いま知りたい「プルリバース」とは?【多元世界をめぐる】

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特集「多元世界をめぐる(Discover the Pluriverse)」

私たちは、無意識のうちに自らのコミュニティの文化や価値観のレンズを通して立ち上がる「世界」を生きている。AIなどのテクノロジーが進化する一方で、気候変動からパンデミック、対立や紛争まで、さまざまな問題が複雑に絡み合う現代。もし自分の正しさが、別の正しさをおざなりにしているとしたら。よりよい未来のための営みが、未来を奪っているとしたら。そんな問いを探求するなかでIDEAS FOR GOODが辿り着いたのが、「多元世界(プルリバース)」の概念だ。本特集では、人間と非人間や、自然と文化、西洋と非西洋といった二元論を前提とする世界とは異なる世界のありかたを取り上げていく。これは、私たちが生きる世界と出会い直す営みでもある。自然、文化、科学。私たちを取り巻くあらゆる存在への敬意とともに。多元世界への旅へと、いざ出かけよう。

社会をもっとよくする世界のアイデアマガジンIDEAS FOR GOODが今年新たにフィーチャーするのは、「多元世界(プルリバース)」。デザイン分野と人類学分野の交差点として、数年前から注目されている言葉だ。

現時点では、このワードだけを聞いてすぐにピンとくる人もいれば、まったく知らないという人もいるだろう。今回はそんな多元世界について、特集を始める前に編集部が込めた想いを共有したい。

多元世界とは?

多元世界とはいったい何か。一般的に「考えや事物の基づく根源が多くあること」を多元的という(※1)が、その言葉をデザインの文脈で世界に広めたのが、人類学者アルトゥーロ・エスコバルの著書『Designs for the Pluriverse(デザインズ・フォー・ザ・プルリバース)』である。

※1 Oxford Languagesによる定義

本書で説明されている「多元世界(Pluriverse)」とは、これまでの西洋(欧米)中心主義や、植民地主義、資本主義、科学中心主義、男性中心主義、人間中心主義といった価値観だけではなく、同じように多数存在し、つながりあっている別の世界のあり方に目を向けていく姿勢をあらわしている。

エスコバルは本書のなかで、これまで支配的だった「一つの普遍的な世界」の概念についてこう語る。

「One-World World(一つの世界、一つの全体像や統一した認識)」という概念は、われわれがすべて一つの世界、つまり単一で根源的な自然と、複数の文化の中に生きているという、西洋圏で主流の考え方です。

この帝国主義的な概念は、欧米(歴史的に植民地支配をしてきた側)こそが「世界の中心」だと主張する権利と、その他すべての世界(欧米の価値観の“外”にあるもの)をそのルールに従わせ、二次的な地位に落としたり、存在しないものとみなしたりすることを暗に示しています。

書籍『Designs for the Pluriverse』より

またエスコバルは、特定の人によって作られた「みんなが使える標準的なもの」といった一元的(Universal)なデザインではなく、その地域や文化に根差したものや、個別の人ごとに対応した多元的(Pluriversal)なデザインを評価している。「その土地固有の、小さなデザイン」とも呼べる。

インド・メガラヤ州のカーシ族が世代交代しながら作った「生きている橋」

インド・メガラヤ州のカーシ族が世代交代しながら作った「生きている橋」 Image via Shutterstock

これは単純に、西洋文化を否定したり、資本主義を否定したりすることではない。「二元的な考えを当たり前とし過ぎていること」「成長し続けることへの依存」には限界があるというのだ。私たちが知らず知らずのうちに、自然と文明、人間とそれ以外の生物、自分たちとそうではない人たち、など何かと二元論で考えてしまうことへの反省も含まれている。

アメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)からは「デザインの脱植民地」をテーマにした書籍が発売され、オランダのユトレヒト大学でも似た研究が進んでいるなど、西洋諸国のなかでは、むしろ「西洋だけが中心ではない」という考えに意識的になっている人たちも多くいる。

いま、さまざまな問題が起こる複雑な社会を生きる私たちが無意識のうちに当たり前だと思っている世界の前提を根本から問い直し、新たな気づきを与えてくれるのが、この多元世界と、その周辺にある概念だ。

特集を通して、別の世界と出会い直す

特集名

今回の特集では、多元世界を探索する旅に出てみたいと思う。キーワードは、デザイン人類学や、存在論的デザイン、芸術人類学、トランジションデザイン、デザインのデコロナイゼーション(脱植民地化)スペキュラティブデザインデ・グロース(脱成長)、マルチスピーシーズ、環世界、東洋思想などだ。

今回は、人類学者や研究者、伝統的な暮らしを営む先住民の方々など、多元世界の概念に迫っていく上でヒントになるであろう様々な方々に話を聞いていく。自分とは異なる世界を体験しているかもしれない人々の話に耳を傾け、想像を巡らせ、頭で論理的に思考するだけではなく、ありのままを感じ、普段自分の身の回りにあるものを違う目で見てみることで、別の世界と出会い直すことができるかもしれない。

「多元世界とは何か?」「どんな世界があるのか?」そんな問いを持ち続けながら、みなさんと一緒に旅をしていけたら嬉しく思う。

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