世界初、家畜の炭素税を導入へ。デンマークが進める食のグリーン戦略とは

Browse By

日本で、植物由来の食材や料理であるプラントベースフードの市場規模が拡大を続けている。2021年度には推定約340億円、2025年度には2倍以上の約730億円にまでのぼると予想されているのだ(※1)

日常生活においても、代替肉のコーナーがあるスーパーが増えており、ヴィーガンベジタリアンという表記をレストランのメニューで見たことがある人は多いだろう。気候変動対策の文脈で話題になることもある一方で、健康に配慮して植物性の食品に関心を持つ消費者が多い(※2)

そんなプラントベースフード産業に国をあげて力を注いでいるのが、北欧・デンマークだ。政府が主導し、食と農業のバリューチェーンをグリーン化する計画が推進されている。中でも注目されるのは、2023年10月に発表された「プラントベースフードの行動計画」と、2024年6月に発表された家畜への課税計画だ。

「プラントベースフードの行動計画」では、今後政府が実施するプラントベース産業への支援策を解説すると同時に、利用可能な資金提供の機会などが紹介されている。政府も、プラントベースフード事業を展開する事業者への補助金を提供し海外進出を後押ししている。2030年まで、総額約155億7,300万円が用意されるとのことだ。

さらに、デンマーク政府は2024年6月25日、家畜が排出する温室効果ガスに対する課税を2030年に開始することを発表した。実現すれば、世界で初めての試みとなる。

具体的には、2030年から二酸化炭素の排出1トンあたり約6,900円が課税され、2035年からは約1万7,000円に上がる予定だ。ただし、農家に対して所得税の60%控除が実施されるため、実質は2030年から1トンあたり約2,700円、2035年から約6,900円の課税になる見込みとのこと。

この税制は、2030年までに温室効果ガス排出量を1990年比で70%削減するという同国の目標を達成するため、政府から依頼を受けた専門家によって提案された。

Image via Shutterstock

その他にも、気候フレンドリーな食やフードシステムの開発に対する特別資金提供プログラム「Special Pools Program」の募集を2024年初頭に開始し、同年2月には「農業のグリーンな仕事に向けた戦略」も公開した。こうした一連の取り組みを通じて、同国のプラントベースフード企業をグローバルリーダーに育てようとしているのだ。

デンマークでは、畜産関連が農業産出額の3分の2を占めており、養豚は主力産業の一つに位置付けられる(※3)。だからこそ農業でのグリーン化が推奨されたのだが、その分農業従事者への影響も大きいだろう。気候変動をめぐる農業への制約について、農業従事者から反対の声がない訳ではない。欧州各地で農家や農業団体による抗議活動が展開されており、これには農業従事者の生計や地域社会への影響に対する懸念が含まれている。そのため、腰を据えた議論とバランスのとれた解決策が求められている。

デンマークにおけるプラントベースフードの推進や、所得税の控除と組み合わせた農業への課税は、必ずしもすべての国にとって正解ではない。自国の産業や土地利用の現状と向き合った結果、どんな政策が効果的であるのかを考えることが重要だ。

※1 プラントベースフードの国内市場規模 2025年度 | Statista
※2 植物性代替肉に関するアンケート調査 2022年 | Statista
※3 デンマーク養豚産業による持続可能性への取り組み

【参照サイト】New Danish Government strategies support the green transition in the Agricultural and Food Industries|Ministry of Foreign Affairs of Denmark
【参照サイト】Denmark is the first country in the world to introduce carbon tax on livestock farming
【参照サイト】Action Plan on Plant-Based Foods|Ministry of Food, Agriculture, Fisheries of Denmark
【参照サイト】Denmark’s Radical Plan for a Plant-Based Future
【関連記事】デンマーク、すべてのフライトの乗客から「グリーン税」徴収となるか
【関連記事】メタンを爆食いするバクテリア、発見。温室効果ガスを減らす希望になるか

FacebookTwitter