使い捨てプラスチック製品が環境に与える影響に警鐘が鳴らされ、世界中がその削減や循環に向けて対策を取り始めている。日本でも2022年4月よりプラスチック資源循環促進法が施行された。今後、コンビニエンスストアや飲食チェーンでの変化は加速していくだろう。
使い捨てプラスチックの使用を減らすために個人ができることとしてよく推奨されるのが、マイボトルを持ち歩くことだ。BRITA Japan株式会社の調査によると、日本では7割以上の人がマイボトルを持っているという(※1)。
しかし同時に、実際のマイボトルの使用率はそのうちの6割程度にとどまっている。理由はさまざまだが、そもそも街中でマイボトルを使える場所が少ないことも原因のひとつではないだろうか。マイボトルを持って出かけても、1日の途中で中身がなくなり、結局ペットボトル入りのドリンクを購入した……という経験を持つ人も、7割を超える。
今回は、そんな課題を解決する新たなウェブプラットフォーム「fills」を紹介したい。
fillsは、ユーザーがウェブ上でドリンクや食事を“中身だけ”購入し、マイボトル・マイ容器で受け取れるサービスだ。2022年3月にサービスをローンチし、現在都内を中心に、数十の飲食店がプラットフォームに加盟している。
「“ステークホルダーに負担がかからない、みんなが参加できるプラットフォーム”にすることを目指して、サービスを立ち上げました」
fillsが目指すのは、どのような社会なのか。これまでのマイボトル運動とはどう違うのか。株式会社フィルズの代表取締役である飯田百合子さんに、お話を伺った。
「マイボトル運動」を超える、“みんなが参加できる”プラットフォーム
はじめに、fillsの使い方について簡単に解説しよう。
まずは、fillsのウェブサイト上でユーザー登録。登録店舗一覧から行きたいお店を探し、出品されている商品の中から好きなものを選択、容量と個数を設定。購入も、事前決済機能を使ってプラットフォーム上で完結できる。お店に着いたら購入画面を店員さんに見せ、マイボトル・マイ容器を渡すだけ。店員さんが購入商品を容器に入れて手渡してくれたら、お買い物完了だ。
飯田さんがこのプラットフォームを立ち上げた理由は、まさに冒頭で触れた使い捨てプラスチックへの課題意識からだ。
「海外で仕事をするなかで、欧州でペットボトルを中心とした容器類がリサイクルされずに捨てられている状況や、それらが東南アジアなどの途上国に運ばれて環境汚染の原因となっている状況を目の当たりにしてきました。同時に、使い捨て容器問題への具体的な対策が欧州を中心に着々と進んできているのも目にしており、この流れはこの先必ず日本にもやってくると感じていました」
飯田さんの予想通り、日本でも2015年ごろから徐々に環境意識が高まりはじめ、2018年ごろからは「マイボトル運動」と呼ばれるキャンペーンや取り組みも盛んになってきた。しかし、マイボトルの普及について以前より考えてきた飯田さんは、単にマイボトルを持つことを推奨するだけでは、限界があると感じていたという。
「これまでのマイボトル運動は、とりあえず『マイボトルを持つ』というところで終わってしまっている場合が多いんですよね。
そして、せっかくマイボトルを持っていても、中身がなくなると、結局ペットボトルを購入するしかない。その原因は、街中で中身だけ買える場所が少ないからです。ですから、それを解決することでもっと自由にマイボトルを使える社会にして、『ただ中身だけ買いたい』という動機でサービスを使ってくれる人たちが、自然と日常で地球に貢献できる──そんなサービスがあったら良いと思ったのです」
2018年にfillsの前身であるボトルト株式会社を立ち上げ、2019年の大阪サミットに合わせて事前決済でドリンクを購入できるサービスを開発。コロナ禍で使い捨てプラスチックにより注目が集まったことを受け、2022年3月にボトルトの概念を広げてリブランディングしたfillsをローンチさせた。
自由にマイボトルを使える社会を構築するためには、ただの“環境活動”ではなく、ステークホルダーに負担がかからない、“みんなが参加できるプラットフォーム”を作り、環境に良い行動を実経済に落とし込んだサービスを構築することが必要だと、飯田さんは語る。
「『fills』という名前には、容器も、心も、お財布も、そして地球の豊かさも満たす……そんな想いを込めています。お客さん、お店、そして地球に良いこの仕組みが回っていくことで、みんなを幸せにできるのではないかと考えています」
数値化することで、fillsが減らした環境負荷を計測
ユーザーの生活に寄り添うサービスを作ることで、環境問題にアプローチしようとするfills。しかし、国内にはすでに、スターバックスやタリーズコーヒーなど、マイボトルを持参するとドリンク代を数十円値引きしてくれる大手チェーンのカフェや飲食店がたくさんある。それらの取り組みと、fillsを通した購入体験には、どのような違いがあるのだろうか。
「fillsでは、飲み物がS、M、Lといったカップのサイズではなく、〇〇ミリリットル、といった『容量』で選択できるようになっています。これは、一般的にはマイボトルのサイズがミリリットル単位で表記されているからです。
カップのサイズで選択肢を作ってしまうと、持っているマイボトルにより、Sサイズでは少し足りないけれど、Mサイズの容量はボトルに入らない、といったことが出てきてしまいますよね。そういったことを防いでもっとマイボトルにドリンクを入れやすくするため、飲食店には商品をミリリットル単位で出品していただいています」
さらに、このミリリットル単位での出品・購入体験を作った背景には、fillsを、単なるドリンク事前決済サービスを超えた“骨太のインフラ”にしていきたいとの考えもあったという。
「いずれはあらゆる場面で環境負荷が数値化されていくと予想していました。マイボトルの利用で削減できた環境負荷を数値として計測して可視化するためにも、fillsというプラットフォームを通した、ミリリットル単位での購入形態が必要だったのです。
ユーザーとしても、fillsを介してドリンクを購入すると、数値として自分たちがどれだけ地球に貢献できたかがわかります。ペットボトルを1本使わなかった場合に削減できるCO2の量はたった数グラムと、非常に小さいかもしれません。でも、数グラムだけでもCO2を削減できたことを画面で確認し、来月はもっと減らしてみようとモチベーションが上がったり……fillsを通して、生活者の日常のなかにそんな想いやコミュニケーションが生まれるといいな、と思っているんです。
また、ユーザー個人やお店単位だけではなく、企業やスポーツチーム、自治体単位でも計測することができるため、今後はそういったデータの活用方法も考えていきたいですね」
テイクアウトカップの廃棄物を減らして、新たなお客さんも獲得
買い物を通して環境にどれだけ貢献できたかを知れたり、事前決済システムでスムーズに商品を購入できたりと、ただマイボトルを使うよりもユーザーにとって楽しく、便利な買い物体験を提供するfills。
一方で、fillsを導入する店舗には具体的にどのようなメリットがあるのだろうか。飲食店側としてはやはり、サービスを導入することで経済的なメリットを生み出せなければ、導入はなかなか難しいのではないか。
飯田さんは、「消費者が“中身だけ買う”と、最終的にはお店の負担を減らすことにもつながる」と語る。
「fillsは、ユーザーの行動変容を起こすことで飲食店の経済的負担を減らし、さらにお店の新たな顧客獲得にも貢献したいと思っているのです。
まず、fillsの導入にあたって飲食店が負担しなければならない費用はゼロ(※2)。サブスクやクーポンといった、お店の集客機能も無料で使うことができます。そのうえで、マイボトルを使うお客さんが増えると使い捨て容器の使用量が自然と減るため、容器の購入費、そして多くの飲食店で課題となっている廃棄コストを削減することができます。
※2 利用手数料は成果報酬型
また、fillsを通せばテイクアウト用のデトックスウォーター、お湯なども簡単に販売することができます。喉が渇いたらペットボトルの水やお茶を買うではなく、お店で中身だけ購入してもらうなど、新たな収益の仕組みを作ることができます。
さらに、一番大きなメリットとしては、fillsのプラットフォームに加盟していることで、サステナブルな飲食店としてアピールできることです。昨今、飲食店にも環境への配慮が求められるようになってきているので、環境意識が高い層など、新たな顧客獲得のチャンスにつながります」
実際に、企業の本社ビル内のカフェにこのサービスを導入し、社員にも呼びかけをしてもらったところ、マイボトル利用率が2倍になり、売り上げが30%上がったという結果も出ている。コロナ禍で出てきたテイクアウト需要に応じて提供した、スープやおしるこなども大好評だったという。
fillsでは、今後も飲食店を尊重する姿勢を大切にしながら、加盟店を増やしていきたいという。
「環境に良いことをするべきだからfillsを導入してください、と私たちの理念を一方的に押し付けるのは、少し違うなと思っています。
飲食店は、特にこのコロナ禍で、経営面をはじめ多くの課題を抱えています。ですから、飲食店側のニーズもくみ取り、fillsを導入することで少しでもその課題が解決されるように、それぞれのお店に寄り添い、信頼関係を築きながら広げていきたいと思っています。
fillsは、“店舗応援プラットフォーム”でもありますから、今後はプラットフォームを用いて店舗の紹介をするなど、加盟する飲食店のPRや宣伝にも協力していきたいですね」
“中身だけ買う”ことが、当たり前の社会に
使い捨て容器に対する社会の目は、確実に厳しくなってきている。飯田さんは、マイボトルに関しても、今後人々の価値観に大きな変化が起こってくるのではないかという。
「レジ袋の有料化にともない、最近はスーパーでは必ず『マイバッグ持っていますか?』と聞かれるようになリましたよね。それと同じように、これからは、飲食店やカフェで『マイボトル持っていますか?』と聞かれる社会になると思っていて。そこで、持っていなかったら、容器代を数十円上乗せされるという状況に変わっていくのではないでしょうか。
fillsでも今後、購入品のオプションとして容器代も設定していきたいと思っています。これは、fillsを使いたいけれど、その日は容器を忘れてしまった、という人の救済策になる一方、容器代として余分にお金を払う経験をしてもらうことで、『次は容器を持ってこよう』という気持ちになって欲しいからです」
自然と使い捨て容器が減っていく社会。それを実現するため、最後に飯田さんからIDEAS FOR GOOD読者にメッセージをいただいた。
「地球に優しい行動に、みんなにとって豊かになる方法で一緒に取り組んでみませんか?
生活者の方は、持っているマイボトルをどのくらい使えていますか?fillsが広がることによって、そのマイボトルをもっと使えるようになりますよ。ですから、まずはあなたが、ぜひfillsのお店を見つけて、“中身だけ”買いに行ってみてください。
飲食店さんには、どんなお店でも加盟できますよ、ということをお伝えしたいです。ぜひfillsの仲間になって“中身だけでつながる世界”を作り、使い捨てプラスチックを自然と減らせる世の中にしていきましょう!」
編集後記
fillsは、環境問題を解決するという課題から作られたサービスではあるが、生活者の環境意識の向上に頼ったり、飲食店に負担をかけたりする方法ではなく、マイボトルを持つことと経済的に豊かになることを両立させようとしている部分が印象的だった。サービスに興味を持った人はプラットフォームに登録してみて、ぜひ近くのfills加盟店でスマートに中身だけ買う体験をしてみて欲しい。
fillsが作る、「中身だけでつながる世界」が広がっていくこれからが、楽しみだ。
※1 BRITAJapanが社会人の水分補給に関する意識調査を実施
【参照サイト】fills(公式)
【参照サイト】アースデイ東京2022
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