【2023年最新版】「世界幸福度ランキング」なぜ北欧がいつも上位?調査方法や基準を解説
毎年発表される「世界幸福度ランキング」。独立した専門家グループによって構成される「持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(Sustainable Development Solutions Network)」が出版する「世界幸福度報告書(World Happiness Report)」の中で、世界各国の人々の幸福度を数値化し国別に順位をつけたものだ。
2023年度の報告書は、国連が採択した「国際幸福デー」である3月20日に発表された。国の成功は人々の幸福度によって判断されるべきだというポリシーのもと、ギャラップ世界世論調査(Gallup World Poll)のデータをもとに、137か国の幸福度ランキングを発表した。
この記事では、世界幸福度ランキングの最新データとその調査方法、ランキングの基準や仕組みなどをわかりやすく解説する。
2023年最新版のランキング
2. デンマーク
3. アイスランド
4. イスラエル
5. オランダ
……
46. キプロス
47. 日本
48. クロアチア
……
135. シエラレオネ共和国
136. レバノン
137. アフガニスタン
【すべての結果はこちら】WHR 2023, CHAPTER 2: ‘World Happiness, Trust and Social Connections in Times of Crisis’
2023年のランキング1位は、他国を大きく引き離すスコアで6年連続首位となったフィンランド、2位のデンマークも前年からの順位を維持、3位はアイスランドであった。今年度の上位20か国のうち19か国は前回も上位20位にランクインしていた。
最下位はアフガニスタン、下から2番目はレバノンだった。上位グループと下位グループのスコアには大きな開きがある。また、下位10か国内での得点の幅は2.1ポイントもあるのに対し、上位10か国内での得点の差は0.7ポイント未満であった。
日本は6.129ポイントで47位。2022年の6.039ポイントから上昇し、54位から順位をあげた。1位の7.804ポイントを獲得したフィンランドとは、1.765ポイントの差がある。
スコアは、国籍や出生地ではなく、各国の居住人口に基づいている。2018年度の報告書では、地元出身者と外国出身者で回答を分けたが、順位は基本的に同じであった。
なぜ北欧諸国は常に上位なのか
幸福度ランキングの顕著な特徴は、フィンランドやデンマーク、アイスランドなどのスコアが一貫して高いことである。北欧の国が、毎年上位にランクインしてくるのはなぜなのか。
ここからは、特定の国が評価されやすい仕組みについて解説する。
幸福度ランキングの評価基準
報告書は幸福に寄与する現在の考慮事項や要因を探っている。
幸福度ランキングの評価基準は、個人の主観的な「生活評価(日々の生活にどの程度満足しているか)」の平均に基づいている。回答者は各国約1,000人で、個人は最近の生活に対する総合的な満足度を「最悪の生活」を0点、「最高の生活」を10点として11段階で評価する。
2023年度のランキングは2020年から2022年までのデータに基づいているため、新型コロナのパンデミックや、ロシア・ウクライナ情勢が反映されたものとして注目される。
持続可能な開発ソリューション・ネットワークが設定したリサーチ・クエスチョンは以下の通りだ。
- 国民の幸福度を測ることについてのコンセンサス的見解はどのようなものなのか、そしてそれは個人や制度にどのような行動を求めているのか?
- COVID-19をはじめとする過去3年間の危機において、信頼と博愛はどのように命を救い、幸福を支えてきたのか?
- 国家の有効性とは何か、それは人間の幸福にどのような影響を与えるのか?
- 個人による利他的行動は、自分自身の幸福、受け手の幸福、そして社会全体の幸福にどのような影響を与えるのか?
- ソーシャルメディア・データは、一般的な幸福と苦痛のレベルをどの程度測定できるのか?
北欧諸国が評価される理由として、考えられる要因
世界幸福度報告書の既存の研究、理論、データを検証した結果、北欧諸国の幸福度が高い背景には、信頼できる広範な福祉給付、低い汚職レベル、機能する民主主義や国家制度などの要因があることが示唆された。さらに、市民の自律性と自由度の高さ、そして互いに対する社会的信頼が、人生の満足度の高さに寄与していると考えられる。
他の分野、たとえば民主主義、政治的権利、汚職の少なさ、市民間の信頼、安全感、社会的結束、ジェンダー平等、所得の平等な分配、人間開発指数など世界的な比較を見ても、北欧諸国は世界ランキングの上位に入る傾向がある。
ちなみに、OECD、国連、世界銀行の公式データに基づくKISIの調査によると、フィンランドの首都ヘルシンキは、世界で最もワークライフバランスの整った、住みやすい都市(2019年)に選ばれている。
デンマークには、幸福博物館というものまで存在する。
もっとも、「幸福」という非常に抽象的な概念を扱っている以上、容易に因果関係を作ったり、過度な一般化や断定は避けるべきである。しかし、北欧諸国があらゆる分野で高い安定性を保っていることを考慮すると、様々な要因が絡まり合って、システムをポジティブな方向に強化する「フィードバック・ループ」を生み出していると考えられている。
他の先進国でも似たような傾向はある
報告書はまた、幸福度ランキングで常に上位を占める他の国々(スイス、オランダ、ニュージーランド、カナダ、オーストラリア)にも、北欧諸国と同じような要素があることを明らかにした。
これらの国の特徴は、質の高い国家機関、汚職の少なさ、約束したことを実現する能力、さまざまな側面における市民への手厚いケアなどである。これらの要因は、互いに好循環を生み出していると考えられている。したがって、北欧諸国をはじめとする幸福度ランキング上位国から、実践的なヒントを得ることは可能であろう。
前提として、幸福度ランキングは個人の主観的な「生活評価」に基づいているため、調査方法の限界から絶対的なものではない。しかし、環境が個人の幸福に与える影響を矮小化することはできず、国によるスコアの違いの原因となる要因は数多く存在すると考えられる。
持続可能な開発ソリューション・ネットワークは、6つの要因指標(1人あたりGDP、社会的支援、健康寿命、人生選択の自由、寛容さ、汚職)を挙げることで、個人の「生活評価」を説明しようと試みている。混同されがちだが、幸福度ランキングはこれら6つの指標に基づいているわけではない。言い換えれば、これら6つの変数に関する観測データと、個人の「生活評価」との関連性を見出すことで、なぜ国によって「生活評価」のギャップがあるのかを紐解こうとしている。
仏教の国ブータンが持つ、別の「幸せ」の基準
ブータンが幸せの国として知られるようになったのは、1970年代にブータンの第4代国王ジクメ・センゲ・ワンチュクが提唱した、GNH(国民総幸福量)という概念に由来する。当時、世界はGNP(国民総生産)つまりカネやモノの量に集中していたが、国王はそれよりも幸福の方が重要だと考え、世界で初めて国策として幸福を追求しはじめたのだ。
このGNHの概念はブータン王国憲法第九条第二項に記載されている。現在のブータン政府の政策はすべてGNHに忠実であることが求められ、経済成長よりも環境やコミュニティの保護が優先されなければならない。
GNHは、人間社会のより良い発展は、物質的な発展と精神的な発展の相互補完から生まれるという考え方に基づくもので、物質的な側面だけを量るGNPよりも、より包括的に国家の質を量る尺度であると考えられている。
GNHは5年ごとに国勢調査を通して調査される。GNHには「持続可能な開発の促進」「文化的価値の保存と促進」「自然環境の保全」「善い統治の確立」という4つの柱がある。経済発展も重要だが、それはヒト・社会・地球のつながりを大切にするGNHの理念の中のひとつの要素に過ぎない。
GNH指数には9つの領域(心理的ウェルビーイング、健康、教育、時間の使い方、文化の多様性と回復力、良好なガバナンス、コミュニティの活力、生態系の多様性と回復力、生活水準)がある。これら9つの領域には33の指標があり、各指標における各人の達成度から、国民の幸福度を測定する。
この指標は、「深く幸せな人」、「広く幸せな人」、「狭く幸せな人」、「不幸せな人」の4つのグループを特定する。最新のGNH指数は2022年度のもので、国民の9.5%を「深く幸せな人」、38.6%を「広く幸せな人」、45.5%を「狭く幸せな人」、6.4%を「不幸せな人」と分類している。
この分析では、人々がすでに享受している幸福のレベルを探ることで、GNH社会の実現や、幸福度の低い人々の幸福度向上に役立つ政策への洞察を得ようとしている。
持続可能な幸福度を測る地球幸福度指数(HPI)とは?
国民総幸福量(GNH)の他にも、地球幸福度指数(Happy Planet Index)と呼ばれる幸福の尺度がある。地球幸福指数(HPI)は、イギリスのシンクタンク、ニューエコノミクス財団によって発表された「持続可能な幸福」を測る指標のことだ。
最新版の2019年世界ランキングでは、コスタリカが1位、バヌアツが2位、コロンビアが3位、スイスが4位、エクアドルが5位となった。世界幸福度報告書の幸福度ランキングの上位国とは異なる顔ぶれだが、どのような基準で評価されているのだろうか。
HPIは4つの要素によって算出されている。
- ウェルビーイング:各国の住民が生活にどれだけ満足しているか
- 平均寿命:各国で予想される平均余命年数
- 国内格差:寿命や幸福度の観点から各国内で生じている不平等
- エコロジカル・フットプリント:各国の住民一人ひとりが環境へ与える影響
【詳しくはこちら】地球幸福度指数(HPI)とは・意味
人と地球に優しい持続可能な幸せを探求する指標とも言えよう。
幸福度ランキングだけを指標に「この国は素晴らしい」と単純化するのは違うが、その国の大きな魅力のひとつとして、学べるところはあるのではないか。
日本の都道府県「幸福度」ランキング
都道府県「幸福度」ランキングとは、ブランド総合研究所の「第5回地域版SDGs調査2023」が各都道府県の住民を対象に実施した調査データに基づく。住民の幸福度や定住意欲度、住民の悩みや地域課題などを数値化している。
2023年の1位は3年連続で沖縄県、2位は鹿児島県、3位は熊本県だった。
「幸福度」の評価方法は、「あなたは幸せですか」という質問に対して、「とても幸せ」「少し幸せ」「どちらともいえない」「あまり幸せではない」「全く幸せではない」の5段階で評価してもらい、それぞれ100点、75点、50点、25点、0点として加重平均したものである。
47都道府県の平均点は68.3点で、前年の70.1点を下回った。点数の低下には物価の上昇や地域の疲弊が関係していると考えられている。
幸福度の高いコミュニティを作るには?世界の事例3選
最後に、幸福度を高めそうな世界の取り組みを紹介する。
01. 政治家と酒を飲みながら議論できるコペンハーゲンの老舗パブ「Toga Vin & Ølstue」
本来、健全な政治とは、相手を蹴落とすだけの表面的な論破やディベートのようなものではなく、建設的な議論を交わすことではないか。しかし、このような基本的とも思える政治が行われている国はどれだけあるだろうか。この記事では、自分とは無関係で「遠い存在」だと思われがちな政治家(時には首相も)と、お酒を飲みながら自由に議論ができるデンマークのパブを紹介している。歴史学者や弁護士がバーテンダーとして活躍しているというのも興味深い。
02. 世界一幸福な国フィンランドが開催する「幸せの修士課程」とは?
「本当の幸せとは何か?」考えたことがあるだろうか。忙しすぎる現代の生活では、目先の物質的な豊かさを、心の豊かさと勘違いしてしまうことがあるかもしれない。この記事では、フィンランド政府観光局による、本質的な幸せを学ぶためのプログラムを紹介している。ウェルビーイングや自然とのつながりなどを通して、幸せとは何かと改めて向き合う機会を与えてくれる。
03. 男女平等が進むアイスランド、世界で初めて男女の賃金格差を法律で禁止に
個人の可能性がカテゴリーによって制限されないことは、幸福の大きな要因である。しかし、同じ労働力でも性別という枠組みによって賃金に格差が生じるというのは世界では「当たり前」のこと。男女の賃金格差を見ても、驚かなくなっている人も多いのではないか。「特定の仕事やポジションが性別によって異なるからではないか」と。もしそうだとしたら、ジェンダーバイアスなどの社会規範による物理的・精神的なバリアが、職業選択の時点から可能性を狭めているのだということを少し考えてみて欲しい。ジェンダー平等が進んでいるとされる北欧でも男女の賃金格差は存在する。この記事では、アイスランドにおける「性別による賃金格差を禁止する」法律について紹介している。
まとめ
幸福度ランキングは、その結果にただ一喜一憂するためにあるのではない。このランキングと報告書をもとに、真に豊かな生活とは何かを問いかけ、各国で建設的な取り組みをもたらすことを期待するものである。
【参照サイト】World Happiness Report 2023
【参照サイト】WHR 2023, CHAPTER 2: ‘World Happiness, Trust and Social Connections in Times of Crisis’
【参照サイト】WHR 2023, Executive Summary
【参照サイト】WHR 2022, CHAPTER 2: ‘Happiness, Benevolence, and Trust During COVID-19 and Beyond’
【参照サイト】WHR 2020, CHAPTER 7: ‘The Nordic Exceptionalism: What Explains Why the Nordic Countries Are Constantly Among the Happiest in the World’
【参照サイト】【世界幸福度ランキング】日本の幸福度、2023年は47位に上昇 トップは6年連続の…
【参照サイト】「国民総幸福量(GNH)」在東京ブータン王国名誉総領事館
【参照サイト】「ブータン~国民総幸福量(GNH)を尊重する国」外務省
【参照サイト】Sithey, G., Thow, A. M., & Li, M. ‘Gross national happiness and health: lessons from Bhutan’. Bulletin of the World Health Organization. 93, 8. (2015): 514.
【参照サイト】草郷 孝好 「ブータンの『国民総幸福量(GNH)』とは何か」
【参照サイト】Bhutan’s Gross National Happiness Index
【参照サイト】都道府県「幸福度」ランキング2023【完全版】
【関連記事】地球幸福度指数(HPI)とは・意味