政治参加の機会を。ドイツで進む「くじ引き民主主義」とは?

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ショッキングな事件も起こった2022年7月の参議院議員選挙。投票率は52%と前回よりも微増したものの決して高い数値ではなく、日本の民主主義は低調だ。世界でも政治不信は深刻さを増しており、不信の目は「選挙」自体にも向けられるようになった。

そんななか、選挙以外の民主主義を作る機会として、「くじ引き民主主義」を導入する動きがヨーロッパ諸国を中心に強まっているのはご存じだろうか。アイルランドでは憲法評議会に抽選で選ばれた市民が参加していたり、フランスの気候市民会議でも、ランダムに選ばれた一般市民が議会に政策を突き付けたりなどしている。さらにベルギー東部の一部の地域では抽選制市民会議が常設されるようになった。

なかでも、西ドイツ時代から抽選制市民会議の伝統があるドイツでは、2022年6月から10の自治体が参加する一大くじ引き民主主義プロジェクトが始まっている。その名も「LOSLAND(ロースラント)」だ。

このプロジェクトでは、自治体の人口台帳からランダムに選ばれた市民20人が「未来会議」を構成する。選ばれた市民たちは、「孫世代にふさわしい地域の未来」をテーマに議論をし、政治家への提言を作成する。次に、「未来フォーラム」という公開イベントを開き、抽選に漏れた市民も議論や提言に参加することができる。そして、これらの市民の議論や提言を地方議会の意思決定に反映させるというのである。

抽選制市民会議を開くだけではなく、公開イベントの開催や議会の意思決定へ積極的に関与する点は、多くの市民会議と一線を画している。また、自治体間にはデジタル・プラットフォームが構築され、情報交換や相互の交流・学び合いを可能としている。

素人の市民が政策提言などできるのだろうか。そんなふうに感じる方もいるかもしれない。だが、複雑化する社会では1つの「正解」を見出すのはそもそも困難だ。多くの人々が参加し、多くの「納得」を重ねていくことも重要なプロセスだろう。LOSLANDによれば、反対意見があれば、かえって新しいアイデアが創発され、納得感が生まれるという。

さらにくじ引き民主主義は、自分たちの地域を自分たちの力で変えられる、地域に貢献している、というように「民主的な自己効力感」の醸成にも役立つ。それらが市民の一体感を高め、サステナブル・コミュニティづくりにつながるとLOSLANDは主張する。「くじ引きランド」に参加する自治体の市長が強調するように、「政治離れを防ぐことができる」というわけだ。

ドイツの「くじ引きランド化」は自治体にとどまらない。2022年5月、ドイツ連邦議会議長は、2022年末までに連邦レベルで無作為抽出の市民会議を立ち上げたいと公言した。そこでは、全国からくじ引きで選ばれた市民たちが、特定のテーマについて議論し、提言を作成する。そのうえで、連邦議会がくじ引き市民の提言に対応するのである。このように、現代の民主主義は政治不信や社会の分断を断ち切るために、くじ引きを導入することによって進化、発展を遂げている。あなたもくじ引きで選ばれ、政治参加する日がくるかもしれない。

【参照サイト】LOSLAND公式サイト
【参照サイト】Bürgerrat, Bundestag President announces citizens’ assemblies
【参照サイト】VOICE and VOTE
【参考文献】吉田徹(2021)『くじ引き民主主義』光文社

Edited by Erika Tomiyama

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