ドバイCOP28閉幕。化石燃料時代の「終わりの始まり」となるか?

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2023年11月30日から12月12日(13日まで延長)まで、世界有数の産油国アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで、国連の気候変動対策会議「COP28」が開催された。約200か国が参加し、気候変動対策の進展を模索した。

この会議では、パリ協定が目指す1.5度目標達成のための「グローバル・ストックテイク」が初めて実施された。また、歴史的な転換点として、化石燃料の名指し削減に合意が形成。同時に、気候変動からの「損失と損害」基金に関する初の合意や再生エネルギーの拡大目標なども議論された。

COP28の議長であるアブダビ国営石油会社(ADNOC)の最高経営責任者(CEO)であるスルタン・アル・ジャベル氏には、化石燃料に関する強固な合意を形成する見通しは薄いと見られていた。内部文書の流出により、ジャベル氏が議長の地位を利用して石油・ガスのビジネス取引の意図が示唆され、この疑惑がBBCなどのメディアで報じられたことも一つの理由だ。また、彼が化石燃料の廃止と気温上昇を1.5度に抑える科学的な根拠がないとの発言は、利益相反の懸念を強め、厳しい批判を受けた。

課題は依然として多く残っているが、COP28では化石燃料からの転換を象徴する成果が得られたと評価されている。この記事では、COP28で議論された主要なトピックと課題について掘り下げていきたい。

そもそもCOPとは?

COP(Conference of the Parties)とは、気候変動枠組条約(UNFCCC)の下で開催される国際的な会議であり、「締約国会議」または「COP」と呼ばれている。この会議には、気候変動に焦点を当てた国連の枠組みで、条約に署名した198か国が参加しており、世界的な合意を形成し、気候変動対策を推進するための法的拘束力のある合意を築く主要な場として位置づけられている。

COPは、1995年にドイツで開催されて以来、ほぼ毎年開催されており、気候変動問題に対処するための合意形成と行動計画の策定を行ってきた。初期のCOPは主に締約国間の会議だったが、最近では地方自治体、非政府組織(NGO)、民間企業など、国家以外の関係者も積極的に参加し、より多様なステークホルダーが関与する場となっている。

これまでのCOPの成果と進展

これまでの成果として、気候変動への対処における重要なマイルストーンが数多く生み出されている。その中で特筆すべきなのは、先進国が初めて法的拘束力のある排出削減目標を導入した京都議定書や、途上国向けの気候変動への適応・緩和プロジェクトの資金調達メカニズムとなる緑の気候基金(Green Climate Fund)などだ。

特に重要な成果としては、COP21で採択されたパリ協定が挙げられる。この協定では、地球温暖化を産業革命以前の水準から2℃未満に抑制し、1.5℃に抑制するための取り組みを各国が約束した。パリ協定は、各締約国に対し、温室効果ガスの削減と気候変動の影響への適応策を具体的に明示する「国別貢献目標(NDC)」の設定を求めた。

その他の成果としては、COP25でのジェンダー行動計画や、COP27での「損失と損害」基金の設立方針が挙げられる。

COPは気候変動問題に対処する国際的な協議の場であり、その目的は国際的な枠組みを提供することだ。しかしながら、世界的にCOPに対する懐疑的な見解が存在することにも留意すべきである。環境保護や気候変動への取り組みを装うだけでなく、実際には問題解決に向けた真の努力が欠けているとして、環境団体や活動家、例えばグレタ・トゥーンベリさんから「COPはグリーンウォッシュである」との声が上がっている。言葉と行動のギャップや企業の影響力、実施と監視の不足が問題視され、単なる文書の策定ではなく実際の行動を求めるプロテストが行われているのだ。

COP28の主要議題

化石燃料の「削減」から「廃止」に踏み込めるか

今回のCOP28で、特に注目を浴びたのは化石燃料の廃止合意についてであった。交渉は困難を極めたが、最終的に会期を1日延長し、エネルギーシステムにおける「化石燃料からの転換」の合意に至った。

合意文書では、「公正で秩序ある衡平な方法で、エネルギーシステムにおける化石燃料からの脱却を図り、この重要な10年間に行動を加速させ、科学に則って2050年までにネット・ゼロを達成する(※1)」と明記された。

つまり、2050年までに化石燃料からの脱却を進め、特に1.5度の気温上昇を抑制するために重要な2030年までの10年間に行動を強化するということだ。

そして、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを30年までに現在の3倍に増やし、エネルギー効率改善を2倍に引き上げるという目標も盛り込まれた。

今回の合意は、化石燃料からのエネルギー移行を奨励するものである。各国にエネルギー転換を強制するものではないが、世界的なエネルギー移行のスピードアップに寄与することを期待したい。

グローバル・ストックテイク(Global Stocktake・GST)

COP28で初めて実施されたグローバル・ストックテイク(GST)は、パリ協定の1.5度目標達成に向けた世界の取り組みが不十分であることを示し、2030年までに気温上昇を1.5℃に抑えるためには、より大胆な対策が必要だという認識が共有された。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書と、グローバル・ストックテイクの技術段階報告書から得られた科学的知見によれば、世界は1.5℃を保つために必要な努力から大きく逸れているという。

COP28において、2035年までに世界全体でGHG排出量を2019年比で60%削減する必要性を示したIPCC第6次評価報告書の内容を明確に文書にすることと、各国が次の国別決定貢献量(NDC)を決定する際にグローバル・ストックテイクの結果を反映させるよう促す強い表現を取り入れられるかが注目されていた。

結果、合意には、2035年までの60%削減目標が記載され(※2)、次回のNDC提出時には、各国がグローバル・ストックテイクの結果をどのように考慮したかについて説明が求められることとなった。

COP初のテーマ「平和」

COP28では、初めて「健康、復興、平和(Health, Recovery and Peace)」デーが開催され、気候変動と安全保障に関連するトピックに注目が集まった。健康については、気候変動が人々の健康に多大な影響を及ぼし、暑さによる健康被害や感染症の悪化といった問題が議論された。そこでは、気候変動と保健システムの優先行動に関する合意形成が行われ、その実施のための資金拠出が約束されたのもポイントだ。

また、COPで初めて平和というテーマが取り上げられ、気候変動が紛争の引き金となる可能性や水の不安定性が紛争リスクを高めることが強調された。開催地である中東は気候変動による水の不安定性に直面する地域が多く、水をめぐる紛争のリスクが特に高い地域である。この文脈で、気候変動ファイナンスや「損失と損害」、適応策に注目が集まり、紛争の防止や戦後の復興に必要な資金とリソースの提供が求められた。

気候変動は人間の生活や健康に対する脅威であり、安全保障にも大きな影響を与える。今回、「気候、救援、復興、平和に関するCOP28 UAE宣言」に74か国と40の組織が賛同し、気候変動対策の加速と資金提供を約束した。また、「災害に先立ち行動するための憲章」には39か国と関連機関が署名し、災害への事前対策と資金提供が強調された。

これらの取り組みは、気候変動、平和、安全保障、再生可能エネルギーの促進、人間の移動など、地域を越えた協力とイニシアティブの始動につながったと言える。

「損失と損害」基金(Loss&Damage fund)

COP28では長年の課題でもあった、気候変動による「損失と損害」に対処するための基金設立の動きが初日から大きな進展を見せた。この「損失と損害」基金は、気象災害の影響をすでに受けている途上国を支援するために創設されたものである。EUやアラブ首長国連邦、英国、米国、日本などから合計で4億2,000万ドル(約620億円)の資金が基金への拠出が表明された。

この動きは、COP28が開幕する前の議論から始まったもので、気候変動がもたらす「損失と損害」に対処するために、国際的な資金をどのように確保するかが焦点だった。エジプトでのCOP27でこの問題が初めて議題に上った後、基金の設立が合意されたが、基金の運用方法や資金拠出国、受益国の決定はCOP28で議論されることとなっていた。

予想に反して、この議論は特に難航することなく、会議初日に基金運用に関する合意が成立した。これはCOP28の重要な成果のひとつと見なされている。

まとめ

課題は残るものの、今回のCOP28ではCOP史上初めて、化石燃料の具体的な使用目標を定めた合意文書が採択されたことが歴史的な成果として評価されている。世界が注目したCOP28が単なるパフォーマンスに終わることなく、実質的な成果をもたらすことを期待したい。

※1 原文: ‘Transitioning away from fossil fuels in energy systems, in a just, orderly and equitable manner, accelerating action in this critical decade, so as to achieve net zero by 2050 in keeping with the science’
Conference of the Parties serving as the meeting of the Parties to the Paris Agreement
※2 原文: ‘Also recognizes that limiting global warming to 1.5 °C with no or limited overshoot requires deep, rapid and sustained reductions in global greenhouse gas emissions of 43 percent by 2030 and 60 per cent by 2035 relative to the 2019 level and reaching net zero carbon dioxide emissions by 2050’
「地球温暖化を1.5℃に抑制するためには、2030年までに世界全体で2019年比で43%、2035年までに60%削減し、2050年までに二酸化炭素排出量をネットゼロにする必要がある」
Conference of the Parties serving as the meeting of the Parties to the Paris Agreement

【参照サイト】Conference of the Parties serving as the meeting of the Parties to the Paris Agreement
【参照サイト】‘UAE planned to use COP28 climate talks to make oil deals’. BBC
【参照サイト】Conference of the Parties serving as the meeting of the Parties to the Paris Agreement
【参照サイト】‘Climate activists struggle to be heard at this year’s U.N. climate talks’ npr
【参照サイト】‘COP26: Greta Thunberg tells protest that COP26 has been a “failure”’. BBC
【参照サイト】‘Cop28 president says there is ‘no science’ behind demands for phase-out of fossil fuels’. The Guardian
【参照サイト】「COP28:気候変動への軌道修正となるか」UNDP
【参照サイト】中作 明彦「3分でわかる『COP28』とは?注目の『グローバル・ストックテイク』も解説」
【参照サイト】「COP28 UAE UNFCCC COP28 特集」 公益財団法人 地球環境戦略研究機関 IGES
【参照サイト】COP28 特集 気候変動適応情報プラットフォーム
【参照サイト】「COP28、化石燃料からの『脱却』で合意 『フェーズ・アウト』は含まれず」BBC
【参照サイト】「COP28、化石燃料脱却への取り組みで合意-1日遅れで閉幕」Bloomberg
【参照サイト】「COP28閉幕 焦点の化石燃料『脱却を進める』で合意」VOV
【参照サイト】「COP28が閉幕 『化石燃料からの脱却』合意」TBS
【参照サイト】COP28 WORLD CLIMATE ACTION SUMMIT
【参照サイト】COP28 | Day3: HEALTH, RELIEF, RECOVERY & PEACE DAY
【参照サイト】COP28:損失・損害基金への拠出 必要額には程遠く アムネスティ インターナショナル
【参照サイト】「損失と損害(ロス&ダメージ)に対応するための新たな資金措置(基金を含む)の運用化に関する決定の採択について」外務省
【参照サイト】「COP28開幕 損失と損害の基金運用について合意!」WWFジャパン
【参照サイト】「COP28、初のグローバル・ストックテイクで一進一退ーー損失・損害基金の進展を評価、2030年までに脱・化石燃料を加速へ」グリーンピース・ジャパン
【参照サイト】「COP28 結果報告」グリーンピース・ジャパン
【参照サイト】「グローバル・ストックテイク(GST)とは?」公益財団法人 地球環境戦略研究機関 IGES
【参照サイト】‘COP28: Landmark summit takes direct aim at fossil fuels’. BBC
【関連記事】COP27「損失と損害」とは?意味と背景、今回の議論の結果を解説
【関連記事】損失と損害(Loss and Damage)とは・意味

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