ロッテルダムのインキュベーション施設 「BlueCity」に学ぶ、サーキュラーエコノミーの始め方

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オランダ・ロッテルダムに拠点を置くサーキュラーエコノミーのインキュベーションセンター「BlueCity(ブルーシティ)」は、世界から多くの注目を集めている。

サーキュラーエコノミーの起業家・資源・知識・ネットワークが集まるBlueCityの成り立ちから、企業が新たにサーキュラーエコノミー事業を始めるのに必要なものを紐解くため、当施設の広報担当であるDiana van Ewijkさんを取材した。

※ 以下の話は、すべてDianaさんの言葉。

世界が注目するサーキュラーエコノミー施設は、かつての温水プール

今私たちが立っているここは、かつての温水プール「Tropicana」の入り口でした。あのスライダーには水が流れ、子どもたちが次々と飛び込んでいました。

今はロッテルダムのサーキュラーエコノミーのエコシステム、インキュベーターとして、30社・約100名の起業家やスモールビジネスの拠点となっています。そのなかには個人事業主として様々なプロジェクトを手掛ける人や、会社員として働きながらも、新しいインスピレーションやアイデアを得るために週に一回ほどここに来る人もいます。

ここに来るのは、入居企業だけではありません。BlueCityは、ロッテルダム市でサーキュラーエコノミーの分野に飛び込みたいと思っている人や、すでに泳ぎ始めている人たちを広く迎え入れています。サーキュラーエコノミーにおけるスタートアップにとって、外部からのパートナー・資源・人脈・刺激は何より重要です。多様なつながりなしにはサーキュラーエコノミーのエコシステムは完成しないからです。

また、(新型コロナウイルス感染症拡大の影響がないときは)通常は週2回ほどイベントを行っています。その一部は、地域住民のためのサステナブルな暮らしを送るヒントを探すことを目的としています。

BlueCityは、素敵なビジネススーツに身を包んで、会議室で打ち合わせだけを繰り返すための場所ではありません。実際に自分たちの手を動かして、動き回って、試行錯誤しながらサーキュラーエコノミーの波を生み出す場所です。だからこそ、多くの人が自分の目で見てみようとこの場所を訪れるのです。

実際にBlueCityは国際的なサーキュラーエコノミーの象徴として世界から大きく注目されており、昨年の一年間でBlueCityに視察に訪れた人は1万7000人に上りました。

地下には昨年開設したBlueCity Labがあります。現在改装中ですが、9月に再度オープンする予定です。ここではサーキュラーエコノミーに移行する上で不可欠な、資源循環について多くの研究が行われるでしょう。現在地下にはすでに3〜4つのラボがあり、異なる菌類とバクテリアの研究をしています。さらに、新たな資源の試作を行うための乾燥ラボもあります。過去には2日分の家庭ごみを集め、どのような資源として活用できるか解明するための実験をしたこともあります。

さらに、大きなプラスチック加工場があり、廃プラスチックを使い3Dプリンターで新しい造形を作り出すこともできます。

BlueCityの中を覗くと、いつも新しいことが起きています。わくわくするでしょう?毎日が実験と発見の連続なのです。

BlueCityの大きなイベントスペースは、私たちが主催するイベント以外にも、外部の企業に貸し出してワークショップやネットワーキングイベントの場としても利用されています。こうしたイベントの際に提供するケータリングにも、様々な工夫を凝らしています。BlueCityが提供する「サーキュラー・ケータリング」は、サーキュラーエコノミーのアイデアに溢れており良い刺激になると評判です。

同じ敷地内に併設されているローウェイスト・フードバー「Aloha」では、地元の食材を使ったおいしい料理やホームメイドドリンクを提供しています。食材は50km圏内のものを使用し極力フードマイルを抑え、オペレーション上各所に廃棄を極力減らすための工夫をちりばめています。

自然こそがサーキュラーエコシステム発想の源

そもそも古い温水プールの建物をそのまま活用していること自体が、サーキュラーエコノミーのリユース(reuse)の例として象徴的です。

この建物は80年代に建てられ、25年ほど地元の温水プールとしてロッテルダムに暮らす人々に愛されたのちに、不要になったからと取り壊す案がありました。しかし、市民たちがこれに猛反対。取り壊しは阻止されたものの、結局放棄され廃墟になりました。しかし、ビルの所有者にとっては廃墟のままにしておけない理由がありました。

1994年に、ある建物が1年間以上使われておらず、かつその持ち主が建物をすぐに利用するような計画を提示できなければ、外から来た何の関係のない個人「スクワッター」がそのままそこに住んで良いというスクワット法が成立していたためです。このため、建物の所有者たちはスクワッターに建物を占拠されてしまうことを防ぐために、誰かをその場に住ませ、働かせることが各地で行われていました。この建物の所有者もその例に漏れず、人を住まわせることにしたのです。

スクワッターを防ぐために初めに入居したのが、Siemen Coxでした。続いて、Mark Slegersも入居しました。彼らはグンター・パウリ著の「ブルーエコノミーに変えよう」を読み、大きく感銘を受けていました。自然の生態系から着想されたブルーエコノミーは、成長の限界を克服し、ゼロ・エミッションを実現する経済モデルであること、さらに生物や生物のつながりから学ぶ100のテクノロジー事例が書かれた本で、自然にはどのような廃棄物の流れ(waste stream)があり、どのようにそれらを使えば新しい製品を作る資源にできるのかを学ぶことができます。

これに大きなヒントを得て、SiemenとMarkは共にBlueCity最初の起業家として、この場所でコーヒーがらからマッシュルームを育てる「rotterzwam」というビジネスを立ち上げました。

BlueCityの地下には、かつて温水プールの美容サロンがありました。常に気温を一定に保つことができ、太陽光が遮断される洞窟のような環境です。これがマッシュルームを栽培するのに最適でした。そしてマッシュルーム栽培を始めてすぐにふたりは、この場所にはもっと多くの起業家が必要なことに気が付きました。そうすることで、お互いの資源を利用し合う、廃棄物の流れを共有し、共にビジネスを行う共同体が作れると。これこそが、BlueCityの始まりです。

そしてSiemenとMarkは、彼らのビジョンであるブルーエコノミーに共感する多くの起業家を見つけました。そして、集まった起業家たちと5年前の2015年にこの場所を100万ユーロ(1億円程度)で正式に買い取りました。今だったらこんなに安くは買えなかったでしょう。5年前、オランダではサーキュラーエコノミーはまだまだ「概念」に過ぎませんでした。しかしその後1年も立たずに政治が後押しするガイドラインになりました。2050年までにオランダはサーキュラーエコノミーへの移行を目指すという目標が設定されたのです。現在では、多くの政治家が国を挙げてサーキュラーエコノミーへの移行を実現するという目標達成に向けて奔走しています。

私たちはそのなかでも非常に早い段階でサーキュラーエコノミーに取り組み始めたため、他の起業家にお伝えできることがあると感じています。

サーキュラー建築には忍耐力・柔軟性・発想力が欠かせない

4年前、私がここで働き始めた頃はすごいありさまでした。地下に足を踏み入れられなかったほどです。水流や水温、気温を管理するためのパイプなどがいたるところに張り巡らされていたためです。多くの起業家がBlueCityに入れるよう、まずはかつてナイトクラブだったエリアをオフィス棟に改装しました。さらに、水温や気温管理のための装置を撤去することで、さらなる起業家のための入居スペースを確保することができました。BlueCityは12,000㎡ありますが、現在はそのうちの約半分、6,000㎡がオフィス・作業スペースとして利用できる状態です。改装工事が進めば、今後さらに50〜60社程度を受け入れることができるようになるでしょう。

私たちは、新たな採掘資源をほとんど使うことなくBlueCityを作っています。BlueCityの改修工事に使われる資源のうち、およそ9割は再利用されたものです。都市から出る多くの廃棄物は建造物から発生するため、建築からサーキュラーエコノミーを実践することは大きな意味を持ちます。

BlueCityを構成するある資材は、まもなくオープンする予定だったところ急に廃業することになってしまった学校から譲り受けたものです。買うには高すぎる資材ですが、解体されるところからもらってきました。

また別の資材は、アムステルダムの建物に使われていたのが不要になったもので、あと数ヶ月後にオープン予定の食の実験のためのフードラボを改装するために使う予定です。

難しいのは、ぴったりの資源・資材が見つかるまでじっと待たなければならないところです。デザインも、見つかった資材に応じて変えていかなければなりません。資源が見つかっても、すぐに使えるわけではなく、用途に合うように専門業者に加工してもらわなければなりません。当然時期を見通すことができないので業者のスケジュールが空くまで待たなければいけないのです。

また、どこかからもらってきたからと言っても、決して安いわけではありません。正確に言えば、資源自体をもらうのにあまりコストはかかりませんが、それを使える状態に加工するのに多くの人件費がかかります。

この窓枠は南部の病院から譲り受けたものです。しかし、実際に届いたのは、当初伝えられていたサイズよりも大きいものでした。これが建物に合うように、デザインを柔軟に変更したのです。でも結果的に、窓が直線でないことで、防音性を高め、さらに斜めに反射するのでプライバシー性も少し向上させるという効果がありました。

まず、建物をデザインして、二次(中古)資材が市場に出るのを待ちます。そして、実際に見つかったものを見て、最初に作成したデザインを柔軟に変更します。しかし、言うのは簡単ですが、実際にやるは非常に難しい。このような芸当を可能にしているのは、私たちの建築チームがサーキュラーエコノミーの例を熟知しており、多様な経験があるから他なりません。実際多くの場合、出てくる資材はユニークで、初めのデザインの段階では想像できなかったようなものなのですから。

サーキュラー建築には、資源が見つかるまで待つ間の辛抱強さや、資源についての深い理解、臨機応変にデザインや考え方を変えていく柔軟性が必要ですが、だからこそ生まれる工夫やイノベーション、そしてストーリーがあります。

温水プールだったこの建物の最も厄介な廃棄物はコンクリートです。ほとんどすべてがコンクリートでできていますが、コンクリートは作るのにも捨てるのにも環境負荷が非常に大きい。だから私たちは現在、コンクリートを再利用する方法はないか模索しているところです。課題がいくつかありますが、ひとつずつクリアできるように試行錯誤しています。

同じ時代に建てられた建物の多くが、コンクリートを塗り固めてつくられているため、私たちが解決策を生み出すことができれば街の至る所に用いることができるでしょう。

実際に私たちは、ロッテルダム全体に散らばる、コンクリート製の建物を資源として再利用する方法を見つけてほしいとロッテルダム市から依頼を受けています。

小さなサーキュラーエコノミーのエコシステムが大きな課題を解決する

私たちは、構造的にも気持ちの上でも、BlueCityを開かれた場だと考えています。開かれた場は、繋がりを作るからです。入居者はBlueCity内のどこに行っても、誰に会っても良いのです。BlueCityはエコシステムであり、入居者はそのエコシステムの一部として、共に育っていきます。そのエコシステムは、人々が出会う場をつくり、つながりを強固なものにする「インフラ」を提供することで実現できると考えています。入居している起業家同士ではWhatsApp(オランダをはじめ、海外で使われるLINEのようなメッセージアプリケーション)グループを作っており、どんなジョークでもアイデアでも共有できるグループです。また、コーヒーやランチは出会い、アイデアを交換する良い場となります。

あるお昼時、パンをつくっている起業家が、昆虫は素晴らしい食料で、どのように食べ物に加工できるかと話していました。それを聞いた他の起業家がコオロギバーガーをつくることにしたのです。これが功を奏し、彼らは現在Krekerijというスタートアップ企業として、コオロギやバッタをパテやミートボールに食品加工して販売しています。

共有するのはアイデアだけではありません。BlueCityの起業家たちは廃棄物の流れを共有しているのです。「誰かの廃棄は誰かの資源」をBlueCity内で可能にしているところに、面白さと革新性、経済的合理性があります。

Vet & Lazy Brouwerijは雨水を貯水し、ビールを作る起業家です。そしてビールを作ったあとに残る麦芽の絞り粕を使って、BlueCityのシェフたちがパンやクッキーなどを作っています。この麦芽粕は通常バイオ燃料として燃やされてしまうだけですが、別の食べ物に生まれ変わる方が、より高い価値を保った資源として活かされるというわけです。

また、スタートアップ企業のSpireauxはスピルリナを育てています。スピルリナは非常に良いタンパク質源になり、肉と比べ環境にも優しいという特徴があります。スピルリナは光合成をして酸素を排出しますが、この不要な酸素という資源はキノコを育てるのに必要です。BlueCity最初の起業家Rotterzwamは、ロッテルダム市で出るコーヒーがらと、スピルリナの光合成から出る酸素を用いて、オイスターマッシュルームを育てています。

BlueCityは決して大きな組織ではありません。しかし、小さなスケールで様々な実験をし、やり方を見つけることで、大きなスケールの課題を解決することにつながっていくと考えています。

サーキュラーエコノミーは地元住民の暮らしあってこそ

1階部分の外壁は、ガラス製にしています。中で何が行われているか、住民たちが見えるようにしたかったからです。また、プールのエリアは、最終的には地元コミュニティのためのイベントスペースにする予定です。

この場所は、かつて地元の温水プールとして、子ども連れの家族で賑わう憩いの場でした。起業家たちだけのものにしてしまうのではなく、ロッテルダムの住民たちに返し、豊かなコミュニティを育むハブにしたいのです。ビジネスだけがサーキュラーエコノミーの実現に重要なのではありません。ここに暮らす人々もその一部でなければならないのです。このエリアでは起業家向けのイベントも行いますが、ムービーナイトなどの地元住民や子どもたち、家族連れに向けたイベントも行っていく予定です。

「経済」と言ってしまうと複雑なように感じてしまいますが、人々はすでにサーキュラーエコノミーのなかに暮らしていることを、より身近に感じてほしいのです。

取材後記

BlueCityでの取材で何よりも印象的だったのは、そこにいる人たちの距離の近さと、底抜けに楽しそうでいきいきとした表情だ。「人々をつなぎ、そのつながりを強固にすること」というDianaさんの言葉の通り、BlueCityはその役割を担うことでロッテルダムのサーキュラーエコノミーのエコシステムを確実に強く、深く根を張るものにしている。

まだまだ正解がわからないサーキュラーエコノミーだからこそ、臨機応変に、自ら手を動かし、ともに楽しんで取り組むことこそが新しい経済の波に乗っていくために重要なのだと気づかされた。BlueCity始め、ヨーロッパ最大の貿易港、ロッテルダムのサーキュラーエコノミーについて今後もウォッチしていきたい。

【参照サイト】BlueCity
【参照サイト】Aloha
【参考図書】ブルーエコノミーに変えよう グンター・パウリ著 黒川清訳 ダイアモンド社
【参考サイト】rotterzwam
【参考サイト】Krekerij
【参考サイト】Vet & Lazy Brouwerij
【参考サイト】Spireaux

(画像提供:BlueCity)

※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「Circular Economy Hub」からの転載記事となります。

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