‘Cultural Pluralism and Multiculturalism: E Pluribus Unum or Ex Uno Plura?’ Hitotsubashi Journal of Social Studies 26, no. 2 (1994): 63–72.
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