私たちの食卓にのぼることが多いエビやカニは、加工の際にたくさんのゴミが発生する。そのようなゴミをうまく活用しようと、これまで様々なアイデアが生み出され、そのいくつかをIDEAS FOR GOODでも取り上げてきた。カニの甲羅を使用した食品ラップやカニの殻を使ったナノ発電機など、エコなアイデアが登場している。今回は、エビの殻と果物のゴミを発酵させてつくる「キチン」を紹介する。
キチンとは、甲殻類の外骨格やキノコなどの細胞壁の主成分である天然物だ。食品の増粘剤や安定剤、抗菌食品の包装や肥料など、さまざまなものに使用されている。しかし、現在キチンの抽出に用いられている化学的な方法ではコストがかかり、大量のエネルギーを消費するうえに、産業廃水として排出されうる副産物を生成する。
そこで、シンガポールの南洋理工大学(NTUシンガポール)の研究チームが開発したのが、甲殻類の廃棄物と果物のゴミを自然発酵させるプロセスを使ってキチンを抽出する方法だ。
研究チームが、白ブドウと赤ブドウの搾りかすやマンゴーとリンゴの皮、パイナップルの芯などの一般的な果物のゴミ10種類を使って、さまざまな発酵実験を行ったところ、果物のゴミがエビの殻をキチンに分解する発酵プロセスを行うのに十分な糖分を含んでいることを発見した。
新方法で抽出されたキチンの原子構造と分子構造を測定すると、果物のゴミを使用して発酵させたエビの殻から抽出されたキチンのサンプルは市販のものより高い結晶化度を示し、より高品質であることが確認された。また、キチンをさらに発酵させると、植物肥料の成長促進剤やドラッグデリバリーシステム(薬を効果的に必要な部位に届ける投薬システム)として使用できるキトサンという物質が生成されることも明らかになった。
「私たちの方法は、より高品質のキチンを生成するだけでなく、より持続可能で環境にやさしいプロセスでもある。さまざまな種類の果物のゴミからよい結果が得られたが、中でも赤ブドウの搾りかすの糖は最高の性能を示した。産業規模における費用対効果も高く、廃棄物削減とアップサイクルを目指すワイナリーにとって魅力的なものになる可能性がある。」と、NTUシンガポール食品科学と技術プログラムのディレクターで当研究を率いたチェン教授は述べる。
研究者らは大豆かすやオカラを使った食品包装など、キトサンを使用してこれまで行ってきた研究をさらに発展させる方法を模索中で、例えば抗菌性があり、より耐久性のあるセロハンテープの開発などが期待される。また他の企業とともに、キチンとキトサンを用いた、環境に優しい産業への移行も促している。
エビの殻と果物のゴミ、2つのゴミを発酵させることは、幅広く使用できる「キチン」の抽出だけでなく、廃棄物削減にもつながる。エコでサステナブルな研究はこれから様々な分野でも進み、私たちの生活に興味深いアイデアをもたらしてくれるであろう。