マーケティング業界が注目する、ヨーロッパ発の気候テック企業3選

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昨年末から、Twitter(ツイッター)やMeta(メタ)、Google(グーグル)Amazon(アマゾン)など米巨大テック企業の大量人員削減のニュースが続いている。そんな中、米テクノロジーメディアのTechCrunch(テッククランチ)が、職を失ったテック人材に向け「解雇された?気候テックは、技術者と創業者を募集中」とのコラムを掲載した。

テッククランチでは、気候テックに特化した人材会社「Climatebase(クライメートベース)」で大量の求人募集が出ていることを紹介し、「解雇は新しい人生のはじまりだ!」と激励を送っている。気候テックとは、CO2排出量の削減や地球温暖化の影響への対応など、気候変動対策に焦点を当てた技術やビジネスのことを指す。

世界最大のプロフェッショナルネットワーク米LinkedIn(リンクトイン)でも、「環境分野の人材は需要に供給が追い付いていない」ことをレポートしている。人気の就職先だった米巨大テック企業が大量解雇や雇い止めをしている中、今注目されている気候テックとはどんなものだろうか。

米マーケットリサーチHolonIQによると、世界で2022年に気候テックに投資された金額は、総額701億ドル、前年比約2倍の驚異的な伸びを記録した。アメリカでは第1次クリーンテックブーム(2006年~2011年)での投資額を上回り、このペースでいくと2023年には1,000億ドルを超える勢いだという。欧州の投資金額は前年比約2倍となり、初めて中国を抜いた。2023年の気候テック投資は、世界的に上昇ペースはなだらかになるものの、他の業界にくらべて堅調で、少なくとも2021年のレベルは超えることが見込まれている。

HolonIQ

Image via HolonIQ

なぜいま、「気候テック」が注目されているのか?

気候テックに資金が流れ込むようになった要因としては、技術開発のスピードが上がったこと、世界の国々がカーボンニュートラルについて明確な目標を打ち出したこと、環境問題が広く認知され確実な需要が見込めるようになったこと、機関投資家がESG情報を投融資判断に組み込むようになったことなどがある。

また、将来の経済活動を担うZ世代・ミレ二アル世代がサステナブルな社会に強い関心を持っていることや、不況によりテック業界から解雇された人材が活況の気候テックに移ってきていることも、新しい観点と技術のビジネスが誕生する土壌となっている。

実際にどんな企業が投資家の関心を集め資金調達を成功させているのか、HolonIQが毎年発表している「世界の注目のテック企業」2022年のリストから、欧州のサーキュラーエコノミー原則に従い、注目を浴びている気候テック企業3社を見てみたい。

欧州のサーキュラーエコノミー分野で注目されている気候テック企業3社

01. スマート廃棄物管理の 「Sensoneo (センソネオ)」

世界で排出される都市ごみは年間20億1,000万トン。緊急対策が講じられなければ、世界のごみの排出量は2050年までに70%増加、34億トンに達すると予測されている(※1)

2017年にスロバキアで創業したSensoneoは、都市、企業、国に対し、スマート廃棄物管理ソリューションを提供している。現在70か国に展開している同社の技術では、スマートセンサーによる廃棄物のリアルタイム追跡・監視、廃棄物の収集ルートや頻度の最適化、廃棄物両低減へのインセンティブプログラムなど、データを活用した様々な機能を提供している。

デポジット・リターンシステムなど複雑なロジスティクスにも対応し、同社のサービスを導入することで、廃棄物の収集ルートの30〜63%削減、廃棄物発生量の高精度の把握が可能になる。技術開発のほかにも、「グローバル廃棄物指標2022」を発表して世界に発信するなど、廃棄物問題の根本的な解決と啓蒙活動にも注力している。

同社は2021年、欧州イノベーション・カウンシルから300万ユーロの助成金を獲得したことを発表した。この助成金へは欧州38か国から2000社が応募し、投資家などを含む専門機関により64社が選ばれた。同社はこの助成金で、欧州2都市へ新たにスマート廃棄物管理を大規模展開し、捨てるごみの量に応じた処理費用の支払いシステムの開発を進める計画だ。

センサーで各ゴミ捨て場の廃棄物量をリアルタイム管理

センサーで各ゴミ捨て場の廃棄物量をリアルタイム管理

  • 国名:スロバキア
  • 団体(企業)名:Sensoneo
  • 創業:2017年
02. サステナブルな包装材をデザインから在庫管理まで一貫して提供する「Sourceful(ソースフル)」

「GLOBAL BUYING GREEN REPORT 2022」によると、現代の消費者のうち70%が環境について意識しているというデータがある(※2)。そのなかでも、値段が高くても環境に配慮した包装材の商品を購入したいと考える消費者(18歳~44歳)は86%にのぼるという。

2020年にイギリスで創業したSourcefulは、サステナブルなオリジナル包装材をより効率的に提供するプラットフォームを提供している。材料調達のカーボンフットプリント、価格、配送に関するライブデータを一元化したプラットフォームでは、クライアントが自らの予算や希望に沿った商品を選ぶことができる。同じプラットフォーム上で、パッケージデザインから、注文、在庫管理まで一貫してできるのも大きな魅力的のひとつだ。

同社は2022年、海外事業展開と、再生プラスチックの商品活用のため、2千万ドルのシリーズA資金調達を実施した。創業者のWing Chan氏は自身のブログで、「持続可能性、機能、経済性のすべてにおいてWin-Win-Winを実現するとともに、クライアント企業へサステナブルな経済活動への参加機会を提供することに価値を見出している」と、事業拡大の意欲を語っている。

デザインから在庫管理までできるSourcefulのプラットフォーム

デザインから在庫管理までできるSourcefulのプラットフォーム

  • 国名:イギリス
  • 団体(企業)名:Sourceful
  • 創業年:2020年
03. 外食産業の使い捨て容器撲滅を目指す「Pyxo(ピクソ)」

毎年、480万トンから1,270万トンのプラスチックが世界の海に流れ込んでいる。その多くは、ストローや食品容器、スーパーの袋など、使い捨てのプラスチックだ(※3)

2018年にフランスで創業したPyxoのビジネスアイデアは、創業者のBenjamin Peri氏が昼休みのジョギングで目にした使い捨てプラスチック容器であふれたごみ箱から生まれた。

Benjamin氏は学生時代の友人とともに、社員食堂のケータリングサービス会社向けに再利用可能な容器の提供をするビジネスを立ち上げた。新型コロナ感染拡大の影響でリモート勤務が多くなり、ケータリングの需要が落ち込んだ2020年に大きなビジネスチャンスが到来する。

フランス政府が、レストランなどの飲食店での使い捨て容器を2023年1月から禁止する法案を可決したのだ。追い風に乗って大手ファストフード企業をクライアントに獲得し、店内で使用する再利用可能容器と、店舗や輸送、洗浄業者間での容器の追跡ソリューションを提供している。データはリアルタイム管理され、輸送回路の最適化や在庫管理に活用する。消費者が、テイクアウトで容器を持ち帰った場合は、アプリで近場の返却場所を検索でき、異なるファストチェーン店への返却も可能である。同社の再利用可能な容器は、安全基準を満たしたフランス製。食器洗浄機使用に10年の保証があり、使用後はリサイクルできる製品だ。

2021年にPyxoは、フードテック企業と提携してサービスを充実させるために7百万ユーロの資金調達をおこなった。2023年1月現在、Pyxoの容器はフランスの2,000件以上のレストランで使用されているという。今後スタッフを70人増員し、その規模を拡大していく計画だ。

Pyxoの容器データソリューション

Pyxoの容器データソリューション

  • 国名:フランス
  • 団体(企業)名:Pyxo
  • 創業年:2018年

ジェンダー平等は、気候テック加速の要に

紹介したスマート廃棄物管理の 「Sensoneo (センソネオ)」の創業者は女性であり、HolonIQでは、気候テックの女性起業家についても一覧を顔写真付きで紹介している(※6)

国連貿易開発会議のレポートでは、女性起業家は、社会的ニーズに対応するイノベーションを起こす可能性がより高く、女性が主導する企業はより高いROI(投資利益率: Return on Investment)を投資家にもたらすとの調査結果もある。

米アマゾンと米国際開発庁は、ジェンダー平等と気候テックを加速するため、2022年11月に女性起業家を支援する官民パートナーシップ基金「Climate Gender Equity Fund」を設立した。

日本では、政府が2030年までにサーキュラーエコノミー関連ビジネスの市場規模を、現在の約50兆円から80兆円以上にすることを成長戦略フォローアップ工程表で目指しており、日本でのビジネス機会も広がっている(※4)。サーキュラーエコノミーは、地域と密着したビジネスも多く、各種スタートアップ支援策も整備されている今、日本各地で起業のチャンスともいえる(※5)


※1 世界銀行「What a Waste 2.0」
※2 Trivium「GLOBAL BUYING GREEN REPORT 2022」
※3 Natural Resources Defense Council「Single-Use Plastics 101」
※4 日本政府「成長戦略フォローアップ工程表」
※5 経済産業省「スタートアップ支援策」
※6 HolonIQ「2021 Global Climate Tech Women Leaders」

【参照サイト】HolonIQ「Defying gravity, 2022 Climate Tech VC funding totals $70.1B, up 89% on 2021
【参照サイト】HolonIQ「2022 Europe Climate Tech 200」

Edited by Erika Tomiyama

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