炭素の循環経済を実現する。ユニリーバの脱化石燃料戦略「カーボンレインボー」

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気候危機に対する懸念が高まるなか、世界では脱化石燃料の流れが加速化している。化石燃料からのダイベストメント(投資引き揚げ)を推進するグローバル投資家ネットワークのDivestInvestによると、2019年12月時点で世界の化石燃料からのダイベストメント総額は11兆米ドルに達している。

また、こうした流れを受けて企業や自治体による脱炭素化の動きも加速しており、NewClimate Instituteが2020年9月に公表した調査によると、脱炭素目標を掲げた企業や自治体の数はこの1年以内で2倍以上に増えたという。

日本においても、2020年10月に政府が2050年までの「カーボンニュートラル」宣言を公表し、化石燃料からの脱却は企業にとっての規定路線となりつつある。

全ての企業がこれから「炭素」とどのように向き合っていくかが問われているが、そのうえで参考になるのが、「カーボンレインボー(炭素の虹)」という独自の炭素アプローチを掲げている英消費財大手・ユニリーバの取り組みだ。

ユニリーバは2020年9月、同社のクリーニング・ランドリー製品において2030年までに化石燃料由来の炭素を、再生可能またはリサイクルカーボンに置き換えると公表した。この新しい目標は、ユニリーバのホームケア部門が掲げたイノベーションプログラム「クリーンフューチャー」戦略の一環だ。

クリーンフューチャーは、グローバルの規模でサーキュラーエコノミーの原則をパッケージと製品づくりの双方に組み込むことでCO2排出量の削減を目指すイニシアチブで、2039年までに製品のネットゼロ排出を実現するというユニリーバの目標達成に向けた重要なステップでもある。

ユニリーバによると、同社のクリーニング・ランドリー製品に使用されている化学物質はライフサイクル全体におけるCO2排出量の46%を占めており、これらの化学物資を化石燃料由来のものから再生可能またはリサイクルカーボンに移行することで、CO2排出量を最大20%削減できるという。

炭素の調達を多様化する「カーボンレインボー」

このクリーンフューチャーの中核となる戦略としてユニリーバが公表したのが、「カーボンレインボー」と呼ばれるアプローチだ。

「レインボー(虹)」は、製品の配合に使用する炭素の多様化を意味している。地下から採掘された再生不可能な化石由来の炭素(ブラックカーボン)を、回収した炭素(パープルカーボン)、植物や酵母など生物資源由来の炭素(グリーンカーボン)、藻類など海洋資源由来の炭素(ブルーカーボン)、そしてプラスチック廃棄物から回収した炭素(グレーカーボン)に置き換えることで、新たに地中の炭素を大気中に拡散することなく、炭素の循環を実現するというモデルだ。

ブラックカーボンに置き換わる再生可能な炭素は、消費者の製品使用後に再び原料へと加工されて製品の製造に使用される。また、この一連のサイクルはすべて再生可能エネルギーによって賄われる。

なお、カーボンレインボーにおける炭素の調達は、土地に対して意図しない悪影響が生まれないように環境影響評価が実施され、ユニリーバが展開する持続可能な調達プログラムとの協働により行われるという。

英国WWFの最高経営責任者であるTanyaSteeleは、「世界は、化石燃料から脆弱な生態系への圧力を軽減し、自然の回復に役立つ再生可能な資源へと移行する必要がある。ユニリーバからのこれらの重要なコミットメントは同社の強力な持続可能な調達プログラムと組み合わせることで、自然に逆らうのではなく自然と共生する経済へと移行するうえで重要な貢献となる可能性を秘めている。」と語り、同社の取り組みを評価する。

ユニリーバはクリーンフューチャープログラムに10億ユーロを投資する予定で、既に様々な研究開発プロジェクトを展開している。例えば、スロバキアではバイオテクノロジー企業のEvonik Industriesとの提携により、天然の糖をベースとし再生可能な生分解性の界面活性剤「ラムノリピッド」を生産し、チリとベトナムで展開されている食器用洗剤「Sunlight」で使用しているほか、インド南部のトゥティコリンでは、Tuticorin Alkali ChemicalsおよびCarbon Clean Solutions と提携し、製造プロセスにおけるエネルギー使用から生じたCO2を回収する革新的な技術により作られたソーダ灰を調達している。

炭素の由来が製品の品質にどのように影響するのかも気になるところだが、同社によると、持続可能な成分に切り替えたとしても品質や機能、安全性には一切妥協することなく、高品質・高機能な製品をできる限り手ごろな価格で提供していけるよう取り組んでいるという。

持続可能な循環型の炭素経済を目指す「カーボンレインボー」は、かねてよりサステナビリティへの取り組みで業界をリードしてきたユニリーバならではのユニークなアプローチだが、実現に向けた現状の課題はどこにあるのだろうか。ユニリーバ・ジャパンの新名司氏は、こう語る。

「カーボンレインボーは化石燃料由来の成分から、再生可能で循環可能なものから得られる成分への切り替えを目指していますが、これは一社の努力だけで変えられるものではなく、バリューチェーンに関わるすべてのステークホルダーの協働が不可欠です。かなり複雑で、時間もかかると見られます。新しく設立された業界連合であるRenewable Carbon Initiativeなどを通して、社会全体の変革を推進していきたいと考えています。」

サーキュラー・カーボン・エコノミーを実現する

Renewable Carbon Initiativeは化学・素材業界の再生可能な炭素への移行を目指しているドイツの研究機関Nova Instituteが中心となり、12の企業らと共に立ち上げた共同イニシアチブだ。ユニリーバもアドバイザリーボードメンバーとして設立に携わった。

Renewable Carbon Initiativeは「化学・プラスチック業界における再生可能な炭素への移行は、エネルギー業界における脱炭素化と同義だ」としており、Renewable Carbonを下記のように定義している。

「再生可能な炭素は、geosphere(地圏)からさらなる化石由来炭素の使用を防ぎ、その代替となるすべての炭素源を伴う。それは、biosphere(生物圏)、atmosphere(大気圏)、technosphere(テクノスフィア:人類が地球上に創り出してきたもの)由来のものであり、geosphere由来のものではない。再生可能な炭素は生物圏・大気圏・テクノスフィアを循環し、circular carbon economy(循環炭素経済)を創り出す。」(ABOUT RENEWABLE CARBONより。)

地下に固定されている炭素を採掘して大気中に放出すると、気候危機はどんどん加速してしまう。これ以上地下から炭素を取り出すことなく、すでに大気中に放出されてしまった炭素を回収したり、植物、藻類の炭素、プラスチックなどの人工物に含まれる炭素(リサイクルカーボン)を活用したりすることで、持続可能な炭素の循環を実現するというのがRenewable Carbon Initiativeのビジョンだ。

同イニシアチブは、炭素に対する向き合い方について、下記のように説明している。

「広く受け入れられている『脱炭素』という概念は、化学・プラスチック業界にとっては不適切であるだけではなく、有害な可能性もある。なぜなら、それは炭素使用の必要性や、『正しい』炭素の調達源はどこかという問いから人々の注意をそらしてしまうからだ。」(ABOUT RENEWABLE CARBONより。)

日本でも菅首相のカーボンニュートラル宣言以降、「脱炭素」がサステナビリティに取り組む企業や自治体の間で合言葉のようになっているが、Renewable Carbon Initiativeが指摘する通り、この言葉の取り扱いには注意する必要がある。

炭素そのものは、私たち人間も含めた地球上の生物にとって欠かせない元素である。いま私たちが直面している気候危機は、その居場所を人間が変えてしまったことで起こっているのであり、炭素自体に問題があるわけではない。

CO2回収技術をはじめとした新たなテクノロジーへの投資や、業界・バリューチェーン全体における協働により、地球上の炭素の循環をもう一度整え、経済活動をその循環の流れに整合させていく。それが、私たちが目指すべき自然と共生する新たな経済のあり方だ。

【参照記事】Unilever “Unilever to eliminate fossil fuels in cleaning products by 2030”
【参照記事】Renewable Carbon Initiative “ABOUT RENEWABLE CARBON”

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