貧困層の若者へのベーシックインカム、米国ロサンゼルスで開始へ

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近年、コロナ禍による経営不振や失業などを受けて深刻化しているのが、若者の貧困問題だ。日本では、不安定な雇用形態で、低賃金で働き、未婚である「アンダークラス」と呼ばれる社会層が若者の2割を占めている。貧困は、教育や職業選択の面で制限を作ってしまうため、固定化しやすい。また、そういった貧困層の増加は社会全体の損失にもつながりかねない。それでは、こうした若者をどう支援していけばよいだろうか。

アメリカ・ロサンゼルス市では、2022年8月末から若者に月1,000ドル(約15万円)を3年間無条件に支給する、ベーシックインカム・プログラム「TAY portunity収入保証プログラム」を開始した。

対象となるのは、経済的に困窮している18歳から24歳までの若者で、ロサンゼルスの就労支援サービスに登録している者のうち無作為抽出された300人だ。そこでは、3年間の収入を得ながら、正規雇用や職業トレーニングなどキャリア形成のためのチャンスも得られ、そのポテンシャルを最大限に引き出そうとしている。

一般にベーシックインカムは、「全員」に「無条件」でお金を給付するのが基本形だ。だが、ロサンゼルス版ベーシックインカムのユニークな点は、あえて「貧困層の若者」にターゲットを絞ったところだ。そうすることで、一番お金を必要としている層にダイレクトにアプローチできる。

また、3年間の継続的な給付により手に職をつけるなど、安定的な人生設計を立てやすくなる。このような「収入保証プログラム」は、参加者の心理的健康と幸福感を高め、正規雇用を得やすくする、とする調査もあるのだ。

アメリカ以外にも、スイスやブラジル、フィンランドなど各国でベーシックインカムの模索が続けられている。フィンランドの社会実験では、受給者の幸福度が向上するなどの効果も見られた。このように世界では、ベーシックインカムが貧困対策の1つのカギとなっている。

ベーシックインカムの問題点は、行政や国の財政負担が大きくなることだとされる。だが、ロサンゼルス版ベーシックインカムのように、若年貧困層に絞るなど、うまく制度設計することも必要だろう。若者たちが、やりがいのある仕事で社会を盛り上げ、よりよい社会を作り上げることが、全体にとって最大の還元でもある。今後も世界のベーシックインカムの動きに注目したい。

【関連記事】フィンランドがベーシックインカムの調査結果を発表。雇用状況は変わらずも、幸福度に変化
【参照サイト】Three-Year Guaranteed Income Pilot Program for 300 Youth Launches
【参照サイト】ロサンゼルス郡公共社会福祉局公式ホームページ General ReliefプログラムGeneral Relief (lacounty.gov)
【参照サイト】若者の2割がアンダークラス 非正規、低賃金、未婚でぎりぎりの生活 ――宮本みち子さんに聞く

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