中央ヨーロッパのスロバキアの首都、ブラチスラバ。ドナウ川のほとりに佇む人口50万人弱の中欧らしくエレガントな都であり、芸術や文化で名高いウィーンからもほど近い。
そんな街で、新たなまちづくりの挑戦が始まった。ブラチスラバ市は「子どもにやさしいまち」を掲げ、ブラチスラバ・メトロポリタン研究所と共に、「子どものためにデザインされたまちづくり」に取り組んでいる。
子どもに配慮したまちは、安心安全なはず。将来を担う世代にとっては魅力的に映る。それは、人口減少、経済、気候といった社会課題に立ち向かうよき基盤となるだろう。ブラチスラバの「子ども中心まちづくり」アプローチにはそんな願いが込められている。
具体的にはどうか。歩行者全員にやさしい道路や横断歩道などのデザイン開発、子どもの自由な遊び場づくり、車ではなく子どもが大通りを占拠し、自由に集って遊べる場に変えてしまう「プレイストリート」など、公共空間の可能性を追求している。
「歩行者バス」という取り組みでは、数名の大人が段ボールで作ったバスの切り抜きを持って、子どもたちを集団で安全に学校に登校させている。予算の限られた中、いかに遊び心を持って楽しくやるかも大事なところだ。
ブラチスラバの子ども中心アプローチの特徴は、「子どもの自治」を信頼する点だ。子ども向けの遊び場を作るとなると、遊具を設置してその周りをフェンスで囲い、子どもを大人の監視下に置きがちだ。それが「子どもの安全のため」だと考えるからだ。
しかし、考えてみてほしい。あなたが子どもの頃に遊んでいてワクワクした場所は「大人の目の届かないところ」ではなかっただろうか。ブラチスラバのアプローチは、まず、まち自体を安全な場にし、そのうえで子どもたちに自由に遊んでもらう。
中心部の噴水のある広場は、ここ25年間荒れ放題だったが、整備のうえで木陰に子どもの遊具を置いた。そこは、広場のカフェから見えるけれども、決して「監視」されているわけではないという絶妙なポジションだ。もちろん、フェンスで仕切って隅に追いやってなどいない。子どもたちは、噴水で泳いで大騒ぎだ。そう、それでいいのだ。
ブラチスラバ市長は、米国メディアのBloombergのインタビューに次のように答えている。
「子どもたちにやさしい都市は、すべての人にやさしい都市です」
2024年5月には、まちづくりのブラチスラバサミット「Start with Children(子どもたちとはじめよう)」が開催され、次世代を担う子どもたちと市民、政治家、建築家、ビジネスリーダーやデザイナーなど多くの人々が集結。同市の取り組みは、世界のまちづくりにインパクトを与えた。
実のところ、ブラチスラバは、少子高齢化、ドーナツ化現象、そして人口流出に苦しめられ、経済的な課題に直面している。「子どもにやさしいまちづくり」は、子育て世代に選ばれる都市にするという、イメージアップ戦略の一環だともいえる。
同市に限らず、世界の都市は少子高齢化など様々な共通課題を抱えている。レスリー・カーンが著書『フェミニスト・シティ』で論じたように、従来のまちのデザインは、都市の通勤労働者向けに構築されてきた男性中心的なものであるとも言える。今日、こうしたまちのデフォルトが多様な人々の価値観や生き方にそぐわず、行き詰まっている。
ブラチスラバの子ども中心アプローチは、こうした従来のまちづくりのあり方をひっくり返し、自由と自治を取り戻そうとする試みであるのは、たしかだろう。
【参照サイト】A Planning Revolution in Bratislava Puts Kids at the Center
【参照サイト】START WITH CHILDREN – BRATISLAVA SUMMIT 2024 FOCUSED ON BUILDING BETTER CITIES FOR CHILDREN
【参照サイト】Start with Children initiative celebrates child-friendly cities in Bratislava
【参照サイト】ブラチスラバサミット2024公式ホームページ
【参考文献】レスリー・カーン、東辻賢治郎 訳(2022)『フェミニスト・シティ』晶文社。
【関連記事】フェミニスト・シティとは・意味