ビーチに眠る“宝”を探せ。ゲーム感覚ごみ拾いイベント「清走中」【参加レポ】

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「3、2、1、スタート!」

掛け声とともに、全速力で駆け出す子どもたち。昼下がりの広い公園に一斉に散らばっていく。彼らが夢中になってしているのは、鬼ごっこではなく、なんとごみ拾い。

10月30日、長崎県の野母崎半島南端に位置する「のもざき恐竜パーク」で開催されていたのは、ごみ拾いを“ゲーム”のような感覚で楽しむイベント「清走中」だ。

今回で第17回目の開催となる本イベントは、過去には新潟県上越市や山梨県甲府市をはじめ日本各地で開催され、子どもたちを中心に人気を博してきた。

ごみ拾いにゲーミフィケーションを融合させると、一体どんなことが起るのだろうか。本記事ではこの「清走中」に参加した筆者が、ごみの問題を啓発しながらも参加した人が夢中になってしまうごみ拾いイベントの様子をレポートしていきたい。

海岸

青い海が目の前に広がる、のもざき恐竜パーク前の海岸。遠くには軍艦島も見える。

ミッション満載!子どもがワクワクするごみ拾いイベント

「清走中」を企画するのは、「社会課題解決の敷居を極限まで下げる。」をミッションに掲げる、株式会社Gab。彼らは、ハードルが高いと思われがちなごみ拾いには宝探しのような感覚の“ゲーム性”があると考えた。そして、それを活用してエンタメ企画に昇華させることで、より多くの人にごみ拾いという体験を届けようとしているのだ。

開会前の様子

開会前の様子。

当日集まっていたのは、幼稚園児から小学生くらいの子どもたちとその親たちが多く、この日は全体で140人もの人が参加していた。地元で仲の良い友達同士だろうか、子どもたちは楽しそうにはしゃぎながら受付でごみ袋とトングを受け取り、「清走中」オリジナルのゼッケンを身につけながら、芝生で開会式を待つ。

今回のイベントは、日本財団「海と日本プロジェクト・CHANGE FOR THE BLUE」の一環として開催された。主催は長崎県で子どもたちの豊かな原体験づくりを行う「冒険する長崎プロジェクト」、共催は会場となった「長崎のもざき恐竜パーク」。このように、地域のパートナーと共に作り上げているところも清走中の特徴だ。

さらに、長崎での開催ということで、出島のご当地ヒーロー「デジマード」もゲームに参戦していた。
ヒーロー

「清走中」の基本的なルールは、チームや個人でごみをできるだけたくさん集め、その重量を競うというものだ。そこに、子どもを楽しませるさまざまな“ミッション”が追加されたり、スーツ姿にサングラスをかけた悪者、通称「ハンター」が現れてわざとビーチにごみをばら撒くなどの“悪さ”をしたりするのである。

ハンター

ゲームを盛り上げるハンター。スーツにサングラス姿で、怪しげな雰囲気を醸し出していた。

「清走中」が特にユニークなのは、各開催場所に合わせたオリジナルのゲーム設定があるところだ。今回はのもざき恐竜パークが会場ということで、ごみの他にあらかじめパークに隠してある「恐竜の卵」を探すというミッションが最初に与えられた。この恐竜の卵を探し出すことで、メインの清掃場所である「海岸エリア」が悪者のハンターから解放されるという。さらにこのアイテムは、集めたごみと共に最終的に「Gommy」というポイントとして加算され、ゲームの勝敗を左右するのだ。大人からするとクスッと笑ってしまうような設定だが、子どもたちはリアルな世界が会場となるゲームに夢中だ。

他にも、ハンターが(わざと)落としていった「黄金のペットボトル」を拾ったら「Gommy」が加算されたり、集めたペットボトル数本と引き換えにもらえるゲームを有利にするさまざまなアイテムがあったり、パークの展望台に登って暗号装置にパスワードを入力するミッションがあったり……と、子どもを飽きさせずに楽しませる仕掛けが満載だった。

ミッション説明

ゲームの開始や途中のミッションは、事前に登録しているLINEで送られてくる。作り込まれた世界観が魅力。

肝心のごみ拾いはというと、もちろん集めたごみは「Gommy」になるからみんな必死だ。海岸エリアの隅にはペットボトルなどの海洋ごみが積み上がっている場所があったが、エリア解放後はそれらは子どもたちによって一瞬のうちに奪い去られ、ごみがひとつも残されない綺麗な場所に様変わりした。

ごみ

(左)ゲーム開始前の状態。ペットボトルなどのごみが大量に積み上がっていた。(右)ゲーム終了後の同じ場所。ごみがひとつもない綺麗な場所に。

最後はごみの重量やアイテム分を加算したGommyを運営が集計し、閉会式ではお待ちかねの結果発表。6位から順に1位までのチームが発表され、お菓子や地元で使える商品券など、豪華な景品がプレゼントされ、会場は盛り上がった。

また、イベント開催時間は2時間ほど、ごみを拾っていたのは実質1時間半ほどだったが、その日参加者が集めたごみの合計重量は262キログラムにものぼったという。

ごみ

この日参加者が収集したごみの山。

「楽しい」を起点に、環境問題を意識するきっかけに

のもざきの海岸エリアでは、海岸に打ち上げられた木屑の中に、大量の海洋ごみがあった。例えば、プラスチックキャップやパッケージの切れ端、また細かくなった漁網やロープといった漁具などがその中心だ。

使用されていたときの形状をある程度残した大きなものもあったが、その多くは海で流されてちぎれたり削られたりして細かくなったごみの山だった。時間内では到底拾いきれそうにないそのごみの多さに、IDEAS FOR GOOD編集部チームも改めて海洋ごみ問題の深刻さを目の当たりにした。

ごみを拾う様子

海岸に落ちていた魚網の切れ端。

集めたごみ

参加者が集めたごみの一例。プラスチックのパッケージや製品の細かくなったものが圧倒的多数を占める。

「小学校でチラシをもらってきた子どもが、自分からこれ行きたい!って言ってきたんですよ」

イベント中、子どもと一緒に参加していたお母さんのひとりが、こう話してくれた。これがもし普通のごみ拾いだったら、その子は行きたいとは言わなかったかもしれない。そう考えると、子どもを夢中にさせる演出で彼らを誘い、結果的に身近な海洋ごみ問題に触れる機会を作るこのイベントは、環境問題に関心を持てる人を育てるうえで非常に大きな役目を果たしていると言えるのではないだろうか。

最後に、株式会社Gab清走中事業部の北村優斗さんから、今回のイベントと今後についてコメントをいただいた。

「今回のイベントには九州各地から多くの参加者が集まってくださり、改めて開催のインパクトを感じました。参加者の皆様からは、『小学生の娘が入賞できずに悔し泣きしていた』『このイベントが無料なのが驚いた』といった嬉しい感想もたくさんいただき、エンターテイメントとしてのクオリティが上がっていることも実感しました。

こうした活動を継続的に地域に根付かせ、毎年恒例のイベントとして『文化』にすることこそが、環境問題への意識を高めることにつながると考えているので、今後も地域のパートナーの皆様と、さらに楽しく有意義なイベントを共創していきたいと思います」男の子たち

編集後記

今回イベントに参加してみて、子どもに受ける仕掛けの多さ、そしてその中途半端ではない作り込みに感心した。あの時イベントに参加した子どもたちが将来どんな大人になっていくのかはまだわからないが、楽しんでごみを拾い集めた経験や、海岸で目にしたたくさんのごみは、確実に子どもたちの今後を作る原体験となっていると感じた。また、北村さんをはじめとした若い世代が、またさらに若い世代に向けてこのようなユニークな事業を行なっていることにも大きな希望を感じた。

次に清走中のゲーム会場となるのは、あなたの街かもしれない。そのときには、ぜひ子どもや友達と一緒に、全力で楽しみながら、夢中になってごみを拾ってみてはいかがだろうか。
女の子
【参照サイト】清走中(公式)
【参照サイト】ゲーム感覚ゴミ拾いイベント「清走中」、長崎県長崎市で開催決定!
【参照サイト】株式会社Gab
【参照サイト】長崎のもざき恐竜パーク
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