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水資源の枯渇と汚染

水資源の枯渇と汚染の問題とは?(What are Water Scarcity and Water Pollution?)

水資源の枯渇とは、利用可能な水が自然的・社会的な需要を満たせない状態を指します。そして、水質汚染はその利用可能な水をさらに減少させ、水不足を一層深刻化させる要因となっています。

2022年には、世界人口の約半数が、1年のうち少なくとも一部の期間において、深刻な水不足を経験しました。さらに、22億人が安全な飲料水にアクセスできず、35億人が適切な衛生設備(トイレなど)を所有しておらず、20億人が基本的な衛生サービス(手洗い設備など)にアクセスできないという現状があります。

こうした問題に対処するため、国連は持続可能な開発目標(SDGs)の一つとして「すべての人に安全な水とトイレを」を掲げ、世界的な取り組みを推進しています。

水は人々の健康や生活を支えるだけでなく、経済発展や食糧、エネルギーの安全保障、環境保護においても重要な役割を果たします。水資源の枯渇と汚染の問題に取り組むことは、社会の繁栄を促進し、人々がより豊かで充実した暮らしを送る基盤を築くことにつながります。

数字で見る水資源の枯渇と汚染(Facts & Figures)

水資源の枯渇と汚染の現状に関する数字と事実をまとめています。

  • 地球上の水のうち、人間や動植物が利用可能な水はわずか0.02%(Nature
  • 現在、世界の年間取水量は年間流出量を下回っているものの、水の供給と需要の地域的・時間的な不均衡が原因となり、各地で水不足が発生している(Nature
  • 2022年には、22億人もの人々が安全に管理された飲料水を利用できない状況にあった(UN
  • 2022年、野外排泄を行う4億1900万人を含む、35億人もの人々が、安全に管理された衛生設備を利用できないでいた(UN
  • 2022年、18億人もの人々が自宅において飲料水を利用できず、その3世帯のうち2世帯では主に女性が水汲みを担っていた(UN
  • 2015年から2022年にかけて、安全に管理された飲料水を使用できる人口の割合は69%から73%に増加した(UN
  • 2015年から2022年にかけて、安全に管理された衛生設備を利用できる人口の割合は49%から57%に、基本的な衛生サービスを利用できる人口の割合は67%から75%に増加した(UN
  • 2030年までにすべての人が安全な飲料水や衛生設備、基本的衛生サービスを平等に利用できる状態(ユニバーサル・カバレッジ)を達成するには、飲料水については現在の6倍、衛生設備については5倍、基本的衛生サービスについては3倍の進歩が必要である(UN

水資源の枯渇と汚染の現状(Current Situation)

現在、水資源の枯渇と汚染は、世界的に深刻な問題となっています。そして、気候変動や社会経済の変化に伴い、水不足はますます悪化すると予想されています。

2022年には世界人口の約半数が1年の一部期間において深刻な水不足に直面し、全体の4分の1の地域が「極めて高い」水ストレス※状態にありました。気候変動や、社会経済活動による水需要の増加と汚染拡大は、安全な水の供給をより困難なものにしています。現在、農業は全体の淡水取水量の約70%を占め、工業用水が約20%、家庭用水が約10%を占めています。

水ストレスが高い状態とは、再生可能な水資源のうち75%以上が取水に使用されていることを意味する。

世界全体での水と衛生に関する取り組みは不十分であり、このままのペースでは、2030年には依然として20億人が安全な飲料水を利用できず、30億人が適切な衛生設備を持たず、14億人が基本的な衛生サービスを受けられないと予測されています。

水紛争

安全な飲料水と衛生設備は、健康で安定した生活を支える不可欠な要素です。適切な水資源管理は、社会やコミュニティの安定化、平和の構築に寄与し、移住の管理や災害リスクの軽減においても効果をあげています。また、水資源に関する協力は、地域間の緊張緩和から、国境を越える流域における紛争解決において重要な役割を果たしています。

反対に、水資源の不公平な配分やアクセスの格差は、社会の安定や地域間の平和的共存を損ねる要因となります。例えば、水不足や水質汚染、水へのアクセスの制約が食料の安全保障を脅かし、生活基盤を揺るがすことで、経済活動の停滞や社会構造の崩壊を招き、結果として紛争※の発生につながる恐れがあります。古代から現代に至るまで、水に関連した紛争は世界各地で発生しており、その形態も多岐にわたります。水の利用形態や紛争との関連性に基づいて、以下のように分類されます。

※ ここでいう「紛争」とは、パシフィック・インスティテュートの定義に基づき、暴力(負傷者や死者を伴うもの)または暴力の脅威(言葉による威嚇、軍事行動、武力の誇示を含む)が生じた事例を指す。

引き金としての水

水資源の不足やアクセスの格差は、紛争の根本的な原因となることがある。水の利用や支配をめぐる対立が、暴力的な衝突を引き起こす場合もある。

武器としての水

水資源や水システム自体が紛争の武器として使用される場合もある。水の供給を制限する、または水質を悪化させることで、相手国や地域に圧力をかけることが行われることもある。

犠牲者としての水

紛争において、水資源や水システムが犠牲となる場合もある。意図的または偶発的に水が汚染されたり、破壊されたりすることで、多くの人々が直接的な被害を受けることになる。

最近の事例として、アフリカのナイル川を巡る水紛争が挙げられます。エチオピアのグランド・ルネッサンス・ダムの建設が摩擦を引き起こしており、下流のエジプトとスーダンは自国の水供給への影響を懸念しています。2023年には、8月、9月、10月、12月にかけて、技術的および法的な解決を目指して3か国間で交渉が重ねられましたが、最終的な合意には至らず、エチオピアはダム事業を継続しており、対立が一層深まっています。

また、2024年12月、国際人権NGO「ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)」は、イスラエル当局がガザにおける水へのアクセスを妨害していることを「絶滅・大量虐殺行為」として非難しました。イスラエルは意図的に水と衛生設備を破壊し、200万人以上のパレスチナ人から最低限の水へのアクセスを奪い、多くの命が失われ、病気が蔓延していると報告されています。イスラエルはこの報告書を「プロパガンダ」として否定しています。

世界保健機関(WHO)によると、人間として基本的な生活を送るためには1日50〜100リットルの水が必要です。戦争などの緊急事態においては、最低限、飲料水や衛生維持のために15リットルの水が不可欠ですが、2023年以降、現在に至るまでパレスチナの人々はその最低限の水さえも手に入れることができなくなっています。

水資源の枯渇と汚染の背景と要因(Background & Factors)

水資源の枯渇の背景には、人口増加や社会経済活動の活発化による水質汚染の進行、気候変動の影響が含まれます。さらに、地政学的要因や大規模な移動、経済的危機などが水へのアクセス格差を一層深刻化させています。特に、貧困層や脆弱な集団がこれらの影響を最も受けやすく、彼らの生活に深刻なリスクをもたらしています。次にこうしたリスクを増幅させている要因を紹介します。

過剰な取水

取水量が利用可能な水資源を上回る「過剰取水」は、水資源の枯渇を引き起こす主因です。世界規模では、灌漑が地表水取水量の大部分を占め、特に中国、インド、南米などで水不足を引き起こす主要な要因となっています。一方で、ヨーロッパや北米では状況が異なり、工業部門やエネルギー生産が取水の多くを占めています。たとえば、ヨーロッパでは灌漑が全取水量の30%未満であり、取水の主因は工業部門です。また、北米では産業部門が取水量の約50%を占めています。

水ストレスは、淡水資源全体に対する取水量の割合で測定され、再生可能な水資源の75%を超えると「高い水ストレス」とされ、100%を超えると危機的な状況に達します。このような高い水ストレスは環境に深刻なダメージを与えるだけでなく、経済・社会の発展を妨げる要因ともなります。

水質汚染

これまで水不足の評価は主に水量の変動に焦点を当てていましたが、水質の悪化が利用可能な水を制限していることも明らかになっています。

国際的権威を持つ総合科学ジャーナル「ネイチャー誌」に2024年に掲載された研究は、水質汚染が水不足の重要な原因であると結論づけました。この研究によると、河川の窒素汚染が2010年の水不足の重要な原因であり、2050年もこの傾向が続く可能性が高いといいます。

農業の集約化や都市化の進展により、栄養塩類や病原菌、プラスチック、化学物質などが河川に流入しています。特に、水中の過剰な窒素量は、水生生態系への深刻な影響を引き起こします。有害な藻類の発生や低酸素症、魚の死滅などがその例で、飲料水としての利用を困難にしています。その結果、安全な水の利用可能性がさらに減少し、水不足が深刻化しているのです。

ネイチャー誌の研究は、世界の1万以上の小流域(sub-basins)を対象に行われ、2,000以上の小流域で水質汚染が水不足を悪化させていることが明らかになりました。2010年の時点で、全体の約4分の1(2,517の小流域)が、窒素汚染を含む水不足に直面していました。これは量的な水不足だけを考慮した場合の約2.5倍の規模です。2050年の最悪シナリオでは、汚染による影響を受ける小流域の数がさらに増加し、3,061に達すると予測されています。この増加により、水不足に直面する流域面積は新たに4,000万平方キロメートル拡大し、影響を受ける人口は30億人増加すると見込まれています。

窒素汚染の「ホットスポット」とされる小流域は、中国南部、ヨーロッパ中部、北米、アフリカを含む地域に分布しています。これらの流域は世界の国土面積の32%を占め、全人口の約80%が居住しています。特に農業活動が集中的に行われる地域で、窒素の肥料や堆肥の過剰な使用が原因となっています。

気候変動

気候変動による水循環の空間的・時間的パターンの変化は、河川流出量を含む利用可能な水量に影響を及ぼしています。記録的な極端降雨や干ばつの頻度、強度、期間が増加し、特に後発開発途上国、小島嶼国、北極圏で深刻な影響が予測されています。

2002年から2021年の間、洪水と干ばつによる死者は12万人以上、被害者は30億人近くに達し、経済損失は約1兆米ドルを超えました。地球温暖化が進むにつれ、干ばつや洪水の頻度と深刻さがさらに増し、淡水生態系の損害や水媒介性疾患の増加が懸念されています。

社会経済的活動

人口増加と経済成長に伴い、食糧需要や生活水準の向上、灌漑農業の拡大が進み、これが世界的な水需要の増加と水不足の要因となっています。

2050年には、水質汚染による安全な水の欠乏に加え、気候変動や社会経済的発展がもたらす水利用可能量の減少と取水量の増加が、水不足をさらに深刻化させると予測されています。また、土地利用の変化やダム建設などの社会経済的活動が自然界での水の循環に多大な影響を与え、特にインドや中国などの経済地域では、気候変動を上回る規模で流出量の減少が進むと見られています。

水面のさざなみ

Photo by Jimmy Chang on Unsplash

水資源の枯渇と汚染への取り組み(Action)

持続可能な水資源の管理は、人々の安定した生活と平和を支えるために不可欠です。そのためには、資金の増加、データに基づいた意思決定の促進、人材の育成、革新的技術の導入、そして分野を超えた協力の強化が必要です。

将来、特に水不足が予測される地域は、中国、インド、ヨーロッパ、北米、中央アフリカです。これらの地域での水不足の原因は異なり、それぞれに応じた適切な対策が求められています。

研究開発

水資源の枯渇が自然環境や人間社会に与える影響を軽減するためには、早急に対応策を策定する必要があります。そのためには、この問題を深く理解することが不可欠です。しかし、現状ではモニタリングと報告体制が国や地域ごとに不均一で、質の高いデータが不足しているため、持続可能な開発目標(SDGs)に基づく十分な分析が非常に難しい状況です。

水資源の枯渇に関する研究を推進することによって、水の利用可能性や水質汚染の変化が引き起こす水不足問題に対する理解を深めることができます。また、水汚染地域(ホットスポット)の分析を通じて、水不足が深刻化する可能性の高い地域に対し、効果的で積極的な水管理戦略を促進することが可能となります。

こうした戦略を策定するには、水量だけでなく水質にも焦点を当てた研究が必要とされています。近年では、窒素を含む汚染物質に着目し、世界規模での水不足を評価する研究が進んでいます。今後は、気候変動や社会経済のシナリオに基づく将来の河川窒素汚染が引き起こす水不足を定量的に評価することが課題となっています。

統合的水資源管理(Integrated Water Resources Management/IWRM )

統合的水資源管理とは、「水資源、土地資源、その他の関連する資源の調和的な開発及び管理を促進するためのプロセスであり、その結果もたらされる経済的、社会的な福祉の最大化を図りつつ、同時に決定的に重要な生態系の持続可能性を確保するもの(※1)」を指します。

つまり、自然界において水のあらゆる形態・段階(水資源や土地資源、水量や水質、地下水や汚水など)を包括的に考慮し、もともと別々に管理されていた水にまつわる部門(河川、農業用水、工業用水など)を考慮し、あらゆる利害関係者(政府、民間セクター、NGO、住民など)を巻き込み、地球と人間にとって持続可能な水利用・管理を目指す、参加型アプローチを目指すものです(※2)

この概念は、1992年のアイルランドのダブリンにおける水と環境についての議論、ブラジルで開催された地球サミット、世界水パートナーシップによる「統合的水資源管理」報告書を通じて、国際的に水問題を解決するために必要なアプローチとして確立されました。

統合水資源管理が進んでいる国は、気候変動や生物多様性の損失、汚染に対して強い回復力を持っていますが、世界全体ではその進展が遅れています。2030年までに統合水資源管理の実施率を91%〜100%にすることを目標としていますが、2017年には49%、2023年には57%にとどまっています。特に、中央・南アジア、ラテンアメリカ、オセアニア、サハラ以南のアフリカ地域では、その実施を加速することが重要な課題となっています。

水資源の枯渇と汚染に関して私たちができること(What We Can Do)

持続可能な水資源管理のもとで、すべての人々が水と衛生設備にアクセスできることが、世界の繁栄と平和にとって不可欠であることを私たちは理解し、認識する必要があります。

個々の水の無駄遣いを減らすことも重要ですが、同時に、政府や組織に対して積極的に働きかけることも大切です。水問題に取り組む政策や政治家を支持したり、水問題に配慮した製品を選んだりすることで、社会の一員として水資源を守るための未来づくりに貢献することができます。

水資源の枯渇と汚染を改善するアイデア(IDEAS FOR GOOD)

水資源の枯渇と汚染に関連する問題を解決するために、できることは何でしょうか?

IDEAS FOR GOODでは、最先端のテクノロジーやユニークなアイデアで水資源の枯渇と汚染に関連する問題解決に取り組む企業やプロジェクトを紹介しています。

※1 文部科学省 「水資源の統合管理の概念整理」
※2 外務省 「総合水資源管理」


水不足に関連する記事の一覧

【参照サイト】国土交通省 「水資源問題の原因」
【参照サイト】Wang, Mengru, Benjamin Leon Bodirsky, Rhodé Rijneveld et al. ‘A triple increase in global river basins with water scarcity due to future pollution’. Nature Communications 15, no, 880 (2024).
【参照サイト】United Nations. SDG Goals
【参照サイト】United Nations. World Water Development Report 2024
【参照サイト】UNESCO World Water Assessment Programme. The United Nations World Water Development Report 2024: water for prosperity and peace; executive summary.
【参照サイト】UNESCO World Water Assessment Programme. The United Nations World Water Development Report 2024: water for prosperity and peace; facts, figures and action examples.
【参照サイト】Pacific Institute. Water Conflict
【参照サイト】Smart Water Magazine. ‘World Water Day 2024: Water as a conflict trigger and a tool for peace’.
【参照サイト】外務省 「総合水資源管理」
【参照サイト】国土交通省 「水資源問題解決に向けた世界の動向」
【参照サイト】文部科学省 「水資源の統合管理の概念整理」
【参照サイト】外務省 「総合水資源管理」
【参照サイト】Human Rights Watch, ‘Extermination and Acts of Genocide’.
【参照サイト】Raffi Berg. ‘Human Rights Watch accuses Israel of acts of genocide in Gaza over water access’. BBC.

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