スウェーデンで進む「マイクロチップ・インプラント」から考える、人とテクノロジーとの付き合い方

Browse By

人類の歴史にインターネットが誕生してからおよそ50年。コンピュータ同士の接続から始まったインターネットは、IoT(Internet of Things)の進展によりあらゆる「モノ」とつながりはじめ、次はいよいよ「人間」とつながる時代が始まろうとしている。

IT先進国として知られるスウェーデンでは、あらゆる個人情報を内蔵したマイクロチップを手などの体内に埋め込む「マイクロチップ・インプラント」が進んでおり、すでにその数は約3,000名に達しているという。

私たちが日常的に使用している交通ICカードやカードキーには、必要なセキュリティ情報が記録された米粒大のマイクロチップが内蔵されており、これを端末にかざすことで決済や解錠ができる仕組みになっている。このマイクロチップを手などに埋め込むことで、カードもスマホも使うことなく手をかざすだけで電子決済やドアの開錠などができるようになるのだ。

マイクロチップは生体適合する容器に入れられた状態で埋め込まれるほか、これまでにも動物へのインプラントは行われてきたことから、人間においても衛生上や健康上のリスクは特にないものと考えられている。

賛否を呼ぶヒトのインターネット

ヒトとインターネットをつなぐ
モノ同士をインターネットでつなぐ「IoT(Internet of Things:モノのインターネット)」に対して、人の情報をリアルタイムに通信させる技術は「IoH(Internet of Human:ヒトのインターネット)」と呼ばれる。

近年ではスマートウォッチなどのウェアラブルデバイスを用いて心拍数や健康状態などを管理することも珍しくはなくなった。しかし、ただ身につけるだけのウェアラブルデバイスとは異なり、人の体内に情報機器を直接埋め込むという発想はいささかセンセーショナルで、賛否を呼んでいることも事実だ。

マイクロチップ・インプラントのリスクとして特に懸念されているのが、情報セキュリティやプライバシーの問題だ。個人が特定できる大量の身体情報が常にハッキングされる危険性が心配されている。

一方で、推進派からは「生活が便利になる」「健康管理ができる」などの声が挙がっているが、実際にはその魅力は未来の暮らしを感じさせる経験そのものにあるようだ。マイクロチップ・インプラントをポジティブに受け入れた28歳のUlrika Celsingさんは、「新しいものを試せること、それに将来の生活をより便利にするものを目にできることって、すごく楽しいわ」と語る。

こうした動きはスウェーデンに限ったものではない。アメリカのウィスコンシン州のソフトウェアデザイン企業Three Square Marketは従業員にインプラントを実施し、社員食堂での決済やドアのセキュリティロック解除、PCへの自動ログインなどを可能にするなど、すでに仕事の現場で活用を進めている。人をインターネットにつなげる取り組みは、静かに、しかし確実に浸透し始めているのだ。

最新テクノロジーといかに付き合うか

さて、あなたはこのマイクロチップ・インプラントという新たな動きをどのように受け止めただろう。私たちの生活がより便利に、そして豊かになる将来像を描き、ワクワク感を覚えただろうか。それとも、自ら体内にチップを埋め込むという未知の体験に恐怖を感じただろうか。

生涯に1,000を超える発明を行い、没後80年以上が経ちながらも未だ「発明王」として世界中にその名が知られるトーマス・エジソン。彼が残した多くの言葉の一つに次のようなものがある。

「大事なことは、君の頭の中に巣を作っている常識という理性を綺麗さっぱり捨てることだ。」

かつて想像もできなかったテクノロジーが現実となった現代だからこそ思うのは、この言葉が発明家だけではなく、きっとその発明品を受け入れ、使用する私たち消費者にも向けられたものだったのではないかということだ。

進歩や革新は、これまでの生活様式を捨てることと表裏一体の関係にある。私たちはテクノロジーによって失われていくものばかりに目を向けてしまいがちだが、それを使うことにより実現される未来にもっと期待してもいいはずだ。

マイクロチップ・インプラントは技術としてはそれほど新しいものではないが、体内に埋め込むことでこれまでの大量カードの煩わしさを解消してくれるうえ、さらに記録される情報の種類が鍵や決済情報だけではなく、免許証や住民票、あるいは履歴書や経歴書などにまで広がり、あらゆる情報が手の平から読み取れるようになれば、その利便性は格段に向上していく未来が待っている。

より豊かで幸せな社会をと願いながらも、本能的に現状維持に重きを置いてしまう臆病な私たち。手の上で使うテクノロジーを時代ごとに変えるだけではなく、私たち自身、テクノロジーとの付き合い方を変えていくことも必要だ。テクノロジーに常識が巣を作っている限り、未来はいつまでも恐怖との隣り合わせのままだろう。

【参照サイト】Brief History of the Internet
【参照サイト】Thousands of people in Sweden are embedding microchips under their skin to replace ID cards
【参照サイト】Wisconsin company to implant microchips in its employees in August
【参照サイト】「IoH(Internet of Human)」の活用がモノづくりを進化させる

FacebookTwitter