暗い夜道を照らしてくれる街の光や街灯は、私たちの暮らしに欠かせない。一方で、「光害(ひかりがい、こうがい)」という社会課題が存在するのをご存じだろうか。これは、広告の光や明るすぎる街灯といった夜間の過剰で不適切な照明が引き起こすもので、特に先進国の都市部では深刻な問題となっている。
光害の改善に取り組む団体The International Dark-Sky Association (IDA)によると、光害は不眠症やうつ病、ガンなどの病気の発生率を高めるなど、私たちの健康にさまざまな悪影響を及ぼす。(※1)さらに、本来であれば太陽と月の光の周期に沿って生活する野生動物や植物のバイオリズムをも大きく乱しており、樹木の落葉の遅れや、光に惹かれる昆虫の大量死などを引き起こしているという。(※2)
そんな光害による課題を改善しようとドイツのデザイナーが開発したのが、昆虫にも環境にも優しい、風力発電の街灯「Papilio」だ。
Papilioは、光害を最小限に抑えるため、水平ではなく下方向のみを照らす設計になっており、虫が寄り付きにくい暖かい色の電球を使用している。また、薄い金属板で作られた印象的な緑のタービンは、あらゆる角度から吹く風をキャッチできるような形状に設計。風が弱まったときのために発電した電気を溜めておく蓄電池や、逆に強風時には既存の電力網に接続してPapilioから電力を供給できる仕組みも備えているという。
さらに、歩行者が街灯の下を通ったときに作動する赤外線センサーもついているので、必要なときだけ光を灯すことでエネルギーの浪費も避けられる。
Papilioを開発したのは、ベルリンを拠点とするデザイナーTobias Trübenbacherさん。彼の発表したプレスリリースによると、ドイツでは夏の一晩で12億匹もの昆虫が街灯によって死んでいると推定されており、課題の深刻さが伺える。「Papilio」はラテン語で「蝶」を意味する言葉であり、その見た目のイメージに加え、夜に活動する昆虫を守りたい、という意味を込めて名付けたという。
日本でも風力発電や太陽光発電の機能を備えた街灯は開発されているが、街中で見かけることはまだまだ少ない。気候変動への対策や脱炭素への移行が叫ばれるなか、身近なものからPapilioのように私たちや動植物にとって「ウェルビーイング」であり、環境にも優しいソリューションに置き換えていくことが必要とされているのではないだろうか。
※1 Light Pollution(The International Dark-Sky Association)
※2 Light Pollution Effects on Wildlife and Ecosystems
【参照サイト】Tobias Trübenbacher