2025年11月11日、横浜市国際局(現在:政策経営・国際戦略局)の情報発信・交流・創造拠点「GALERIO(ガレリオ)」にて、駐日オランダ王国大使館が主導のもと2023年から3年間にかけて実施された、サーキュラーエコノミー(循環経済)をテーマとする3年間の日蘭交流プログラムの成果共有イベント「日蘭資源循環ディスカッション “Building Circular Futures”」が開催された。
当日は本プログラムの関係者らが集まり、プログラムの成果を踏まえた上で、今後日本としてどのようにサーキュラーエコノミー、サーキュラーシティを推進していくべきかについて活発な議論が交わされた。本記事では、当日の様子の一部をお届けする。
(※本記事は、日蘭CE交流プログラム振り返り特集の後編です。前編・中編もぜひご覧ください。)

日蘭資源循環ディスカッション “Building Circular Futures” @ GALERIO(ガレリオ)の様子
日本におけるサーキュラー建築の現在地
イベントの最初に登壇したのは、2025年の大阪・関西万博の日本館「ファクトリーエリア」において常設展示制作を担当した、慶應義塾大学環境情報学部教授の田中浩也氏だ。田中氏は、オランダとの交流や万博での実践も踏まえ、日本のサーキュラーエコノミーやサーキュラー建築をめぐる現在地について共有した。
トーマス・ラウ氏と交わした2つの約束
田中氏「今からちょうど3年前、オランダのRAU Architects(大阪万博においてオランダパビリオンのサーキュラー建築を手掛けたドイツ人建築家、トーマス・ラウ氏の建築事務所)にお邪魔したとき、私は2つのことを約束しました。1つは、トーマス・ラウさんらが書いた『Material Matters』という本が日本にとっての一つの教科書になると思い、日本語版の出版に関わらせていただきたいという約束です。もう1つが、彼らが作った Madasterという建築の循環率を測定するシステムを、もし万博のパビリオンで活用する予定があればそれにも協力します、という約束です。この2つの約束がオランダ訪問時の私の収穫で、両方とも達成することができました」

田中浩也氏とトーマス・ラウ氏。2023年オランダ視察時・Rau Architectsのオフィスにて
「1つ目の翻訳については、私が担当したのは後書きだけですが、『マテリアル循環革命』というタイトルで2025年5月に出版しました。どうしても日本で建築の循環を言うと『神社やお寺、木造建築にあるように日本は昔から資源を循環させていた』という話になりがちですが、いま議論しているのはサーキュラー『エコノミー』建築のことであり、単に循環する建築ではなく『経済と連動させて循環させる建築』を考える必要がある、ということを書きました」

慶應義塾大学環境情報学部教授 田中浩也氏
「もう1つは、日本でも循環率の正確な数値化に取り組みたいと思い、私たちが恐らく大学の研究室としては日本で最初にMadasterにユーザー登録し、導入を進めてきました。一言で建築と言っても、その中には色んな種類の建築があります。我々が今回、具体的に対象にしたのはこの『動く建築』というものと、万博の『仮設建築』の2つです」
「動く建築」として田中氏らのチームが制作したのが、鎌倉市内から出るあらゆる資源を活用して作った「アップサイクルキャビン」だ。このキャビンでは、Madasterを用いて循環率や解体可能率を計算し、数値評価も含めて日本建築学会にて発表したという。
循環率を、誰のために、何のために測るのか。
また、田中氏らのチームは仮設建築を研究対象として、万博の日本館においてもMadasterを試験導入した。実際の検証を通じ、今後の日本のサーキュラー建築を考える上での課題の洗い出しができたことが最大の収穫だという。具体的には、4つのポイントが挙げられた。
田中氏「1つ目は、日本のマテリアルデータベースが必要だということ。日本にはまだ建築のマテリアルデータベースがないため、現在はEUのデータベースを使っているのですが、これはなかなか難しい。2つ目は、循環率の目標値設定についてです。(Madasterを使うことで)計算はできますが、例えばこの建物は循環率が68%だと分かったとしても、平均値や目標値などが示されない限り、ほとんど誰にもその意義は伝わりません。数字をどのようにメッセージとして社会に伝えるかの精査が必要だと思いました」

「3番目は、サーキュラリティの評価には建築のBIMデータが必要だという点、そして4番目が最も本質だと思うのですが、そもそも循環率は誰のため、何のために計算しているのかを改めて考え直さないといけないということです。建築は本当に様々なステークホルダーが関わる人工物です。サーキュラー建築という考え方自体がすごく新しいため、設計者やデベロッパーの方々は新たな試みとして情報発信すべきではありますが、新しさだけではなかなか社会には定着していきません。しっかりと定着させるためには、そもそも誰が誰のために、何のために循環率を計算するのかをはっきりさせる必要があると思います」
「私は2つの戦略があると考えています。1つは、循環率を不動産価値やグリーン調達の定量的根拠として活用し、経済と連携させるところまでをやり切ること。もう1つは、建築物を利用する地域の方にメンテナンスをバトンタッチをするというやり方です。高齢化や現場の職人不足なども考えると、今後は設計者が全てのメンテナンスをやるのは難しくなっていくと思います」
「そのため、設計者が建築を施工して引き渡した後、利用者やその利用者の周辺事業者が参加し、創造的にメンテナンスを引き継いでいくことが必要になってきます。そのとき、BIMデータとMadasterのデータがバトンタッチできれば、修理や交換を自分たち自身でやるための計画も立てられますし、解体から利益を得ることも可能になります。私は、Madasterの本質は、循環率を計算してグリーン調達や不動産の資産価値を評価するということ、もう1つはこの更新・交換可能性を高めた建築部門の価値を継承するための道具になることだと思っています」
実際に Madaste を建築物に導入してみて見えてきた課題は、そもそも入力に必要となる素材の情報やBIMデータなどの整備、また、入力により得られる循環率という数値が何を意味するのかを理解できる何らかのモノサシ、そしてそもそも誰のために、どんな目的で循環率を測定するのかという意味のデザインだ。
人々がサーキュラー建築の価値を理解してからでは、もう遅い。
最後に、田中氏は、答えのない問いを会場に残して議論を締めた。
田中氏「最後に、最も悩ましい問題を共有して終わろうと思います。現代はSNS社会と言われるように、世論が重要な社会です。これとサーキュラー建築を両立させないといけないと思っています。建築物をごみにすることなく解体できるかは、実は設計の初期段階で決まってしまいます。しかし、循環設計をすれば、通常は普通の建築よりも価格が高くなります。これは仕方ないと思いますが、問題は、建築の初期段階でコストの議論をしている際に、サーキュラー建築は高くなるということを一体どれだけの人々が納得できるかということです。実際にコストの議論していると、普通の世論はやはり高いことを非難し、安いほうが好ましいという論調になります」
「しかし、いざ建築がその後に設計、施工され、利用者が実際に建物に入り、空間を体験すると、愛着が生まれて『この建築はごみにしないでください、捨てないでください、再利用してください』という世論が生まれてきます。しかし、それができるかどうかはもう初期段階で決まってしまっているのです。そのため、設計の初期段階で、サーキュラー建築の未来までを見越した価値について合意形成することが重要なのです」
「初期コストも含め、10年、20年、30年先を考えて、解体時や将来世代のことまで考えてサーキュラー建築の意義を各ステークホルダーと全員で合意することは、非常に難易度の高いことかもしれません。しかし、この部分を乗り越えられるかどうかが、単なる循環建築なのか、循環経済の建築なのかの分かれ目になると思います」

サーキュラーデザイン建築が施されている日本館。大阪・関西万博にて
建築は、一般的な消費財などと異なり、人々がお金を払うタイミングと、価値を理解できるタイミング、コストを負担する世代と恩恵を受けられる世代との間に大きなギャップがあるケースが多い。
それがゆえに、いざサーキュラー建築を進めようと思っても、初期のコスト負担の部分から合意を得るのが難しいという田中氏の指摘はとても本質的だ。特に公共建築などの分野では、税金の無駄遣いになっていないかも含めて常に厳しい世論の目に晒される。
サーキュラー建築を推進するためには、あらゆるステークホルダーが長期的目線に立ち、ゼロサムの関係ではなくともに同じベクトルを向いて共創していく関係性へと変容していくことが重要なのだ。そのためには、議論の共通土台となる価値共有システムが必要であり、それが、Madasterの果たすべき大きな役割でもあるのだろう。
アジアを代表するサーキュラーシティ・横浜へ
田中氏に続き、横浜市国際局(現・政策経営・国際戦略局)の谷澤寿和氏からは横浜市におけるサーキュラーエコノミーの取り組みと国際展開についての共有があった。
谷澤氏「横浜は1859年に開港し、以来、人、モノ、文化が絶え間なく行き交う都市として発展してきました。日本の他の大都市と比べた際の横浜の特徴は何かというと、多くの大都市は城下町を起源としているのに対し、横浜は開港の地として国内外から集まった商人たちがゼロから作り上げたまちだという点です。だからこそ、古い慣習にとらわれず、まちの外にある多様な文化や新しい価値観を柔軟に受け入れながら、新しい事業を生み出そうとする自由でオープンな気風が生まれたのだと思います。こうしてまちを自分たちで作り上げたという強い当事者意識やまちへの愛着、いわゆるシビックプライドが深く醸成されてきたことが横浜という街の市民力を裏付ける特徴だと考えています」

横浜市国際局(現・政策経営・国際戦略局) 谷澤寿和氏
「こうした気質は、国際的なパートナーシップを積極的に構築し、海外の都市との対話や連携を重視する姿勢の原点にも繋がっています。横浜市は、人口が増え続ける中でも家庭から出る廃棄物を43%削減したという実績があります。これは横浜市が特に2000年から、約10年にわたって市民と共に成し遂げた大きな功績です。この数字の裏にあるのは、先進的な技術革新のような物語ではなく、市民と行政との地道な対話と協働による生活習慣の変革の結果です。この市民と共に行動変容を生み出した経験こそが、横浜におけるサーキュラーエコノミーの基盤になっています」
「高度経済成長期、首都東京に隣接する横浜は港湾地区地帯に多数の工場が建設され、各地から横浜へ移り住む人々で人口が爆発的に増加し、丘陵地を切り開いて造成された広大な住宅地に多くの人々が住むことになりました。同時に、この変化は都市インフラへ大きな影響をもたらすことになり、中でも人々の暮らしに直結する廃棄物の問題は、都市としての持続可能性を脅かす深刻な課題となりました」
「そこで、2003年には2010年度までにゴミの排出量を30%削減するという目標の『横浜G30プラン』プランが策定され、それに続き、リデュースまでを推進することを定めた『ヨコハマ3R夢プラン』、さらに近年ではプラスチック対策の重要性を踏まえて『ヨコハマ プラ5.3(ごみ)計画』が策定され、現在はこれを進めているところです。市民1人あたりに換算すると年間5.3kgのプラスチックごみの削減を目指す計画となっています」
15,000回にわたる市民との対話により、人口増加と廃棄物量のデカップリングを実現
谷澤氏「これら取り組み全てに共通するのが、市民との協働という点です。横浜市では、G30プランの中核として分別ルールを細分化しました。これは、それまで燃やすごみとして一括りにされていた品目を価値ある資源として捉え直す、思想の転換でした。プラスチック製のトレイやボトルは綺麗に洗ってプラスチック製容器包装へ、読み終えた新聞や雑誌は古紙として集積場所へ、など、市民一人ひとりが家庭で資源を丁寧に仕分けることが私たちのシステムの根幹をなしています」

横浜市・みなとみらい21地区 via Shutterstock
「もちろん、こうしたルールの複雑化は市民に負担を強いることになります。そこで、横浜市は市内各地域に存在する自治会町内会と連携しました。横浜市には2,800以上の自治会町内会が存在し、その加入者数は120万世帯を超えます。ゴミの削減プランを地域に浸透させ、地域の行動変容を起こすべく、地域向けのワークショップや説明会を市内全域で行いました。その回数は15,000回にも及びます。これらの地道な対話を通じ、ゴミ問題は行政の問題から市民自身の課題へと変わっていったのだと思います」
「結果として、期間中に市内人口が8%増加したにも関わらず家庭から出るゴミの廃棄物を43%削減できました。この成果により、市内に7つあった焼却工場のうち3つを廃止または停止でき、環境負荷と財政負担の両方を大幅に軽減しました。この経験は、横浜市民にとって貴重な財産になっています」
「昨年から開始しましたプラスチックゴミの削減の計画では、さらにリサイクルを増やすために、これまで燃やすごみとして扱っていた歯ブラシやおもちゃなどの硬いプラスチック製品も新たに資源として回収する分別ルールを導入しています。この目標が達成されると、プラスチック焼却によるCO2の削減の効果は14%上がります」
これらの横浜市の取り組みは、国際的にも高く評価されている。谷澤氏によると、2009年には世界銀行の Eco2 Cities(エコロジーとエコノミーを両立させている都市への表彰)に選定されたほか、アジア開発銀行などからも優良事例として取り上げられているという。
また、横浜市ではこの都市課題の解決の経験を市内企業の技術とかけ合わせてアジアの都市へと輸出している。例えばフィリピンのマウンダウエ市では、市内企業の株式会社グーンと連携し、廃棄物分別やリサイクルの知見を継続的に提供。2023年には年間廃棄物量が大きく削減されたという。
循環型都市への移行を目指す、6つの重点分野
続いて、谷澤氏は横浜市中期計画2026〜2029で掲げる「循環型都市への移行」を目指す6つの重点分野についても説明した。
谷澤氏「1つ目は可視化です。都市全体の循環性を評価するために、市で流通する資源を特定し、積極的に取り組む分野を特定します。2つ目は食と農業で、食品ロスの半減や、堆肥の農地活用などを目指しています。3つ目が製造と静脈産業の連携促進、4つ目が、循環型ビジネスの促進。5つ目が建築で、まずは公共建築物におけるサーキュラーデザインの導入を進めていこうとしています。6番目の最後はとても重要で、市民参加です。循環型ライフスタイルを志向し、市民参加を促進していきます」
可視化の事例としては、みなとみらい21地区において30以上の商業施設が連携して進められている、日本初となる地区レベルでの循環型マテリアルフローの可視化プロジェクト、食と農業の事例としては下水汚泥に含まれるリンの堆肥化の取り組みが紹介された。
また、動静脈連携の取り組みとしては、2025年に市内の静脈企業7社と横浜市が連携して設立した横浜市資源循環プラットフォームについて、循環型ビジネスの促進については、サーキュラーをテーマとする市内のスタートアップ企業らが紹介された。
さらに、サーキュラー建築の取り組みとしては市内の体育館から出る床材のアップサイクルプロジェクト「REYO」が、市民参加については地球1個分の暮らしを推進する「STYLE100」プロジェクトが紹介された。ここまであらゆる分野にまたがり総合的にサーキュラーエコノミーを推進しているのも、大都市・横浜ならではの特徴だ。

REYOプロジェクト・体育館の床材をアップサイクルしたプランターカバー。よこはま建築ひろば2024にて
最後に、谷澤氏は横浜市が先頭に立ち進めている「アジア循環都市宣言」の枠組みについても触れた。同宣言は、欧州の「欧州循環都市宣言」の仕組みにならい、横浜市の発起によって、イクレイ日本が創設した制度だ。2025年11月に開催されたアジア・スマートシティ会議にて創設が発表され、2026年3月末までに、横浜市の他、バンコクや東京など、アジア7か国から24都市の署名を集め、本格始動した。
谷澤氏「欧米では国際的なアドボカシー活動が大変活発で、都市の国際プレゼンス向上に一定の影響力を及ぼしていると認識しています。アジア版の循環型都市宣言という枠組みはアジアのプレゼンス向上にも繋がると思いますし、欧州との架け橋になる可能性があると考えています。本宣言制度の設立にあたっては欧州の先進都市の意見も伺いたく、実際にオランダのアムステルダムに訪問し、アムステルダム市やCircle Economyなどの専門機関と意見交換を実施し、大きな賛同を示していただきました。根底には、サーキュラーエコノミーはグローバルに取り組むべきものだという認識があるのだと思います」

アジア循環都市宣言設立の様子。2025年11月に開催されたASCC 2025にて
サーキュラーエコノミーにおいては、資源供給の出発地点が、遠い国の採掘場ではなく、私たちの住み暮らす地域となる。資源循環のコストを下げるうえでも、循環型製品の市場を作る上でも、市民の意識や行動の変化は欠かせない。その意味で、自治体が連携してサーキュラーシティの課題や実践を共有し、点を面にしていくことは、長期的に大きな意味を持つ。これからアジア循環都市宣言の署名が国内やアジア全体でどのように広がっていくのか、今後の発展が楽しみだ。
日本らしいサーキュラーエコノミーのあり方とは?
後半のパネルディスカッションでは、慶応大学の田中浩也氏、横浜市の谷澤氏に加え、一般社団法人ゼロ・ウェイスト・ジャパン代表理事の坂野晶氏、大成建設株式会社 クリーンエネルギー・環境事業推進本部自然共生技術部長の横溝成人氏、一般社団法人スマートシティ・インスティテュート代表理事の南雲岳彦氏、そして株式会社竹中工務店 経営企画室サステナビリティ推進部シニアチーフエキスパートの福井彰一氏が登壇し、日蘭CE交流プログラムを踏まえて、日本らしいサーキュラーエコノミーのあり方について議論した。
坂野氏「アムステルダム市郊外の焼却炉兼発電所、AEB(Afval Energie Bedrijf)の視察は、非常に衝撃的でした。日本もかつてごみ問題に直面した時代もありましたが、非常に細かく分別をし、今では『クリーン』と評される状況になっています。それが、サーキュラーエコノミー、特に『エコノミー』という要素が入ってルールメイクをしなければならないという話になった瞬間に、日本は遅れているという話になります」

2023年オランダにてAEB(Afval Energie Bedrijf)視察時の様子
「しかし、我々の日々の生活の中で根付いている、みんなで決めてコミュニティとして分別に取り組む、『もったいない』という意識で進めていくことから生まれるアウトカムは非常に大きいと思っています。例えば、アムステルダムだと道が狭くごみ収集車があまり走れないので、ごみを分けてもらうことは諦めて全部一緒に集めてから選別するというロジックになりますが、多分日本ではそうはならないだろうなと思います。『自分ごと化する』という言葉は、日本語に特有なものの一つかもしれませんが、その『自分ごと化』する範囲をどこまで拡張できるかを改めて考えたいなと思い、視察から帰ってきたのが当時です」

一般社団法人
ゼロ・ウェイスト・ジャパン代表理事 坂野晶氏
「それを踏まえると、日本はルールメイクが弱いという話がありますが、石橋を叩いて渡る国民性だからこそ、欧州からの外圧に対してイノベーションを生み出すという形もあって良いのではないかと思います」
ルールメイクにおいても統合的視点が必要
田中氏「メガソーラーの話もそうですが、環境はもともと複雑です。現状は、脱炭素、資源循環、自然共生の3つで進められていますが、例えばソーラーパネルはリサイクルできるかという問題と、ソーラーパネルが自然を壊しているという問題が出てきます。日本人はバランスでやってきているので、脱炭素、資源循環、自然共生といったものを統合的に把握し、調和とバランスで環境を作ってきました。その中で一つだけを突出させると、必ず他のところに副作用が出るのです」
「ルールメイクを脱炭素だけ、資源循環だけ、自然共生だけといった形で単純化させると、どこかに抜け穴が発生し、バランスが崩れていきます。調和とバランスを無意識の文化として持ってきた日本が、ルールメイクという諸刃の剣をどのように使っていくかを考えないといけないと思います」
横溝氏「難しい問題ですが、今日お集まりの様々な分野の方が感じていらっしゃるように、サーキュラーの活動はいち企業ではできません。産官学が協力しないといけないと考えています。例えば『官』の部分では、オランダは非常に早い段階から国の法整備を進め、企業のサーキュラーエコノミーに対してインセンティブを与えています。『産』の部分では、我々もいまゼネコン同士が協力してデータベースを作ろうとしています。製品のデータ整理を一社でやるのは難しいので、まずは業界でベースを作り、ベースができた後の設計に関しては各社が競争するという形で『協力』と『競争』を進めています。『学』の部分では、大学でも今後、資源循環率の定義といった基礎教育をしっかりやっていただき、共通認識を作っていただけるとさらに加速していくのではないかと思います。日本人は協調性がある国民性なので、この協力的なやり方は向いているのではないでしょうか」

大成建設株式会社 クリーンエネルギー・環境事業推進本部自然共生技術部長 横溝成人氏
坂野氏「ルールメイクという意味では、私が関わっている繊維の分野でもバーゼル条約の対象に古着を入れるという話が出ています。そうなると、日本の古着が輸出できなくなります。世界的には砂漠に古着が山積みになるような問題が確かに起きており、何とかしなければなりません。欧州でルールメイクをする際は、NGOが出てきて実際に調査をします。例えばファストファッションの回収ボックスにGPSタグを付けた洋服を投入し、それが実際どこに行ったかを公開するのです。『明言されているのと、違うところに行っているではないか』と。それが、輸出規制やトレーサビリティ確保の話に繋がります」
「しかし、例えば洋服一枚一枚に追跡可能なICタグを付けるのには大変なコストがかかります。課題に対して規制をする、追跡できるようにするというのは分かりやすいルールメイクですが、それを本当にやろうとすると経済性が担保できず、どこかで破綻します。規制しすぎると、逆に域内で資源循環が本当にできるのかという話にもなってきます。どちらかといえば、行き着く先をどうデザインするかに視座を置いてルールメイクをするというのが日本的なマインドセットではないでしょうか。例えば、海外に行った先でごみにならないように、まず国内でどこまで選別するのか。その選別は想像力と対話によって、『自分たちのコントローラブルな範囲で』デザインが可能なものです。そのシナリオプランニングをどれだけやりきれるかが鍵だと思います」
「メイド・イン・ジャパン」から「ユーズド・イン・ジャパン」へ
坂野氏の説明に対して、会場からは「日本のプロダクトは非常にクオリティが高いので、リユースによりジャパニーズセカンドハンドとしてグローバルにおいてブランド価値をつけられるのでは」という意見があった。坂野氏は、リユースモデルのグローバル市場における現状について共有した。
坂野氏「私は別会社でリユースもやっており、『国際資源循環』という言葉を使っています。資源循環は分散型のほうがより良いという議論は大前提なのですが、残念ながら今や日本はモノを作っておらず、洋服は8割以上が海外から輸入されています。国内で資源安全保障を高めるという話はありますが、結局生産は海外なので、日本でいま使っている繊維を国内でリユースやリサイクルするとしても、需要がありますか、という話になります。そのため、アジア経済圏として流通させていくというモデルも作るべきだと考えています。洋服も、日本で使われたものは『メイド・イン・ジャパン』ではなく『ユーズド・イン・ジャパン』というブランドとしてアジアでは価値があります。日本で一度使われたということは、日本人のクオリティチェックが通っているということです」
「もちろん、これからアジアも経済発展していく中でジャパンの価値も変わっていくとは思うのですが。面白いのは、リユースの世界では、例えば日本のトレンドとタイのトレンドが違うという点です。日本よりタイでの方が高く売れるデザインがあったりするんです。そのため、マーケットのニーズだけで見ても、アジアの国同士が連携する価値はあるのではないでしょうか」
「また、資源循環という意味では、日本で使い終わったものでもまだニーズがあるものはアジアに行きました。ただ、今何が問題になっているかというと、彼らがリユースした後に使えなくなったもののリサイクルインフラがないのです。リサイクルインフラは日本国内のほうがあるはずなので、リサイクルすべきだと最初から分かっているものは国内でまずしっかりと留めておき、日本で原料にしてから外に出しましょうと。また、アジアにリサイクルインフラがないのであれば、先ほどの横浜市さんの話にもあったように日本が連携してインフラ開発をする可能性もあります。そうすれば、彼らの収入源にもなりつつ、最後はちゃんと原料となり、またその近場で生産現場に戻る、というところまで設計できて最高ですよね」
田中氏「サーキュラーは、地域の輪、国内の輪、国際的なアジアの輪、地球の輪が何重にもエリアが重なっているので、何をどこにどれぐらいのバランスで回せば需給バランスが取れるのか、というのはとても複雑な方程式です。そうした話もあれば、服は服、家具は家具、建築は建築で、自動車は自動車で、製品一つひとつに、人間の心との関わりがあります。私はそれをもう少し加速してスタートアップ的なビジネスにしていくのが良いと思っています。小規模なビジネスがたくさん生まれる余地がすごくあると思っていて、そのためのトリガーを探しているという感じですね」
横溝氏「リペアカフェの話を聞いたとき、すごく面白いなと思ったのですが、オランダではリペアカフェに色々な人が壊れたモノを持ち寄ってそれを直す。モノが直されていくだけではなく、人の心も繋がっていく。それが素晴らしいなと思いました。『リサイクルしましょう』といった義務ではなく、自然にみんながモノを長く使うのが当たり前の文化になれば、意識せずともそうした関係性ができるのかなと思いました」
日本は、製品の性能ではなくインパクトをストーリーテリングするべき
スペイン・バルセロナで開催されている世界最大の都市イノベーション・スマートシティイベント「Smart City Expo World Congress(SCEWC)」からの出張帰りだった南雲氏は、欧州と比較した日本の現在の変化についてこう説明した。
南雲氏「4年前にバルセロナのイベントにジャパン・パビリオンを出したときは、日本は遅れているから何とかしなければという『キャッチアップ精神』でした。学ぶものは全部学んで帰りたい、という気持ちです。それが、去年や一昨年ぐらいから『日本は負けていない』という感覚になってきました。2023年にオランダに行ったときも、同じ感覚だったと思います。実行のクオリティや奥行きを考えれば、日本は劣等感を持つ必要はないという感じです」
「今年のイベントでは欲が出てきて、『なぜ賞が取れないのか』というところまで来ました。日本企業一社はファイナリストまで行ったのですが。一方で、中国や韓国、シンガポールはどんどん賞を取っています。そこで気づいたことがあります。日本のプレゼンテーションはみな日本製製品の性能説明になってしまっているのです。世界が聞きたいのは『その結果、日本人はどんなに素晴らしく幸せな生活をしているのか』というストーリーです。先ほど『日本的なサーキュラーとは何か』という話がありましたが、我々にとっては当たり前でブラインドスポットになっている日本的な生活感や日本的なウェルビーイングに資する環境共生型のサーキュラーやスマートシティに手が届かないといけないと気づきました」

一般社団法人スマートシティ・インスティテュート代表理事 南雲岳彦氏
情緒的価値とストーリーを大切に、小さくても実装する
また、2025年10月に横浜市・馬車道にある歴史的建造物「旧第一銀行横浜支店」において「BankPark YOKOHAMA」を開業した竹中工務店の福井氏は、同社のサーキュラーエコノミー実践を踏まえた上で、欧州のように「エコノミー」をどのように加えるかについて、同社のアプローチを説明した。
福井氏「竹中工務店では『サーキュラーデザイン&ビルド』というコンセプトで進めていますが、田中先生から『循環だけだとごまかしにならないか』というご指摘もいただきましたが、まさにそこが悩ましいところです。経済価値とのギャップを何で埋めるのか。最初は環境価値でしたが、それだけでは埋まりきらない。そこで出てきたのが『感情的な価値』、つまり『愛着』です」

株式会社竹中工務店 経営企画室サステナビリティ推進部シニアチーフエキスパート 福井彰一氏
「これから私たちの活動拠点となるのが、関内・桜木町駅の近くにあります旧第一銀行横浜支店の施設です。10月から『Bank Park YOKOHAMA』という施設名で開業させていただき、1階は工芸を中心とした展示・物販スペースやカフェ、3階にはシェアオフィスを設けています。ここを拠点に、サステナビリティという広い領域で様々な市民の方々や企業の方々と繋がっていきたいと考えております」
「その中の取り組みの一つとして、9月末にプレイベントとして『竹中工務店サーキュラー支店』という架空の支店を作りました。もしサーキュラーを推進する組織があったらどうなるだろう、ということで、横浜市内の工事現場から出た廃材を展示したり、それを使ってアートのワークショップをしたり、お客様からいただいた廃材を私たちのデザインやエンジニアリングでどういう商品になるかというアイデアコンペを社内で行いました。嬉しかったのは、お客様から『我々にとってはごみだったものを、ごみではなく素材にしてくれました』というお言葉をいただいたことです。このように、目をキラキラさせて廃材を材料として集めるという行為を、単なるストーリーから実際の製品にする流れに戻していくのが、私たちのやるべきことだと改めて思いました」

2025年9月に開催された「竹中工務店 サーキュラー支店」展の様子
「合言葉は『小さくても実装』です。とりあえず何かしらプロジェクトにして、反応を見て改善していく。そういう意味で、2027年に横浜でGREEN×EXPO(国際園芸博覧会)があり、実証フィールドが与えられるというのは非常にチャンスです。25年の万博、そして27年と学びを繰り返していけると思っておりますので、そこに向けて取り組みを加速させていきたいです」
編集後記
後半のディスカッションの中で特に印象的だったのは、我々日本人が当たり前のように内在化している「もったいない」という精神や、調和とバランスを大切にする世界観、クオリティにこだわる姿勢などが、世界と比較した際の強みになるという点だ。
一方で、サーキュラーエコノミーにおいてはどのようなスケールの循環が最適なのかのデザインがとても複雑であり、日本という単位のみならず、アジア全体としての最適化といった視点も重要だ。
アジア全体のサーキュラーエコノミー移行については、横浜市が先頭を切って開始した「アジア循環都市宣言」が日本国内及びアジア各国において今後どのように浸透していくか、そしてその中からどのように具体的な実践が生まれ、都市間連携によりアジア全体のトランジションが加速していくかが試金石となりそうだ。
3年間の日蘭サーキュラーエコノミー交流を経て、日本の実践者らは多くを学び、プログラムを通じて得られた繋がりをテコにしながらさらに取り組みを前進させている。2027年に控えたGREEN EXPOも見据えながら、これらの動きを緩めることなくさらに発展させ、アジア、日本ならではのサーキュラーエコノミーのあり方を確立・発信することが、次の大きなテーマとなる。
【前編】日本とオランダの叡智が織りなす、循環する未来。日蘭CE交流プログラム振り返り
【中編】循環する未来に向けた「コモン・グラウンド」をつくる。日蘭CE交流プログラム振り返り






