私たちは生活をする中で、いくつもの広告を目にする。電車の中吊り広告、街中のサイネージ広告、スマートフォンの画面に表示されるネット広告。何気なく目にしているこれらの広告が、私たちの心身に与える影響は、実は計り知れない。
広告そのものの目的は、人々のモノやサービスへの購買意欲をそそることだ。欧州諸国ではそうした広告に対する規制が強まっている。例えばオランダのハーレム市では、食肉の環境負荷を念頭に、肉の広告が禁止された。イギリス・ロンドンの地下鉄では、ジャンクフードの広告が禁止され、さらにフランスではファストファッションの広告規制が提案されている。
私たちが健康に過ごすためには、そのように特定の広告の「種類」を規制すれば良いのだろうか──いや、そもそも街に「広告」は必要なのか。むしろ、広告の存在自体が私たちの心身の健康を損ねるものなのではないか。
そのような問いのもと、「広告のない街」を生み出そうと活動するのが、イギリスのAdFree Cities(アドフリー・シティーズ)という団体だ。彼らは公共空間に置かれた広告のためのスペースを取り戻し、アートやコミュニティ、そして自然のための空間として活用していくことを目指している。
AdFree Citiesによると、現在の広告のあり方はさまざまな問題を孕んでいるという。食肉や自動車など環境負荷を高める購買行為を促進するもの、ジェンダーのステレオタイプを再生産するもの、そして「これを買わなければトレンドから遅れてしまう」「自分は欠けた存在である」と精神的なプレッシャーを与えるもの……また、サイネージ広告を24時間灯しておくことにも、電力使用の観点から批判が集まっている。
また、特に屋外広告は巧妙なターゲティングを行なっていることが、AdFree Citiesの調査でわかった。調査の鍵となる結果は下記だ。
- イングランドとウェールズの最も貧しい半分の地域に、屋外広告の82%が設置されている。
- イングランド全土で、国内の最も貧困な地域には、最も裕福な地域の6倍以上の屋外広告がある(最貧困地域では12,687件、最も裕福な地域では2,000件)。
- PM2.5汚染が最も悪いイングランドとウェールズの半分の地域に、屋外広告の92%が存在する。
つまり、イギリスにおける屋外広告は貧困や環境汚染が進む地域を狙って展開されているのだ。そこで暮らす人々は、格差社会の煽りを受けながら、さらに公共空間を奪われ、主にファストフードなどの広告を一日中みて過ごすことになる。
このような状態が健康だと言えるだろうか。そうした街は、住民のための場所と言えるのだろうか。
このような運動は、イギリスだけで展開されるわけではない。フランスのリヨンやグルノーブルでも同様の動きがあり、「広告ではなく木を!」のスローガンでデジタルサイネージを撤去させ、そこを植樹のスペースにした事例もある。
多くの人々にとって、もはや当たり前となってしまった街中の広告。何も感じずに生活している人も多いだろう。しかし、それらは本当に公共空間の一部を割り当て、毎日目にする価値があるものだろうか。一人の住民としてどう感じるのかを、改めて考え直してみても良いかもしれない。
【参照サイト】AdFree Cities
【参照サイト】‘Advertising breaks your spirit’: the French cities trying to ban public adverts
【関連記事】世界で初めて「肉の広告禁止」をするオランダ・ハーレム市
【関連記事】より健康な選択肢を。ロンドンが公共交通機関でのジャンクフード広告を禁止
【関連記事】フランス「ファストファッション広告禁止」を提案。使い捨て文化の終わりとなるか