すべての人の「ちょっとそこまで」を快適に。独ミュンヘンの近距離モビリティサービス

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「目的地まで500メートル」と聞いてあなたはどう感じるだろうか。ある人にはそう遠くないと感じる距離であっても、高齢者や身体障害のある人にとって、その距離の移動はときに容易ではないことがある。短距離だからこそ移動手段が限られていることが、さらに困難を感じさせる理由の一つだろう。

2024年夏、ドイツ第三の都市ミュンヘンで、市の中心部と旧市街地エリアを結ぶ無料のマイクロ交通サービスが試験導入された。このサービスはすべての人が利用できるが、特に移動に問題を抱える人々を主な利用者として想定している。

ミュンヘン中心部は、Sバーンと呼ばれる都市近郊鉄道や、地下鉄、新幹線など多くの路線を有する中央駅をはじめ、バスやトラムの乗り場があるドイツ南部の主要な移動拠点だ。一方、旧市街地にはマリエン広場や、ミュンヘン大聖堂などの人気の観光地やレストランが多く、旅行者から地元の人まで多くの人で賑わっている。この二つのエリアを結ぶ約500メートル以上の距離を、無料の交通サービスが期間限定で結び、人々の移動を支援する試みが行われた。

中央駅から旧市街地へ向かう道の途中|筆者撮影

利用できる交通サービスは3種類。乗客定員6名のマイクロバスは、水曜日から日曜日の午前8時から午後10時まで、10分間隔で市内中心部を循環運行する。家族や友人グループなどの移動や、時間に合わせて移動したい人に適しているだろう。

4台用意された電動人力車(三輪タクシー)は、空いている場合は路上で直接呼び止めたり、二ヶ所ある停留所で乗車したりできるため、より柔軟な利用が可能だ。特定のスポットでの乗車をオンラインで予約することもできる。

身体の不自由な人は、街中での近距離の移動に適した電動のコンセプトカー、電動四輪車(いわゆるシニアカー)がレンタル可能だ。個人で自由に回りたい人には嬉しいサービスだろう。

このプロジェクトは秋まで実施され、テスト終了後専門家らが実現可能性を分析。2025年の夏に再開されるか、または有料の都市公共交通ネットワークの一部として取り入れられるかどうかが検討されるという。

旧市街地を歩く人々。歩行者エリア内は車両がほとんど走っていない|筆者撮影

筆者も2023年3月にミュンヘンを訪れ、実際にこの区間を歩いたのだが、想定よりも徒歩移動に時間がかかってしまった。トラムやタクシーが走っているものの、停留所から目的地までが遠いことや、旧市街内は車両が少ないこともあり、ほとんどの人が徒歩で移動していた。ヨーロッパ特有の石畳は、滑りやすく歩きにくいことも多いため、長時間の徒歩移動には履き慣れた運動靴が必要だ。もし無料の交通サービスがあったなら、積極的に利用していたかもしれない。

環境配慮への需要が高まるとともに、エコな移動を推奨するスマートムーブや、ラストワンマイルを補うシェアモビリティサービスが近年急成長している。日本でもその流れは広がりつつあるが、年齢や身体の特徴、地理的条件に関係なく誰もが利用できるかという点においては、まだ改善の余地がある。

交通の利便性が向上し、人々がより安全・快適に暮らせる未来を創造していくために必要なものは、さまざまな立場からの視点だ。ドイツの交通サービスが今後どう発展していくのか、注目していきたい。

【参照サイト】The MAYOR.eu – Munich tests free last-metre mobility in its old town
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Edited by Megumi

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