世界中で深刻化している海洋ごみの問題。その解決を目指した動きは、日本でも広がりを見せている。ビーチクリーンなどの活動が各地で見られるなか、石川県・能登町では、ある試みが進められた。
能登町を舞台にみんなが楽しくつながり、難しくなりがちな海洋ごみ問題の解決を目指せるように。2023年3月26日、「NOTO海ごみPARK」が開催された。同イベントでは、能登高校の生徒によるごみ拾い企画、海ごみや能登の海の生き物について学ぶワークショップなどが企画された(※1)。
能登(NOTO)の海ごみをゼロ(0)にしたい「海ごみが無くなる=NOTになってほしい」という想いと、ワクワクしながら海洋ごみについて楽しく学べる場(PARK)であって欲しいという願いを込めて付けられた「NOTO海ごみPARK」。本記事では、イベントを訪れた筆者が、イベントの様子を写真を中心にお届けしていく。
能登という町で、高校生や地域の人々が楽しみながら海の問題に触れる姿から、ほんの少しでも気付きや可能性を感じてもらえたら嬉しい。
旅をしながら人と人をつなぐ「旅するごみ箱」
このイベントの目玉とも言える、「旅するごみ箱」。海岸に置かれた時に思わず気分が上がるような魚形のフォルムが特徴の移動式ごみ箱だ。横幅はおよそ3.4メートル、中にはかなりの量のごみを入れることができ、隣に設置されたスタンド型の測りを用いて、拾ったごみの重量を計測できる仕組みになっている。
「NOTO海ごみPARK」では、能登町の五色ヶ浜海岸に「旅するごみ箱」を設置し、ごみ拾いが行われた(※2)。
ねじの代わりにペットボトルキャップで三角形のパーツを留めてつくられる「旅するごみ箱」は繰り返し組み立て可能。誰でも組み立てやすい仕様になっている。
仲間と一緒に楽しくごみ箱を組み立て、ごみ拾いをする。そして、自分が拾ったごみの量がわかる。「旅するごみ箱」は思わず活動をシェアしたくなる仕掛けになっていた。
「たのしい」を軸に海の問題に触れる
そうした「旅するごみ箱」を通したワクワクするごみ拾いのほか、カードに書かれたお題の指示に従いながら海岸のごみを探して拾う体験型ゲーム「ごみクエスト」など、“たのしく”ごみ問題の解決に取り組むアイデアが能登高校の生徒たちによって生み出された(※3)。
イベントのオープニングでは、15秒で海ごみ拾いを呼びかけるCMをつくる「広告小学校」の発表が行われ、3人1組になった金沢大学と能登高校の学生たちが考えた劇を披露。魚役になって海ごみの問題の深刻さを訴えたり、海ごみという社会課題を大きな大根に例えて引き抜く様子から協力して取り組む大切さを訴えたりと、短時間でわかりやすく海ごみのことを伝える内容になっていた。
そのほか、金沢大学の竹内裕教授による、海の環境変化について学ぶワークショップ、奥能登で海ごみの活動を行う「海ごみラボ」と「NOTO+(のとぷらす)」、「北陸大学ものづくりLab」による海ごみを使ったアクセサリーやキーホルダーづくりのワークショップなどが同時開催。訪れた人たちは、海やごみの問題に楽しく触れながら学んだ。
アイデアは十人十色、サーキュラーデザインワークショップ
さらに、当日はIDEAS FOR GOOD、フューチャーセッションズ、金沢大学ぐるぐるラボの共催による「サーキュラーデザインワークショップ」が開催された。ワークショップでは、前日に五色ヶ浜海岸で拾ったごみを分析し、解決策をグループでディスカッション、最後に参加者一人ひとりがごみ問題を解決するためのアイデアを考え、海ごみや廃材を使ってプロトタイプを制作した。
制作されたプロトタイプは、遊べるゲームのようなものからサービス、アート作品まで多種多様。参加した約20人一人ひとりが、ユニークなアイデアを考案した。
例えば、プラスチックごみを使ってつくられた黒ひげ危機一髪や、ごみを集めて一定の量がたまるとセンサーが反応し、テニスコートや卓球場の鍵を入手して施設が使えるサービス、自動販売機のような機械に集めたごみの量を持っていくと、そのごみの価値がお金や物などで表示されるといったアイデアが出た。
そのほか、プラスチックが多く浮かぶ海でごみを食べて悲しくなった魚の気持ちを表した作品や、海洋ごみでつくられたものを販売するフリーマーケット。さらに、冬は寒く家にこもることも多いであろう能登地域ならではのアイデアとして、春はごみ拾いとジョギング、夏には拾ったごみでお祭りに参加できるアクティビティなど、季節に合わせたものも。それぞれの経験や個性から、まさに十人十色のアイデアがシェアされた。
ワークショップに参加した人からは、下記のような感想があった。
「一人で黙々と考えるのではなく、個人で考えながらも時にグループで話し合うことでアイデアが進化していって面白かった」
「海ごみという社会問題がテーマでありながら、想像力を膨らませながら、遊ぶに近い楽しい感覚でできた。他の色々な領域でも実践できるかもと感じた」
「『これイイな!』で終わらせず、今日出てきたアイデアを実現させるために今後の活動として取り組んでいきたい」
NOTO海ごみPARKの軸である「たのしい」の通り、ワクワクしながら海ごみに触れ、考えた時間となった。
編集後記
「旅をするのは、ずっとは
海岸にいるはずがない存在だから。同じく本当は海岸にいるはずがない
街から風や川に運ばれたごみも、
旅をしながらのみ込んでいきます。」
これは、NOTO海ごみPARKのSNSアカウント上に綴られていた言葉だ。そして、その先にはこのような言葉が続いていた。
「でも、旅するごみ箱でいる間は
ごみのある海岸を旅して
いろんな人とつながって
ごみひろいを楽しみながらどうして大量にごみがでるのか
ごみを減らすために何ができるか
ごみを何かに生かせないか
どうしくみが変わればいいのかそんなことをみんなで考えて
みんなで行動していきたいです。」
どうすればごみを減らせるか、どんなことならできそうか?
みんなが楽しみながら知恵を出し合えば、海を泳ぐ魚がごみ箱にならなくても済むかもしれない。そして、綺麗な海のなかを思い切り旅できるようになるかもしれない。この記事を読んでくださった皆さんも、その方法を考える仲間になってくれたら嬉しい。
※1 「NOTO海ごみPARK」は当日が雨天であったため、五色ヶ浜海岸でのごみ拾いは前日に開催された。
※2 イベント当日、「旅するごみ箱」はのと海洋ふれあいセンターに設置された。
※3 雨天のため「ごみクエスト」は中止となった。
【関連記事】【3/26開催】NOTO海ごみPARK「ごみ問題を楽しく解決しよう!はじめてのサーキュラーデザインワークショップ」
【参照サイト】NOTO海ごみPARK
【参照サイト】旅するごみ箱
【参照サイト】能登高校魅力化プロジェクト