車の流れが単調だった。そういえばあまり寝ていなかったと、少しの間目を閉じていたかもしれない。ふと、ハンドルが手を離れ、車のコントロールを失ったことに気付く。世界が急激に傾き、ぼやけた視界一面に対向車のライトが眩しい。これは夢?声を上げる間もなかった。死にたくない。でも、きっともう、遅い。
日本国内の交通事故による死亡者数は50年ほど前に比べて大きく減少しているが、疲労運転、居眠り運転、病気などの健康状態による交通事故は増加傾向にあるという。なかでもトラックドライバーの居眠り運転は深刻な問題であり、2015年の国土交通省の調査によると、運送業者の交通事故発生要因として居眠り運転が10%を占めていた。
こうした人間のミスを防ぐためにも自動運転車の導入が急がれる昨今だが、フォード社はトラックドライバーが身に着ける帽子に工夫を凝らすことで、居眠り運転を防ぐ方法を提案した。Safe Capという名のこのキャップは、人が疲れていたり眠くなっていたりするときの頭部の動きを察知し、ドライバーに注意喚起を行うことができる。注意喚起の方法は、振動、音、そして光の点滅の3種類だ。
Safe Capの開発にあたり、まずはトラックドライバーが仕事をしているときの通常の動きと、うとうとしている動きを識別する研究が行われた。そのデータベースをキャップの中央処理装置に転送し、加速度センサーやジャイロスコープと接続してそれぞれの状況判断を行う仕組みになっている。振動などでドライバーに注意し、休憩をとるよう促すことができる。
フォード社はSafe Capのテストを8か月間かけて行い、複数のドライバーに5,000km以上の距離を走ってもらった。また、交通安全対策に詳しい専門家や睡眠の専門家にも見てもらったという。キャップはまだ試作品の段階であり、当面は商品化の予定が無いという話だが、フォード社はこの技術の共有に前向きな姿勢を見せている。研究の成果が市場に投入される日が来ることを期待したい。