目的地までの移動手段を調べるとき、あなたはどのような理由で乗り物を選択しているだろうか。コロナ禍以前、格安航空会社(LCC)などの登場により、私たちは気軽に飛行機に乗っていた。しかし、すぐに目的地に着く便利さがある一方で、フライトによる環境負荷は大きい。航空産業のサステナビリティに取り組む団体Air Transport Action Groupによると、2019年には45億人の乗客が航空便を利用し、9億1,500万トンのCO2を排出したという。これは、人間が出すCO2排出量の約2%の数字に値する。
さらに、フランスの消費者団体であるUFC-QueChoisirの調査によると、飛行機での旅行は、同じルートで電車に乗るよりも、乗客一人当たり平均で77倍のCO2を排出しているという。世界が脱炭素に向かう中で、航空業界は変革の時にある。
そんな中、フランスでは2021年4月10日、環境負荷を下げるため、電車で2時間半以内で行ける短距離区間の航空路線の運航を禁止する法案が国民議会(下院)を通過した。法案が下院を通過した現時点で、すでに「パリ〜ボルドー間」「パリ〜リヨン間」などの5区間が一時停止されており、上院を通過すると正式に廃止される。
今回の法案は、炭素排出量の削減を目指す「気候変動法案」の一部だ。この法案は、2030年までに温室効果ガス排出量の40%を削減するための149項目からなる政策提言である。今回議論が進んでいる航空路線に関するものの他にも、「スーパーの量り売り販売の面積を2030年以降、全体の20%以上とする」「熱効率が悪い低断熱住宅の賃貸を2028年から禁止する」などが含まれる。
一方でガーディアンによると、一部の環境活動家の間では「2時間半では十分ではない」という指摘もあるという。2019年に開催されたフランスの気候変動市民評議会では「4時間未満の代替列車が存在する航空路線」の運行禁止が求められていた。しかし、コロナ禍で打撃を受けた航空会社からの反発を受けて、2時間半に短縮されたという。フランス政府は航空業界の打撃に対して、40億ユーロを新たに投じる計画を発表している。
他の国でも同様の政策が取られており、オーストラリアでは2020年6月に、列車で3時間以内の距離の国内線空路を全面禁止している。また、欧州ではスウェーデンを中心にFlight shame(フライトシェイム・飛び恥)という考え方が広がっており、オーストリア航空は二酸化炭素排出量を制限するための政府の救済を受けた後、首都ウィーンとザルツブルク間の飛行ルートを、列車の運行に置き換えている。こうした環境負荷を減らす移動手段について、いま世界中で議論されているのだ。
電車移動は、飛行機に比べるとやや時間はかかるかもしれない。しかし、電車に置き換えることで、これまで見えなかった景色や人に出会えることもあるだろう。人間にとっての便利さや効率性の追求だけではなく、人間にとっても地球にとっても、「本当にいい選択」とは何かをもう一度考えたい。
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