社会の“役に立たないもの“を愛し、考え続けるコミュニティ「ごみの学校」

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「ごみ」とは何か。辞書を開くと、こう書いてある。

使って役に立たなくなった紙くずや食物のくず、その他の廃棄物。
-Oxford Languages

では、あるものが「役に立たなくなった」と決めるのは、一体何なのだろう。ごみが発生する背景には、その価値を判断する誰かが必ず存在するのだ。

「ごみを見ていると、人間の面白さや、人間の人間らしさ、経済活動の深みが見えてくる。そんな構造が好きなんです」

そんなふうに「ごみ」を見つめ直す機会をくれたのは、「ごみの学校」を運営する、寺井正幸(てらい・まさゆき)さんだ。「ごみを活かしてわくわくする社会をつくろう」というコンセプトで、2021年1月に開講したごみの学校。日常で発生するプラスチックや食品などのごみについてセミナーを開催し、Facebookのオンラインコミュニティのメンバーは今や1,700名。

寺井さん

寺井さん オンライン取材の様子

寺井さんは普段、大阪府高槻市の廃棄物処理会社に勤めており、最近では会社の部署にサーキュラー・エコノミー推進室まで立ち上げたという。本業でも趣味でも「ごみ」について情報発信をし続ける寺井さん。一体、ごみの何がそこまで彼を魅了しているのだろう。今回はそんな寺井さんに、ごみの魅力とは何か?話を聞いた。

話者プロフィール:ごみの学校運営代表・寺井正幸(てらい まさゆき)さん

“寺井正幸さん”1990年京都府亀岡市生まれ 大阪在住。兵庫県立大学環境人間学部後、産業廃棄物処理業者に入社し、産業廃棄物処理を中心とした営業を行う。事業の中で、産業廃棄物に関するセミナーや講演に50回以上登壇。また、インターネットTVの「環アラ情報局」にて環境に関する情報番組に130回企画及び出演を行い、環境分野への幅広い情報発信に力を入れている。

ごみの責任者は誰か?ごみの学校から学ぶ、「共創・対話・利他」

「●●さんがごみの学校に投稿しました」

Facebookを開くと、コミュニティメンバーが毎日何かしらの投稿をしているのが目に入る。日本に新たにできた注目のごみ処理施設や食品ロス対策が進む韓国の取り組み、そして年末の大掃除で出てくるごみの捨て方まで、コミュニティにシェアされる情報は幅広い。

ごみの学校では、コミュニティの情報発信以外にも定期的にイベントを開催しており、アパレル業界のごみから食品ロスまで、学べることはさまざまだ。

「仕事という意味でも、趣味という意味でも、遊び場が増えてきました」──言葉からは、寺井さんのごみに対する情熱と高揚感が伝わってくる。

ごみの学校 イベント

ごみの学校 イベント

「ごみの学校で僕は、自分が面白いと思うものをただ話しているだけなんです。ごみの学校のコミュニティメンバーが増えることは、遊び仲間が増えていく感覚ですね。参加してくれた方のプロフィールを見ると、『この人と何ができるかな』とわくわくするんです」

ごみの学校Facebookコミュニティ

ごみの学校Facebookコミュニティ

ごみの学校のコミュニティメンバーは、とても多様だ。環境省や上場企業のサステナビリティ担当者──「廃棄物処理会社の人もいます。すべてのごみの品目が処理できるほどです」と、微笑む寺井さん。ごみの学校では、意図的に企業同士がつながったり、連携したりする共創の機会を作れるよう、イベントを開催することもあるという。30歳以下の若者に限定した交流会を開催した際は、70〜80名ほどが集まった。

「ごみ」を起点に集まるコミュニティによって一体、何が生まれているのだろうか。

「そもそも、ごみ=廃棄物処理業者や自治体が責任を持つもの、という認識ではありません。ごみの学校では、ごみに関わるすべての人がごみ問題を『自分ごと』として真剣に考えられるよう、共創・対話・利他を大切にしています」

「江戸時代は『お互い様』の文化で成り立っていました。夕飯を作りすぎたから隣の人にあげる、というのも食品ロスを防ぐ意識というより、『お互い様』の価値観でやっていたものですよね。それを僕はごみの学校で、現代のかたちにアップデートしたいんです」

自分の利益で動くのではなく、社会や地域の利益で動ける人を増やす──ごみの学校を起点に、人々の輪がどんどん広がっている。

廃棄物業者の「中の人」が発信することで変えられる人々の意識

そもそも寺井さんがごみについて発信を始めたのは、2015年。当時はインターネットテレビで廃棄物処理業界のことや専門知識を学ぶための情報番組を作っていたという。

「産業廃棄物、環境業界の現状とあるべき姿とは?」「良い処理業者、悪い処理業者の見分け方は?」など、どれも廃棄物業者だからこそ発信できるような情報ばかりだ。

「そもそも廃棄物処理業界は昔から、あまりいい印象を持たれていないんです」

ごみ箱に捨てたごみが行き着く先を、想像できる人はきっと多くはないだろう。「ごみ」に関わる人は多くいるはずなのに、日常でごみについて話を聞き、知ることができる機会はなぜか少ないように感じる。

「実は、日本に廃棄物処理会社は10万社もあるんです。ごみに関わる仕事をしている人は、意外と身近にいるはず。しかし廃棄物処理業者で働く人は、自分の職業について話したがらない人も多いんです。職業を聞かれても、廃棄物処理業者とは言わずに『サービス業』や『製造業』と言うこともあるくらいです」

寺井さんは、そんな廃棄物処理業者の情報発信の少なさに危機感を持ち、「現場のことは、現場が伝えないといけない」と、動き出した。「僕が、廃棄物処理会社の現場で働くことを誇りに思うからこそ、ごみ処理の価値を社会に伝えなければいけないと思っています」と、寺井さんは自身がごみについて発信するようになったきっかけを話す。

「ごみ処理は、なにかが魔法のように処理していると思っている人もいるかもしれませんが、実際はどこかの誰かが手でやっている仕事です。その意識がなければ、ペットボトルをリサイクルするためには、ラベルとキャップを外さないといけないとか、プラスチックが汚れたままだと匂いでゴキブリが寄ってくるから洗ってほしいとか、伝えても人々の意識が高まるわけではありません」

実際はどこかで誰かが手でやっている──そうした現実を知るだけで、ごみを捨てるということが「誰かに渡すもの」「誰かに仕事をお願いしている」ことであるという意識を持つことができるのではないだろうか。ごみの学校に関わる人からは、「ごみを捨てた先に寺井さんがいると想像したら行動が変わりそう」「捨てるときに面倒だと思っても寺井さんがやっていると思ったらちゃんとやらなきゃと思った」という声もあり、参加者の意識も変わっているのだという。

寺井さん 

寺井さん 

ごみは、悪者なのか?

わくわくを原動力に活動する寺井さんが強調するのは、ごみ自体の面白さ、である。

「人間のすべての生産活動やモノの流れを表しているのがごみ」。寺井さんは、そんなふうにごみの魅力について話す。

「僕は、ごみというモノ自体に、深みや面白さがあると思っています。同じ見た目のものでも、ある人にとってはごみとなり、ある人にとっては価値あるものにもなります」

たとえば、高級ブランドのバックの新作が期間限定で出たとする。その期間だけはバックの価値は高いかもしれないが、その期間が終わったらどうだろう。価値がなくなり、一気に廃棄しなければならなくなる。

「その尺度って、一体誰が決めているのか?と考えたとき、結局それは自分たちの価値観でしかないんです。モノの製造過程で変わるものもありますが、基本的には人の判断や価値観、お金になるかどうかで、人間社会の中でごみというものが定義づけられています。そうした意味で、人間の面白さや、人間の人間らしさ、経済活動の深みがごみを通して見えてくる構造が好きなんです」

「ごみは、どうしても生まれてしまうもの。僕は、ごみそのものを否定はしません。ごみが悪いのではなく、人間がごみを悪く見ているのが原因だと思っています。ごみを、なくすものとして考えるのではなく、どうポジティブに向き合うかを考えたい。だからこそ、ごみに興味を持ってくれる人を増やしたいんです」

寺井さん

寺井さん

「たとえばプラスチックも、プラスチックそのものがだめなわけではなく、問題があるのは人間の使い方や、始末の仕方です。自然からできたモノが循環していく一方で、人間が作ったものは、馴染みにくい」

「プラスチック自体の機能性は、素晴らしいものです。地球上に存在するすべての物質は、人間が自然から借りているもの。それを人間がどう処理をして、自然に還していくかを考えていく必要があります。木や紙など自然由来のものは処理に関わるコストが少ないので、ローテクで循環できます。そうした繊維や古紙、ガラスなどは放っておいたら腐り、勝手に土に還っていきます。唯一プラスチックや化学物質など、人間が作った自然界に存在しないものに関しては、丁寧に戻していく意識がないときちんと自然に還っていきません」

ゲームを通して知り、ごみについて考えるきっかけをうむ

最近では、企業との連携も増えているというごみの学校。一般社団法人日本プロサーフィン連盟(JPSA)が作成する、リサイクルマスターカードゲームにも、監修やファシリテーターとして携わっている。

カードゲーム「RECYCLE MASTER PROJECT」

カードゲーム「RECYCLE MASTER PROJECT」

人々にとって遠い問題だと思われがちな海洋ごみ問題。カードゲームを使い、遊んでいるうちに海洋ごみやリサイクルの仕組みを知ることができるものだ。2022年11月には、茅ヶ崎市の小学校でカードゲームとビーチクリーン行うワークショップ「ReWave Workshop Program with Recycle Master」を開催した。

「ごみ拾いと聞くと『義務』や『ボランティア』というイメージがあるかもしれませんが、カードゲームとして遊ぶことで、楽しみながら拾ったり学びを深めたりできるんです。ワークショップを通して、やはり社会全体を巻き込むにはわくわく感が大事だと実感しました」

ワークショップの様子

ワークショップの様子

「ごみを活かしてわくわくする社会をつくろう」

「僕は環境活動家であるわけでないんです」

本業のみならず、プライベートでもごみについて情報発信する寺井さんの口から出てきたのは、そんな意外な言葉だった。

「どんな社会を作りたいかは正直わかりません。ですが、今よりも半年後、今日よりも未来が良くなればいい。今よりもちょっとずつ積み上げていければいいなと思っています。楽しく、わくわくする社会。ごみの仕組みが変わってちょっと楽しい地域やコミュニティ、サービスが作れたらいいなと思います」

ごみの学校のコンセプトである「ごみを活かしてわくわくする社会をつくろう」にもあるように、寺井さんとのお話では「わくわく」という言葉が何度も出てくる。そして寺井さんが「わくわくする社会を“つくる”」ではなく、「わくわくする社会を“つくろう”」としていることは、人々をコミュニティに巻き込み、わくわくする社会を、一人ではなくみんなでつくりたいというメッセージのように感じた。

「どんな視点でもみんなにごみを面白いと思ってもらえたら嬉しい。ごみを中心に、暮らしや社会、環境や経済について、こういう社会って素敵だよねって伝えていきたいんです」

私たちの社会で、ごみは悪者扱いされ、「なくすべきだ」と言われている。そんな状況の中で、寺井さんは人々の考え方を変えようとしている。どんな社会課題も、見る視点によってわくわくにしながら関わることができる。こんなふうに、人を集め、解決に導くことができる。寺井さんへの取材を通して、そんなことを感じた。

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【参照サイト】ごみの学校
【参照サイト】RECYCLE MASTER PROJECT

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